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海外スタジアム・アリーナに学ぶ、現地観戦体験の価値を高めるテクノロジーの活用事例

海外のスタジアム・アリーナのトレンドは、アリーナ建設ラッシュの日本においても非常に参考になる事例が多く存在します。
前回の記事では、海外のスタジアム・アリーナにおけるDXのトレンドについて、主に小売店でのレジレスサービスの事例を中心にご紹介しました。

今回も引き続き、海外のスタジアム・アリーナに導入されているサービスの中から、ファンエクスペリエンス強化の参考となる、テクノロジーを活用してより試合を楽しんでもらうためのサービスを紹介していきます。


スポーツは配信で観戦した方が見やすい!?

スタジアムでの現地観戦経験のあるあるのひとつとして、応援しているチームがフィールドの反対側で得点や活躍をしたシーンで、視界が悪くプレーを見過ごしてしまった、ということがあります。
筆者もその経験をしたことがあり、そんな時にはふと「やっぱりテレビ観戦が一番だな」と感じることがあります。

どうもこのように感じているのは筆者だけでは無いようです。
MMD研究所が発表している「スポーツ観戦/視聴に関する実態調査」によると、最も興味のあるスポーツを配信で観戦/視聴をした理由として「現地で見るより見やすいから」が20.4%と、5人に1人が現地でのスポーツ観戦よりも配信でのスポーツ観戦を選んでいます


(筆者作成:引用元 MMD研究所)

5Gの活用で変化するライブ体験

2023年10月、NFLの公式5Gパートナーであるアメリカの通信大手ベライゾン・コミュニケーションズは、同社の高速5Gネットワークサービスを全米30カ所のNFLスタジアムすべてに設置完了したと発表しました。これにより、同サービスに対応した5Gスマホを持つユーザーはスタジアムで高速大容量通信ができるようになりました。

先行して整備をしたSoFiスタジアムでは、2022年2月に開催された第56回スーパーボウルにて、スタジアムで現地観戦するファンを対象に、NFLのチケットホルダーアプリを活用し、同時に最大7つの異なるカメラアングルから試合の様子を見られたり、リプレイを見られたりするサービスが提供されました。

同社のサービスは、テクノロジーの活用により、観客のライブ体験を大幅にアップグレードさせ、現地観戦体験の価値をさらに高める基盤を築いた事例のひとつと言えます。

試合をより面白くするLEDガラスコート

2023年7月に開催されたFIBA U19女子バスケットボールワールドカップでは、ASB LumiFlexと呼ばれる映像表示機能を備えたLEDガラスコートで試合が行われました。

このLEDガラスコートは、国際バスケットボール連盟(FIBA)、国際ハンドボール連盟(IHF)、世界スカッシュ連盟(WSF)から最高レベルの競技用コートとして認定されています。(ちなみに、Bリーグでは2016年の開幕戦でLEDガラスコートが使用されました。使用された製品はASB LumiFlexではありませんが、プロバスケットボールの試合としては、当時世界で初めてLEDガラスコートが使用されました。)
試合前・ハーフタイム・タイムアウト時・試合後と、競技を行っていない時間帯のエンターテイメント性強化に加え、プレーヤートラッキングの機能により、リアルタイムな統計データをフロアに表示させたり、アウトオブバウンズギリギリの判定でボールがどこに触れたかを表示させたりすることができ、ファンエクスペリエンスの強化につなげることができます。ビジネス目線では、スポンサーシップやマーケティングの追加オプションとして活用できます。

このサービスは、一つのアリーナにて複数競技の開催を容易にできるようになる点も特徴のひとつです。アリーナスポーツと言えば、バスケットボール、バレーボール、バトミントン、体操や武道など、多岐にわたります。体育館の専用コートでない限り多様なスポーツで共有することが一般的で、だからこそ当たり前なのが無数に錯綜した各競技のコートラインです。それがこのサービスにより、競技毎に必要なコートラインだけを表示させることができます。その結果、国内のプロ興行では、他競技のコートラインを目立たないよう上からテープで隠す運用をしていることもありますが、このサービスの導入により、そのような設営の手間を減らすことができ、床に張られた多重のテープによる選手の転倒リスクの軽減に繋がります。また、ファンもより競技に集中することができます。FIBAの会場・設備責任者のバート・プリンセン氏も、ドリブルの音に至るまで堅木の床とほぼ同じ感触があると述べています。

国際試合やプロスポーツ以外の導入実績として、イギリスのオックスフォード大学の体育館に導入されていますが、国内では一般の体育館での導入実績はまだありません。LEDガラスコートの寿命は70年と長く、メンテナンスも簡単で防火・防水加工も施されていることから、建物自体の寿命等も考えると、今後新しく建設されていくアリーナにおいては、導入を検討すべきサービスのひとつと考えます。

今後のファンエクスペリエンス強化につなげるサービス

ファンエクスペリエンスの強化においては、チームが何をファンに提供したいかという考えも大事ですが、何よりファンが何を求めているかが大事になると思います。

CrouwdIQは、画像や動画データから群衆分析を行うサービスで、NFLではミネソタ・バイキングスや、ジャクソンビル・ジャガーズで利用されています。このサービスでは、スタジアム・アリーナに設置された高解像度カメラの映像にコンピュータービジョンとAIの技術を活用することで、来場者属性や行動を分析することができます。例えば、試合が行われているときに来場者が何をしているか(ビジョンを見ているのか、スマホを見ているのか、直接試合を見ているのか)や、チケットの購入者情報だけでは十分に分からなかった、ブロックごとの年齢や性別等の観客層、ファンの属性(観客が身に着けているグッズから判断)などの分析が可能となります。また、試合前後でどれくらいの時間滞在しているのかを座席ごとに理解することもできます。これらの情報を分析することで、スタジアム内での演出や、ビジョンの活用方法など、ファンエクスペリエンスの改善につなげることができます。

現地観戦体験の価値を高めるために

今回は、テクノロジーの活用によって現地観戦をより楽しくするためのサービスを中心に紹介しました。
昨今は実際に会場に足を運ばなくても、ライブ配信によって様々なスポーツの観戦を楽しめるようになりましたが、スタジアム・アリーナに様々なサービスを導入することで、単なる試合観戦だけではない、より良い観戦体験価値を提供することができます。
前回のnoteでも述べたとおり、これらのサービスは「利用者が何を求めているか」を具現化したサービスであり、また、利用者が何を求めているかは競技の種類やスタジアムの構造、地域の特性等によって異なってきます。
そのためにもまずはCrowdIQのようなサービスを使い、利用者の行動を分析・可視化していき、そこで得られた課題やニーズに対し、前回と今回で紹介したテクノロジーの活用することが、より良い現地観戦価値を高める事に繋がると考えます。

次回以降も、スタジアム・アリーナに関して様々な角度から潮流を追っていきたいと思います。


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