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ジャズとクラシックの共通点(2)

<2>ベニー・グッドマンとストラヴィンスキー

「ペトルーシュカ」や「春の祭典」などパリで数々の斬新な作品を発表していたロシアの作曲家イゴール・ストラヴィンスキーが祖国ロシアへ帰国できなくなったのは、第一次大戦勃発ゆえでした。しかし長引く大戦の末にはロシア社会主義革命が勃発。ボルシェビキに全財産を没収されて印税収入もゼロとなり果て、しかたなくスイスに居住地を定めるのです。

四手版の「春の祭典」。めちゃくちゃにリズムややこしい!

カメレオンというあだ名を頂戴するほどに一作ごとに作風を変えるストラヴィンスキー、スイスにて新しい音楽を模索しますが、風のうわさで聞き知ったジャズのあやふやな知識を基にして「兵士の物語」という朗読入りの音楽劇を書き上げます。20世紀らしい異様な調べの中で響き渡るラグタイムやタンゴは愉しい。

一応この異様な音楽、クラシック世界ではジャズ的な音楽とされていますが、ジャズ研の方々の耳にはジャズに聞こえるかどうか(笑)。何となくジャズ?

第二次大戦を前にしてストラヴィンスキーはアメリカ移住 (1939)。そこで出会ったのが本場のスウィングジャズバンドの響き。

バンドリーダーのウッディ・ハーマンより正式に作曲を依頼されたストラヴィンスキーの新曲は、バロック時代のコンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)のスタイルに基づいたクラリネット協奏曲。Ebony Concertoと題されています。

初演は1946年3月で、ニューヨークのカーネギーホールにおいてのことでした。あまりの超絶技巧に冷や汗書いたウッディでしたが、やがては録音されて名曲として知られるようになります。4拍子が当たり前だったジャズの世界に5拍子が登場したのはこの曲が初めてのことで、デイヴ・ブルーベックのTake Fiveに先立つこと10数年。やはりストラヴィンスキーはただモノではありません。そして新録音のために1965年4月に作曲家は「クラシック音楽も奏でる」ジャズマンであるベニー・グッドマンに白羽の矢を立てます。

誰もが知っているベニー・グッドマンの「シング・シング・シング」。

ストラヴィンスキー指揮、ベニー・グッドマンのソロによるEbony Concerto歴史的録音はこちら。これはジャズだと思いますよ。

ベニー・グッドマンは「低俗な大衆音楽のジャズ」のクラリネット吹きであるとクラシック音楽愛好家に呼び捨てられたにもかかわらず、クラシック音楽の殿堂カーネギーホールに呼ばれ、クラシック音楽世界の最高傑作の一つである、モーツァルト最晩年の神曲「クラリネット協奏曲」を見事に演奏して、ジャズを見下すスノッブなクラシック愛好家の度肝を抜いたほどの奏者でした。ジャズとは全然別の文脈の音楽をこれほどなレヴェルで奏でるグッドマン。クラシック音楽の教養を生かしてスウィングジャズ人気を牽引したグッドマンはまさに真の音楽家です。

最近のジャズ愛好家はビーバップ以降のモダンジャズに耳を傾けてばかりなようですが、ビッグバンド時代の偉大な音楽にも関心を持ってほしいものです。Youtubeにとって誰にでも手軽に聴くことができるようになったのですから。人類の偉大な遺産です。

サックスを中心に発展してゆくモダンジャズでは、それまでジャズバンドには欠かせない楽器であったクラシック由来の楽器であるクラリネットを好んで演奏しなくなりましたが、以前ほどに愛されなくなったクラリネットやビッグバンドのジャズには古き良き時代の香りに溢れています。わたしは大好きですね。映画のSwing Girlのように純粋な音楽する喜び!

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