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スポンサーシップ事業における近年の変化~スポンサーシップからパートナーシップ~

スポーツの試合観戦をするとき、試合会場に設置されている看板やユニフォームに入っているスポンサー企業のロゴをご覧になったことがあると思います。スポンサーとは、英語起源で後援者、広告主と訳されており、その対象はスポーツ、イベント、企業などさまざまなところで行われています。身近なところではテレビ番組の番組開始時やCM前後に「この番組はご覧のスポンサーの提供でお送りしています」と企業ロゴとともに紹介しているものを見たことがあるかと思います。
スポーツの現場でも、古くからスポンサーシップは行われており、各球場やスタジアムにスポンサーがついています。例えば、侍ジャパンのユニフォーム左袖の部分には三菱UFJ銀行の企業ロゴが、AKATSUKI JAPANのユニフォーム腹部にはSoftbankの企業ロゴが入っています。
上記は、ユニフォームや看板に企業ロゴを掲示するために対価として協賛金を支払うスポーツスポンサーシップの中でもスタンダードな広告モデルですが、その他にも企業が、スポーツチームに対して公式用品を提供し、物品提供をスポンサー料に換算するVIK(Value In Kind)という方式などスポンサーシップの形は多岐にわたります。

このように企業がスポーツチーム団体に支援を行うことをスポーツスポンサーシップと言い、スポーツチームの事業の中でも、収入面で大きなシェアを持つ事業となっています。また、このスポーツスポンサーシップですが、近年、企業からの支援が、広告露出や地元の支援が目的とする「スポンサーシップ」から課題解決や価値共創をしていく「パートナーシップ」へと変化し、企業とスポーツ団体が新しい関係を構築するようになりつつあります。


スポンサーシップについて

スポンサーシップの起源は、古代ローマ時代に開催された戦車レースにおいて、騎士が自身をサポートする商人を表す色を身にまとったこととされています。
そんなスポンサーシップですが、スポーツ団体側にとっては、協賛金や物品提供により当該スポーツの振興・発展、チームやアスリートたちの強化に充当でき、企業側にとっても対価として、ブランドや企業名の露出、イメージの向上などさまざまなメリットを提供されるため、双方にとってWINーWINな関係性であることが多いと考えられています。
もちろん、スポーツ団体や競技そのものの発展を支援するという考えのもと、黎明期から長年スポンサーするという事例もありますが、現在では、協賛金を支払うことでそれに相当する権益を提供されることが前提のスポンサーシップが一般的となっています。

スポーツスポンサーシップは、楽天がバルセロナへスポンサーシップをしたり、パナソニックが長年オリンピックにスポンサードしていたりすることなどから、スポンサーシップは巨大な資金力を持つ大企業のみが可能な広告プロモーションとも思われがちです。しかし、スポンサーとなる企業、スポンサーを必要とするスポーツ団体の多様化も進み、契約規模がよりライトなスポンサーシップも増えてきています。
 また、上記の通り、協賛金の対価として権利を提供するという考えのもと、広告プロモーションの要素だけではなく、SDGsに一緒に取り組む、インナーブランディングに活用するなどスポンサーシップの内容も多様化されてきています。

マーケティングとして活用されるスポーツスポンサーシップ

さらに、スポーツスポンサーシップは、取組可能な対象企業や対象事業領域が多岐にわたるため、多くの企業の参加が可能であり、企業の成長を促すマーケティングの鍵とも言えます。

例えば、レッドブルは新しくエナジードリンク業界に参入する際、MTBやスカイダイビング、サーフィンなどのエクストリームスポーツを活用したマーケティングを行ったことで有名です。また、コカ・コーラは1928年の第9回アムステルダム大会からオリンピックに協賛していますが、当時アメリカでは爆発的な人気を誇っていたコカ・コーラの海外展開を目指すにあたり、国際大会であるオリンピックがブランドの認知度向上につながると目をつけてスポンサードを始め、現在まで90年以上関係性が続いています。


スポーツビジネスにおけるスポンサーシップ事業

日本のスポーツビジネス界においてスポンサーシップ事業は非常に重要です。2022年のJ1リーグ所属クラブにおいて収入の約46%、B1リーグ所属クラブにおいては約57%をスポンサーシップ事業が占めており、クラブ経営に欠かせない収入源となっています。さらに海外の例を見ても、NFLなど放映権が高騰しているアメリカのスポーツは収入における割合が少ないですが、こちらも放映権が高いことで知られるイングランドプレミアリーグにおいては約35%を占めています。
チケット事業放映権事業に関して書いた記事でもお話ししましたが、スポーツ団体の収入は天候による試合中止・延期やチーム成績に比例する人気など、コントロールできない要因に左右されやすい部分があります。その為、スポーツ団体の経営において、スポンサー事業での収入はそのような不確定要素のない安定した収入源となります。

参考:JリーグBリーグの決算情報


スポンサーシップの目的

それでは企業がスポーツ団体とスポンサーシップ契約をする際に、企業はどのような目的を持っているのでしょうか?
アメリカのコンサルティング会社IEG社によるとスポンサーシップをする目的は14個あります。

  1. 認知度・知名度の向上

  2. ブランドロイヤリティの向上

  3. ブランドイメージの作成・変更・強化

  4. ブランドの特性を示す

  5. 販売促進

  6. 顧客のおもてなし(接待)

  7. 小売店の来店促進

  8. 小売業者・ディーラー・流通業者への動機付け

  9. 地域社会への責任を示す

  10. 狭い市場へ焦点を当てる

  11. 商品化の機会

  12. 従業員の採用・維持

  13. 競合他社との差別化

  14. 競合他社のより大きな広告予算との競争(スポーツスポンサーシップは費用対効果が高い)

