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基礎知識の上にエコーという新しい手法を取り入れて 新しいスタンダードを作り上げる

宮田 徹 相模原協同病院リハビリテーション科 理学療法士

相模原協同病院 医療技術部 リハビリテーション室で理学療法士として活動されている宮田徹先生は、エコーを駆使したリハビリテーションを行っています。ご自身が野球選手だったときに故障をした経験から理学療法士を志したという宮田先生。理学療法士にとってのエコーとは。また、エコーを活用することで見えた新しい世界とは。その可能性についてじっくりとお話を伺いました。

――まずはじめに、宮田先生のプロフィールを伺いたいと思います。宮田先生とスポーツとの関わりを教えてください。

宮田徹(以下宮田):私とスポーツとの関わりですが、大学までずっと野球をやっていました。ポジションはピッチャーです。もともと理学療法士という仕事には漠然と興味はあったのですが、やはり野球も続けたいと思って、順天堂大学のスポーツ健康科学部健康学科に進みました。

それで、よくある話ではありますが、大学の授業でバレーボールをしているときに、スパイクを打ったあとに相手選手の足に乗って、転倒してしまいました。足関節捻挫でしたが、結構、ひどく捻ってしまい、ちゃんと動けるようになるまで3・4カ月かかりました。今振り返っても、かなり重傷だったんだな、と思います。そのケガが原因で足関節が一発でグラグラになってしまいました。

IMG_7689 トリミング

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――今の立場になって当時の治療の過程などを振り返ってみたときに、こうしておけば良かったと思う部分はありますか。

宮田:そうですね。いちばん感じるのは自分自身も知識がなかったので、何をどのくらいやれば良いのかわからない、というのが大きかったです。もちろん当時もトレーナーさんや理学療法士さんにみてもらうことはありました。しかし、自分にもっと知識があれば、トレーナーさんや理学療法士さんの言っていることがもっと理解できたと思いますし、動けるようになるまで3・4カ月もかかることはなかったのではないかと思います。

――現在お勤めの相模原協同病院では、どのような種目のスポーツ選手の治療をすることが多いのですか。

宮田:相模原協同病院はスポーツ外来がありますので、野球、ラグビー、サッカーをメインに、トップ選手たちを診させていただく機会があります。やはり野球は肘、肩の故障が多く、ラグビーでは外傷で、肩の脱臼や膝の靱帯損傷などが多くあります。サッカーも外傷は多いのですが、自分が関わったなかでは比較的重症な選手をみることが多く、筋肉というよりは骨折や半月板、靱帯などのケガが多いです。

――同じ部位でも、スポーツの種目によって症状や重症、軽症といった違いはあるのですか?

宮田:まずは、ぶつかったり捻ったりした時の受傷、つまり「外傷」の問題と、使いすぎの問題、いわゆる組織への過負荷による「障害」の問題の二つがあると思います。外傷といっても単純ではなく、組織への過負荷が生じやすい動作、つまりオーバーロードがあったうえでの外傷という視点も重要に思えます。たとえばサッカーで故障の多い下肢で言えば、組織への過負荷でコンディションや動作が万全ではない状況で、試合中の疲労なども加わって大きな外傷と至ってしまう。

スポーツ種目によって怪我に特徴はあります。野球選手の肩肘の痛みに関しては、外傷よりは組織への過負荷が日常的に生じ、痛みをだす。繰り返しの負荷による「障害」と言えると思います。

――そうした繰り返しの負荷については、どのようにアプローチされていますか?

宮田:繰り返しの負荷がかかっている部分については、やはり動きを変えていくことは一つの視点として重要かと思います。外傷が生じた場合も、潜在的な機能不全、身体がうまく動かせなくて力が入りにくい、ということが重なり合って外傷が起こることがある。ですから、ただ患部の治療を行うだけではなく、それと平行して繰り返しの負荷をどうやって減らすかを考えて、提案していくことが大切だと思っています。

私たちが超音波診断装置(以下、エコー)を使ってリハビリテーションをしていますが、患部の治療だけではなく、関連する動きや身体機能を考えてさまざまな問題に対処しています。

宮田先生とエコー

――なるほど、エコーを使ったリハビリテーションについて、もう少し詳しく教えてください。

宮田:エコーは超音波によって身体組織の内部が見える機器です。エコーは当ててすぐ身体内部が見えるため、運動に伴う身体内部の変化が評価できます。また、肩の筋肉がうまく動かないときにエコーを見ながら運動療法を展開していく。すると筋肉がうまく動いてくるということを経験します。ピンポイントで評価や運動療法ができる。これはエコーを使ったリハビリテーションの強みだと思っています。

