「こ」 コーラの限定的用法

  子供の頃、大人がビールを飲むのを見ながら、自分にもああいう風に「ぷはーっ!」と言えるような飲み物がないものかと思った時に、真っ先に思いついたのがコーラだった。というわけで、高校生までの期間、ハンバーガーやらから揚げやら、「ビールが似合いそうなもの」に対して僕はコーラを飲むことでそれを疑似体験していたわけだ。いつかビール山ほど飲むぞ!と思いながら。

 晴れて法律的にいくらでもビールが飲めるようになり、ビールの味に慣れ親しんだ頃に、久しぶりにコーラを飲んでびっくりした。コーラの炭酸は、実はビールよりもはるかに強いのだ。どうして昔はあれだけごくごくとコーラを飲めていたのかが今度は逆に不思議になってしまうほどだった。

 ビールと言う選択肢はオールマイティーだ。

 居酒屋に行けば一番最初に頼むのはビールだし、和食のお店に行っても、頼むのはビールだ。何故か知らないけれど、いきなり日本酒を頼むのは、いくら和食のお店でもダメな気がする。中華料理屋でも、洋食屋でも、その選択肢は基本的に変わることはない。

 だからこそ、というべきだろうか。大人になった今こそ、「コーラを飲むシチュエーション」で飲むコーラはすごくおいしく感じる。

 例えば夏の高校野球の応援。地区大会だとなおさらいい。高校生が頑張っているところでビールを飲むのはなんとも気が引けるのでコーラを飲む。青空、暑い空気の中、痛いくらいの炭酸と、何とも形容のしがたいあの甘さが冷たい流れとなって喉を通っていくのは爽快だ。ビールを飲んでいないことで、なんとなく自分の心も、野球少年と同じくらいに戻っていったかのような感覚がする。

 もう一つの例としては、映画鑑賞があげられる。特に、映画館で見る時は、馬鹿でかい器に入ったポップコーンと、同じように馬鹿でかい器に入ったコーラが一番似合う。

 ビールだともしかしたらトイレに行きたくなるかもしれないし、コーヒーの小さなカップはなんだか寂しい気がする(かといってコーヒーが馬鹿でかい器で来るならいいのかというわけでもないんだけれど)。暗い映画館の中で、ポップコーンの塩気に合わせるかのように飲むコーラのなんとおいしいこと!この時のコーラは、炭酸がガンガンに聞いているものよりも、心持ち氷が溶けて、水っぽくなったもののほうが、映画館の雰囲気とも見事に合う気がする。大人になったらなくなってくる「映画館で映画をみることへのドキドキ」は、この二つの非日常的な食べ物によって回復するような気もする。

 最近ではダイエットだのカロリーゼロだのフレーバーつきだのといろいろなコーラが出ているけれど、基本的にはあの何とも形容しがたい、砂糖をとにかくたくさんぶち込んだ健康に悪いコーラこそが、本当においしいコーラだと僕は思う。ビールだって、ノンアルコールよりもアルコールが入っているほうがはるかに多いのと同じだ。

 子供は大人への階段の代用品としてコーラを飲み、

 大人は子供への回帰の一手段としてコーラを飲む。

 そのためにも、コーラはこれからも変化してはいけない飲み物なのだと思う。

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