Moneyball 3.0(Moneyballから15年、今後Sports Analyticsはどうなってゆくのか?)

Billy Beane GMのもと、センセーショナルなOakland Athleticsの2002年の躍進、そしてMoneyballが出版されたのが2003年でもう14年前の話である。Athleticsがそれまで常識とされていた打率や打点、防御率といった指標よりもチームの勝利に直結する指標として出塁率や被ゴロ率を使いはじめ、MLBのチーム編成・選手パフォーマンス評価の常識を覆した。まさにMoneyballはスポーツの世界に近代的なアナリティクスを入れた先駆け的存在であり、このSSACの始まったタイミングともほぼ重なる。今回のSSACには、ついに初めて、Billy Beaneが登壇し、大きな注目を集めていた。

さて、すでにMoneyball自体は15年近くも前の話であり、その後スポーツアナリティクスはどう進化して来たのか。Moneyball自体は従来からあった基本的な野球の打撃や投球結果(ヒットだった、エラーだった、三振だった等々)のデータを使い、何が本当に勝利に直接影響を与えるファクターなのか(どう言った指標で選手を評価するのが本当は正しいのか)、という命題に対して、通常の統計解析を行った、ということである。これを便宜的にMoneyball 1.0としよう(今まで感覚的に常識と信じられていた評価指標を、世の中一般では常識であった統計解析手法を利用することで覆したというものである)。

その後、野球やバスケットボールの世界にはボールや選手の動きのトラッキング技術の発展により、今まで取れなかったような詳細のプレーやパフォーマンスのデータが取れるようになって来た。そうしたデータを通して新たなデータアナリシスを実施し、それをベースに選手の編成や作戦を大きく変えたのがMoneyball 2.0と言える。具体的にはBigdata Baseballという書籍にもなっているPittsburgh Piratesの2013年の躍進が好例で、彼らは、具体的には、

・競合チームの選手の打球方向や打球速度等のデータを詳細に解析し、守備のポジショニングを選手ごとに大胆に変更したり(内野手が一二塁間に3名いるようなポジショニングも取った)、

・投球の正確な軌道のデータが取れるようになったので、そこから審判が判断したストライクorボールの判定と、本当のストライクorボールの差異を調査。実際ボール球であるものを審判にストライクと判定させるのは捕手のキャッチング技術によるもの(業界用語でフレーミングという)、と見なして、ボール球をストライクにできる確率の高い捕手を評価。結果として低価格でチームの勝利への貢献度が非常に高い選手を獲得できた。

・投球データを詳細に解析し、カーブボールの縦の回転数多いと打者は打ち損じる確率が高いことを発見。その投球の回転数が最も多い選手(かつ市場価格は非常に安かった投手)を獲得し、大活躍した。というようなアプローチを実施した。

これは従来取れなかった詳細のプレーに関連するデータがトラッキング技術の発達により取れるようになり、そこから新たなスポーツパフォーマンスの解析手法やインサイトが発見された例である。これは(単に従来型のデータに統計手法を適用したMoneyball 1.0からは進化した)Moneyball 2.0と言えるだろう。

さて、それではこれからのスポーツアナリティクスの進化系、Moneyball 3.0とは何なのか?今回のSSACの"Player Tracking Data and the Fan"というパネルセッションの中で、その方向性が語られていた。このセッションではESPNやMLB、NFLの関係者がデータアナリティクスの今後の方向性について議論したのだが、一言で言うと今後の方向性は、ファンの試合観戦体験をより深く、面白いものにするために使うべき、と言うものであった。つまり従来はチームや選手のパフォーマンス向上のために使っていたデータ解析を、ファンにも積極的に解放すべきと言うもの。いくつか議論があったポイントとしては、

・ファン向けのデータの見せ方は、そのデータがファンがよりゲームの内容やプレーの質の高さを理解するためのものでないと意味がない(データがノイズとなってファンの観戦体験を邪魔してはいけない)。例えば、野球の試合で、「今の外野手のキャッチングは素晴らしかったですね」ではなく「今の外野手のキャッチングは最初の守備位置から捕球地点までの距離が20m、打球落下時間が3秒だったので通常の捕球確率は30%なので、それを取れたのは非常に素晴らしいプレーです」と解説できたり、バスケットボールの試合で、「今のスリーポイントはよくディフェンスをかい潜って決められましたね」ではなく「今のスリーポイントシュートはディフェンスの距離と打った位置からして成功率20%でした。よく決めましたね。」と言った感じでデータを使えばよりプレーやパフォーマンスに対して正確で深い理解をファンに与えられる。

・これからの試合の視聴体験は、数年以内にパーソナライズされたものになる。カジュアルなファンは基本的なデータだけが重ねられた画面でスポーツの試合を見る一方でディープなファンはより詳細のスタッツ・データが重ねられた画面でスポーツを見る。映像は同じだがそこに重ねられる・表示されるデータの詳細さを自分の好みで選べるような形になるだろう。

・チームは詳細のパフォーマンスデータを自分たちのチームが他チームに対して優位に立てるように、公開したがらない傾向があるが、データの取得方法は日々進化しており、そこは時間の問題。むしろファンに向けてどんどん公開することで観戦体験を強化することを優先すべきである(MLB/NBAはこのスタンスをリーグとして明確化している)。

こうした方向性はファンのエンゲージメントを高める上でも非常に面白く、今まで感覚的にあの選手は打球への反応が良い、とか打球速度が速いとか言われていたものが、定量的にデータで示せるようになることは観戦者が選手を見る目も養われ、Fantasy Sports等のファン側からのプロアクティブな選手評価のコンテンツと相乗効果でよりファンのエンゲージメントが上がるのではと想像する。

実際にMLBはAWSと提携してどんどん新しいデータ解析やスタッツを試合の動画と重ねて提供し始めており、野球ファンにとってはたまらないインサイトを提供できるようになっているし、その進化のスピードは毎年驚かせれるばかりである。是非、気になる方は下記のYouTube動画もチェックしてみてほしい。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

9

SatoshiYamada

MIT SSAC訪問レポート

全米最大のSports Analytics Conferenceである、MIT Sloan Sports Analytics Conference 2017の訪問レポートです。Sports x Techに興味のある人に是非見て頂ければと思っています!
1つのマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。