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【Doctor Tのスポーツ医学】心に留めておきたい呼吸と運動のこと

 こんにちは、Doctor Tです。寒くなり咳が出ている人も多いのではないでしょうか?今回は運動と呼吸の問題についてお話しします。

 運動をした時の息切れにはたくさんの理由があります。運動不足ももちろんその一つですが、今回は喘息のような症状(咳や息苦しさ)について説明します。

喘息は息の通り道(気管支)が狭くなる病気
 喘息は、外部からの刺激により、息の通り道(気管支)が狭くなることによって起こる呼吸器の疾患です。体の中で首を絞められている状況というとイメージがつきやすいかと思います。運動時に誘発される同様の病態があり、「運動誘発性気管支狭窄(きかんしきょうさく)」という名前がついています。

呼吸器問題を抱える選手が多いスポーツ
 スポーツ選手の中で、ウィンタースポーツ、水泳、持久耐久競技の選手はこういった呼吸器問題を抱えている人が多く、エリートアスリートのほうがリスクが高いです。喘息の吸入を使っている選手の割合は、以下の通りです。(Fitchら2021年)

夏の競技:1位トライアスロン、2位自転車、3位水泳
冬の競技:1位クロスカントリー、2位ノルディック複合、3位スピードスケート

スポーツの特徴にその原因がある
 なぜかというと、気管支の上皮細胞がダメージを受ける原因が、①「乾いた」「冷たい」空気に触れる ②呼吸回数が増える ③塩素などの刺激物質に暴露される であるからです。

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持久系スポーツ:乾いた空気をたくさん呼吸し粘膜を傷める
 気管支の細胞が傷つくメカニズムは気管支上皮細胞での物理的なダメージと脱水です(上の図)。こういった細胞のダメージが繰り返されることによって、喘息や喘息のような症状が引き起こされてしまうのです。

プールの水:汚れと塩素が反応してできる産物が細胞を傷める
 塩素はスイマーの体表についている汚れと反応すると、トリクロラミンなどの反応物を作り出します。これが呼吸で吸い込まれ、気管支上皮細胞を傷つけるのです。

塩素はプールの水の衛生を保つために欠かせない
 塩素の濃度は国によって基準があるので、勝手に変えることはできませんし、そもそもプールの水が微生物や細菌によって非常に不潔になってしまいます。しかしそれ以外で、気管支上皮細胞を傷害する反応物の吸い込みを減らす方法があります。それは①泳ぐ前に体をきれいにしておくこと②換気をよくする事③一度にプールに入る人を減らすこと です。①は皆さんにもできることですね!

一般レベルの水泳練習であれば「利益が害を上回る」
 ここまでの説明を聞いて、喘息の子供に運動として水泳を勧められたことがあるのに…とお思いの方もいるでしょう。安心してください。1回1−2時間、週2回程度のレクリエーションスイマーであれば、運動で得られる健康のプラス面の方が塩素の害を上回ります。エリートアスリートは1日何時間もプールで練習しているので塩素への暴露時間が全然違うのです。

【まとめ】
・スキーや水泳のエリートアスリートには喘息など呼吸器の問題を抱えている人が少なくない。
・原因は乾いた空気、冷たい空気、呼吸回数(換気量)の増加、塩素産物など刺激物への暴露。
・吸入薬の使用で対応できるが、一番の予防は刺激物への暴露を減らすこと。
・一般的な喘息の子供の水泳は「利益が害を上回る」。
・プールに入る前に体をきれいにしておくことは有害な塩素の反応を減らす。

 持病があったとしても、適度な運動は健康にプラスに働くことが圧倒的に多いです。ただ、なんでもかんでもやればいいわけではないことには注意が必要です。プロ選手などエリートアスリートは、かなり負荷をかけてトレーニングをしていますが、健康や安全をサポートをするプロのスタッフがついています。

 一般の方も、”徐々に”負荷を増やせば、自分なりにできることが増え、健康も増進します。「適度な運動」、つまりそれは、焦らずサボらず安全な運動を続けることです。
 息が苦しい、胸が痛いなどおかしいなと思う症状が出た場合は、自己判断で続けず医者に相談しましょう。運動の効果を最大限に引き出すために、今の自分の健康状態や体力に見合った運動から少しずつ始めましょう!

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