動物メガネ
私は博士だ。
プログラムのバグや古い文学資料と睨めっこしているような博士ではないのである。もちろん研究費について頭を悩ませるようなこともないのである。
どちらかと言えば、赤や青や緑色の奇妙な小動物を子供に分け与える博士に近いのである。時々黄色の動物もあげるかもしれぬ。
そんな私(「わたし」ではなく「わたくし」と読む)が開発しているのはとある特殊なメガネである。
見た目はレイバンのサングラスに近いが、そのレンズには魔法陣のような幾何学模様が描かれておる。ただの模様ではないのである。
このメガネを通して人間を見ると、その姿カタチが様々な動物に見えるのである。
一つ断っておきたいのであるが、これは世間を騒がしているARなどの類では決してないのである!
このメガネはその人の持っている〈速度〉を擬動物化するのである。
擬人化があるのだから擬動物化もあるに決まっているのである。
足の速い人がチーターに見えるとは限らないのである。それは物理的なスピードとはまた異なるものなのである。
確かにその〈速度〉は物理的な速度に影響を与えることもある。そこに関しては更なる研究の余地があることは私も認めるところである。
……君は今ちゃんと「わたくし」と読んでくれたかね。まあいい。
例えば私の優秀な助手はイグアナに見える。
私の研究をいつも邪魔するドクトル・ブラックは茶色いコガネムシに見える。もちろん虫だって動物なのである。
ところで君は、ウサギとカメとどちらの方が足が速いと思うかね。
当然ウサギである。時々努力が云々言ってカメだとぬかすやつもおるがね。
でも私はこう思うのである。カメは泳げばいいのである。
わざわざ陸で勝負しようとしてる時点でウサギは傲慢なのである。
あるいはウサギは陸で勝負する以外の考えを持つことができないのかもしれぬ。
なに?「そもそも勝負しなくてもいいじゃないか」だと。
君はわかっておらぬな。この世にはライオンもおるのだよ。
眠りながら泳ぎ続けるマグロのように、ライオンも闘い続けておるのだ。
闘わずにはいられないのだ。そういう動物もおる。
ところでどれどれ、君はなんの動物に見えるかな。ヘリクツムシじゃないといいんだがね。
ヘリクツムシ?と僕は思った。
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