小説執筆の四つの魅力

 小説執筆に手を染めた直接のきっかけは、二〇代半ばの頃、小説を書いているバイト仲間の勧めだった。二〇代前半の頃から小説を書きたいという願望はあったが、その頃は自分の手に負えないことのように思っていた。やはり小説を書くには一定の言語運用能力が必要だと思う。私は長い間、学生生活を送っていたため、その間に小説執筆に耐えられる能力が身についたのかもしれない。とはいえ、今でも、小説執筆を楽しむという域には程遠い。小説の執筆は、骨が折れるし、億劫で逃げたくなる。
 しかし、それでも執筆を止めない/止められないのは、それが自己表現の主な手段だからである。音楽、絵、ダンスなど自己表現の手段は他にもあるが、執筆以上により良く自己表現できる手段が見つかっていない。
 小説執筆の魅力の一つは、自分の世界を構築できることや思考を掘り下げられることがある(それらは言語芸術に特有の側面である)。また、小説を書くことは、決して建物の建設のように設計図ありきのものではない。少なくとも、自分にとっては、小説は決められたプロットに従って、エピソードを積み重ねて行けば完成するものではない。執筆は常に予測不可性に貫かれている。そこで執筆者は言語という乗り物に乗って、旅に出るのである。執筆は未知との遭遇に満ちた旅に似ている。それが第ニの魅力である。
 三番目の魅力は自由である。小説は最も自由度の高いテキストである。あらゆる実験が可能であるし、論文のような形式から自由である。内容面も基本的にタブーはない。だから、暴力であれ、性であれ、好きなだけ書くことができる。
 また、最後に作品を通じたコミュニケーションが挙げられる。小説には読者が不可欠である。小説を通じて、自らの主張・美意識などを表明し、読者とコミュニケーションできることは、執筆者にとって最も大きな魅力ではないだろうか。

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