引用:IEG'S GUIDE TO SPONSORSHIP

以上のような目的が挙げられていますが、スポーツスポンサーシップでは、上記の14個の目的のうちの複数の目的を1度のスポンサーシップで達成することが可能です。

スポンサーシップからパートナーシップへ

前述の通り、近年のスポーツスポンサーシップ市場では、広告宣伝型のスポンサーシップから課題解決・価値共創型のパートナーシップという言葉が多く使われるようになっています。

https://www.jleague.jp/img/aboutj/document/jnews-plus/011/vol011.pdf

この変化は、2008年のリーマンショック以来の動きと言われています。リーマンショックによって企業は厳しい環境の中で経営することを余儀なくされましたが、各スポーツ団体のスポンサーをしている企業も例外ではなく、ユニフォームスポンサーやスタジアム看板広告の価格、ネーミングライツなど、スポーツ団体の持つ広告媒体価値に対して見直されるようになりました。
そこで、企業からお金をもらい広告露出のみを提供する以前までのスポンサーシップから、スポーツ団体と企業が協働して価値を共創していくパートナーシップへの変化がみられるようになりました。


例として、2018年に開幕したアメリカのラグビーリーグMLRとルクセンブルクに本社を置く大手IT企業のGlobant社が2023年に締結した3年契約のパートナーシップを紹介します。

MLRは6シーズン目を終え、観客動員数が前年比18%増、自前OTTプラットフォームの「ラグビーネットワーク」の加入者数は前年比70%増(計17万人)と、いまだ小さい市場ではありますが、着実に成長をしています。一方、Globant社はリーガ・エスパニョーラやFIFAと提携をしています。
こちらのパートナーシップの一環として、Globant社は、MLRから提供されるデータを利用して、MLRが運営するOTTプラットフォームの再構築など技術的な取り組みを行う予定となっており、MLRファンはさらに質の高い体験を享受できるようになります。
このパートナーシップは、2031年にアメリカで開催されるラグビーワールドカップでのビジネス参入も視野に入れたものと言われています。ラグビーワールドカップは、2019年の日本大会では約6,500億円の経済波及効果を生んでおり、北米でのラグビーの成長にも注目が集まっています。また、直接的ではありませんが、このパートナーシップにて大きな成果を残せば他のスポーツリーグとの提携も期待できるなど様々な面での効果を期待してのパートナーシップと言えるでしょう。

このように、広告露出がメインだった一方的なスポンサーシップではなく、双方向に価値を創出するパートナーシップが、近年ではスポーツ団体と企業の主な関係性となってきています。

スポンサー企業の変化

世界の国際大会のスポンサー企業を見てみると、中国やインドの企業が増えてきています。年々スポンサーからの協賛額は増えているため、大きな国際大会のスポンサーになる為には、資金力も必要となってきます。


スポンサー比較(※現在カタールエナジー社はFIFA Partnersから外れている。)

オリンピックを見てみると1業種1社しか付くことのできない最高位のスポンサーTOPには2017年からアリババ社が、2019年には蒙牛乳業がコカ・コーラと合同でTOPスポンサーとなっています。合同でのTOPスポンサーは史上初の試みとなりました。
次にサッカーW杯を見てみます。以下に2014年ブラジル大会時のスポンサーと2022年カタール大会時の「FIFA Partners」と「FIFA World Cup Sponsors」をまとめました。
カタール大会開催時の人権問題による欧米企業のスポンサー敬遠という問題はありましたが、最上位のパートナーで、1業種1社のみ契約可能な「FIFA Partners」では、2014年のブラジル大会から2022年のカタール大会への変化で、新しく開催地であるカタールの国営企業や中国の不動産大手企業が契約をしました。
その次の位の「FIFA World Cup Sponsors」では、中国、インド、シンガポールの企業が新たに名を連ねました。「VIVO」社や「Hisense」社は中国の成長著しい企業であり、「BYJU’S(バイジュース)」社はインドの教育テクノロジーの企業、「crypto.com(クリプトドットコム)」社はシンガポールの暗号資産企業であり、これらを見ると大きな国際大会となるスポンサー企業の変化を見てみると社会情勢を反映しているようにも見られます。

終わりに

ここまでスポンサーシップ事業に関してお話してきました。スポーツ試合観戦をする際に、選手のプレーを見ることは多いと思いますが、前述の通り、看板やユニフォームロゴを見てスポンサードしている企業を見たり、スポンサー企業の変化を見るとスポンサー企業の意図や戦略が見えてくることもあり面白いものです。また、スポンサー企業の露出には看板やユニフォームロゴはもちろん、スポーツチームやスタジアム・アリーナのネーミング、スタジアム・アリーナにおけるブース運営など様々な方法があります。是非皆様もスポーツ観戦に行く際には、企業が関わっている部分を探してみてください。
この記事をきっかけにスポーツとスポンサーについて少しでも興味を持っていただけたら幸いです。改めて、記事をご覧になっていただき、ありがとうございました。


おまけ

NBAのチーム、インディアナ・ペイサーズのユニフォームロゴに注目が集まっています。アメリカのスタートアップ企業であるスポークノート社がペイサーズのユニフォームスポンサーになったのですが、注目を集めている理由はユニフォームに企業ロゴやサービスロゴが書かれているのではなく、QRコードが書かれている点です。アメリカではQRコードのみが表示され話題になったスーパーボウルのテレビCMなどの例から、QRコードを活用した取り組みが多く行われており、懸念点はあるものの、非常に興味深い取り組みです。


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