――エコーを使うことで、選手自身も身体内部をリアルに見ることができますから、選手の身体への理解も深まりますね。

宮田:まさしく選手からはそういう意見を多くいただきます。エコーでは、細かい筋肉の動きを見ることができるので、エコーを見ながら選手に動きを指導することがあります。

たとえば、選手に肩の筋肉をエコーで見てもらいながら運動してもらい、動かない部分を確認してもらいます。エコーを見ながら動かし方を変えると動いていなかった部位が動くことがあります。そうすると、動かしている感覚が変わることがあります。選手たちも、「あ、こんな感覚はじめてです」と言ってくれることも多いです。動きがわかる、使っている筋肉や部位も細かくわかる。目に見えるということは、こんなに大事なんだということを、エコーを使ってすごく感じています。

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――ほかにエコーを使うことで見えてきたことはありますか。

宮田:私たちは末梢神経をテーマにしてリハビリテーションを行っています。「エコーを使うと、筋線維だけではなく、末梢神経も良く見えます。そのため、エコーを見ながら痛みを出している組織を探していくと、それは筋肉ではなくて、末梢神経だった。こういうことが実際のリハビリテーション場面では意外と多くあると感じています。エコーを使うようになってすごく面白いと感じているのが、この末梢神経です。

――つまり、筋肉の使い方だけではなく、末梢神経が圧迫されているとか、末梢神経がこう動いているから痛みが出ていた、ということがわかってきたということでしょうか。

宮田:そういう可能性も出てきた、ということですね。もちろん痛みの原因は〝これ“とひとつに決めることが難しいこともあります。さまざまなものが複合して故障が起こっています。しかし、今まで認識されていなかった以上に原因は末梢神経の痛みだった、というものが多いと感じています。

――なるほど、それもエコーを使うことで見えてきた、新しい知見ですね。

宮田:はい。ただ、現状のリハビリテーションが大きく変わるわけではありません。先人たちが素晴らしい効果を出してきたことの解釈として末梢神経をベースに考えると辻褄が合うと感じています。末梢神経をベースとした視点に気づかせてもらったのは、エコーはもちろんのこと、一緒に患者をみている理学療法士の河端将司先生や整形外科医の宮武和馬先生をはじめとする医師の方々のおかげです。

――結果的に行うリハビリなどは同じだけど、それが神経の痛みだと説明がつく場合がある。それがエコーによってわかるようになったということですね。

宮田:エコーによって細かい原因がわかるようになっていくと同時に、これまで治療やリハビリテーションでやってきたことを可視化して証明できるようになった、というイメージですかね。そうやって整合性がとれていって、スポーツ選手のケガの治療やリハビリだけではなく、予防にもつなげることができる可能性がある。そう信じて頑張っています。

――エコーを使うことで見えた、理学療法の未来について教えてください。

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宮田:私たち理学療法士は身体運動を扱う仕事ですので、関節や筋肉の動きを目で確認することができるのは、まさにエコーの良さだと思います。そのために、解剖学や生理学、運動学など基礎医学分野の知識が重要です。これらの知識が深くなるほどエコーで可視化できることが本当に面白く思えます。

そのうえで、先ほども触れましたが末梢神経への対応が理学療法の新たな未来に重要な鍵を握っていると考えています。「複数の悪い筋肉や痛い筋肉のもとをたどると同じ末梢神経の支配領域だった」とか、「痛みの領域がある末梢神経の分布と一致した」ということは多いです。もちろん我々だけでは末梢神経の痛みに対応することはできませんので、医師とともにエコーを使いながら病態解釈やリハビリテーションを進めることが重要と思います。

――根本的な痛みや動きの改善につながるわけですね。そうなると、現在は主に治療やリハビリに使われていますが、それがどんどん広がって、さまざまなスポーツに使われていくようになるかもしれませんね。

宮田:普及についてすごく考えています。若手医師に対してエコーを啓蒙していこうというSMAPという医師の会があるのですが、その理学療法士版として「STEP」(Sonography for Therapeutic Education Project)という会の立ち上げに関わらせていただきました。まだオンラインでしか開催できていませんが、こうした会を通して、もっとエコーを使える仲間たちを増やしていきたいと思っています。

