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第100話(最終回)・2021年 『東京オリンピック!!』

「東京オリンピックでハンドボールを」の悲願が成り、開幕日(男子)となった7月24日は99年前、大谷武一がこの誇りあるスポーツを日本に伝えた日でした。今夏、「伝来100年」となった同じ日から連続100日間に渡った企画の締めくくりは「東京オリンピック2020+1」の特集です——。(文中敬称略)

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〔開幕まで〕
日本オリンピック委員会(JOC)は6月25日女子、7月6日男子の、日本ハンドボール協会が選考した「東京オリンピック2020」代表選手各14人を承認した。

1940年返上の悲運、1964年削除の無念を乗り越え、ついに「東京」の晴れ舞台に日本のハンドボールが起つ。

1次リーグの組み分け抽選は4月1日、スイスで行なわれた。男子は“前哨戦”となった1月の第27回世界選手権(エジプト)に出場(19位)、各国の近況をつかんでいた。

大会周辺は新型コロナウイルス(Covid-19)の感染が収まらず揺れ続ける。「再延期」「中止」論さえ聞こえ始めた3月、国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会は海外からの一般客受け入れを断念した。

6月、国内の観客数も日本政府は「7月11日までに感染対策重点措置が解除される」のを前提に「会場収容人数の50パーセント(ハンドボール会場・国立代々木第一体育館は5250人)」と制限した。

状況は好転しない。開幕15日前の7月8日、4都県の会場、続いて1道1県の会場は無観客と決まる。

7月、外国チームが次々と来日、国内キャンプ地や選手村(東京・晴海)に入るが、その動静は都内3公式練習会場(文京区スポーツセンター、港区スポーツセンター、品川区総合体育館)を含めてほとんど伝わってこない。

7月18日、日本男女はフランス男女のキャンプ地、山梨・甲州市で「ジャパンカップ2021」を行なうが無観客だ。

7月23日夜、国立競技場(東京・新宿区)の開会式。

テレビ画面からハンドボール選手の笑顔を見つけ出し愛好者、ファン、オールドタイマーはようやくオリンピック・ハンドボールを“実感”する。

組織委員会側のハンドボール責任者となるスポーツマネージャーは国際ハンドボール連盟(IHF)本部(スイス)で勤務の経験を持つ稲福貴史、会場運営のベニューマネージャーは福地和彦(前・日本協会副会長)が務めた。

〔日本男子・戦いのあと〕
7月24日、注目の初戦で2019年、21年と世界選手権連覇を果たしているデンマークに挑戦した日本は、ケガによる主力の戦線離脱もあり、流れをつかめないままスタートから5連続失点。このまま前半だけで25点を奪われ、トータルでも47失点と相手にオリンピック歴代最多得点を許す完敗(30-47)で、33年ぶりのオリンピックは幕を開けた。

気持ちを切り替え、26日はスウェーデン(26-28)、28日はエジプト(29-33)に食い下がるも、勝機を見出すまでにはいかず3連敗。必勝を期していた30日のバーレーン戦も30-32と競り負け、この時点で自力で1次リーグ突破(8強進出)できる可能性はなくなった。

相手の動向と自らの条件クリア次第で、かすかに1次リーグ突破のチャンスが残る8月1日のポルトガル戦。気迫のこもったプレーで一進一退の戦いを演じ、31-30で今大会初勝利をマークしたが、1次リーグ突破の条件を満たすことはできず、1勝4敗、1次リーグB組6位で「東京2020」の戦いは終了。大会規程で11位となった。

〔日本女子・戦いのあと〕
女子は7月25日、熊本世界選手権(2019年)の女王・オランダに21-32と圧倒されての船出だったが、27日、ヨーロッパの強豪・モンテネグロと互角に戦い、再三のピンチをしのいで29-26で勝利。1976年モントリオール大会でのカナダ戦以来となる、45年ぶりの白星をつかんだ。

強敵からの勝利で1次リーグ突破への道が開けたかに思えたが、29日は韓国、31日はアンゴラに、勝機をつかみながらミスや相手GKの好守に苦しんでモノにし切れず24-27、25-28と3点差で惜敗。

まだ地力での1次リーグ突破のチャンスは残されていたが、リーグ最終戦の相手はここまで4連勝のノルウェー。金メダル候補の一角を相手に諦めることのない奮闘を見せたものの、世界トップクラスとの力の差は埋めがたく、25-37と後退して、1次リーグ(A組)6位、最終順位12位で45年ぶりの舞台は幕を閉じた。

〔金メダル争い〕
男子は1次リーグA、B組ともに全勝チームのない混戦模様。A組からはフランス、スペイン、ドイツ、ノルウェー、B組からはデンマーク、エジプト、スウェーデン、バーレーンが決勝トーナメントに勝ち上がった。
決勝トーナメント1回戦は、ヨーロッパ勢が強みを見せる中、エジプトがドイツを下し、アフリカ勢初となる準決勝に進出。準決勝はフランスがエジプトを、デンマークがスペインをいずれも27-23で上回り、決勝は2016年のリオ・デジャネイロオリンピックと同じ顔合わせとなった。

決勝は4大会連続でファイナリストとなったフランスが強固なDFを武器に先行。後半立ち上がりには16-10と6点リードを奪った。前回王者で1月の世界選手権でも2連覇を達成していたデンマークはこのままでは終わらず猛追撃。1点差に迫り、残り1分を切って仕掛けた7人攻撃は実らず、25-23でフランスが2大会ぶり3回目の金メダルを手にした。

女子1次リーグは、ノルウェー(5勝)、オランダ(4勝1敗)が抜け出し、モンテネグロ、韓国が続いたA組に対し、B組は3勝1分1敗で並んだスウェーデンとロシアオリンピック委員会(ROC)、フランス(2勝1分2敗)、2勝3敗で並んだスペインを対戦間成績で抑えたハンガリーが決勝トーナメントに進んだ。

決勝トーナメント1回戦は前大会優勝のROCがモンテネグロ、同3位のノルウェーはハンガリーを振り切り、準決勝へ。スウェーデンは唯一、ヨーロッパ勢の争いに割って入った韓国を突き放し、フランスは2019年、熊本世界選手権の女王・オランダに快勝した。準決勝はともに僅差の接戦。大舞台での経験を活かし、要所を占めたROC、フランスが金メダルへの挑戦権を手にした。

男子同様、前回大会のリターンマッチとなったフランスは。終始DFの安定が光り、後半8分過ぎから6連取で15分22-16。この優位を活かし、初のオリンピック女王に。

フランスはソ連、ユーゴスラビアに次いで、史上3ヵ国目となるアベック優勝を成し遂げた。

〔新たなる輝き〕
オリンピック後、日本女子代表は休む間もなく9月の第18回アジア女子選手権(ヨルダン)で2位となり、11月の第25回世界女子選手権(スペイン)へ駒を進め、東京オリンピック代表選手3人を残す“新チーム”で11位(参加32ヵ国=初)となった。監督はアジア選手権が古橋幹夫、世界選手権はパリ・オリンピック(2024年)に向けて楠本繁生に采配が預けられた。

伝来100年目となる2022年7月24日。バーレーン・カリファスポーツシティの第17回アジア男子ジュニア選手権決勝戦のコートに日本の雄々しい姿があった。地元バーレーンに24-20の快勝、初優勝(注・日本時間は7月25日午前2時)。

新たなる輝き。素晴らしい日に若き日本代表によって希望に満ちた光が放たれた——。(完)

全100回、ご愛読ありがとうございました。


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