――あらためて、スポーツのケガや故障などを減らすために、エコーを使うことで見えてきた可能性について教えてください。

宮田:そうですね。これは結構難しいことなんですよね。治療やリハビリテーションであれば、エコーで動きの悪いところを見ながら改善する方法を考えていけます。ただ、予防となると、レベルによっても違いますから、残念ながら一概にエコーを使ったから変わる、というものでもありません。

たとえば、今は情報がすごく溢れていますよね。誰でもYouTubeなどを使えば、トップアスリートのトレーニング方法を知ることができる。でも、子どもがそれをやってしまうと、成長途中の身体ではが故障につながってしまうことがあるわけです。

ですから、予防という観点で言えば、最も大切なのは、やはり地道に教育や啓蒙を行うことで、そこで正しい知識を得て、正しい身体の使い方をすることを広めることだと思います。

たくさんの情報を得れば得るほど、選択肢が増えるわけです。そのなかで、今の自分に合ったものを選択すること。たとえば整形外科で手術することになったとき、「この手術をするとこういうメリットがあります、でもこういうデメリットも考えられます。どうしますか、手術をしますか、しませんか」と説明されるはずです。トレーニングでここまで説明するのは極端かもしれませんが、自分のトレーニングの方法や内容も含めて、さまざまな情報の中から、ちゃんと自分に合ったもの、自分の身体に合ったもの、成長に合ったものを選択できるようになること。選択できるための知識を教育していくことが、ケガや故障の予防につながるのだと思います。

そして、その手段のひとつとして、エコーが使われるようになればいいですね。エコーの良いところは、見てリアルタイムにわかるところ。それは選手がリハビリやトレーニングに取り組むモチベーションになると感じています。

――最初のお話の部分につながりますね。宮田先生が故障された際に感じた、もっと知識があったら違う結果になったかもしれない、という思い。知識と予防がつながっている。

宮田:私は体育大学生でしたから、現役で野球をやっているときでも、ある程度身体についての知識をもつことができていました。しかし、それでも足りなかったわけです。狭い知識からの判断となってしまい復帰に時間がかかりました。

トレーナーや理学療法士だけではなく、スポーツ選手や選手の周囲にいるサポートしてくれる人たちに知識が深まれば、今よりもケガや故障は減ると思いますし、パフォーマンスを上げる効率の良い動きを引き出すことができるのではないかと思っています。

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――現場の指導者やマネージャー、ひいては選手自身も身体についての知識が得られれば、もっとパフォーマンスも変わっていくのかもしれません。そのひとつのきっかけとして、この「スポーツ医学検定」というものを活用していただけるといいですね。

宮田:そうですね。もう30年ほどの歴史をもつ、「スポーツ選手のためのリハビリテーション研究会(ARFA)」で、それこそ先人の方々が築き上げてくださった基礎から学ぶ、というテーマに取り組んでいます。そのなかで私が感じるのは、やはり基礎が間違いなく重要ということ。基礎知識があるからこそ判断できる。私にとってはエコーとはスポーツ選手が行っている最新のトレーニングのようなものです。新しい手法なので手探りではありますが基礎知識と照らし合わせることで判断することも多いと感じています。

スポーツ医学検定でスポーツに関する基礎知識を学び、世の中のトレーニングやリハビリーテンションの良し悪しを選手や周囲の方が判断できる世の中になってくればいいな、と思っています。

<編集後記>
エコーという手法は、選手にとってかゆいところに手が届く、魔法のように感じました。でも、それもきちんとした知識がなければ、宝の持ち腐れ。
宮田先生の「基礎的な知識があって、そこにエコーを加えることで新しい取り組みができる」という言葉はとても響きました。人の身体を扱うからこその探求心。理学療法の新しい未来を切り開く宮田先生の取り組みが広がり、今よりもさらにケガや故障をする選手が減ったり、リハビリから元気に復帰する選手が増えることを祈っています。

(インタビュー・文:田坂友暁、編集:田口久美子)

◆プロフィール◆ 
相模原協同病院 医療技術部 リハビリテーション室 主任 理学療法士
2006年 順天堂大学スポーツ健康科学部卒業
2010年 医学技術学院 夜間部理学療法学科卒業
2015年 首都大学東京大学院人間健康科学研究科ヘルスプロモーション学域修了

宮田先生顔写真


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