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記憶の中で初めて包丁を使った時

台所でチョコレートをつまんでいると思い出す。
初めて自主的に包丁を使った時のこと。

台所でチョコレートをつまんでいる時は大体いい気分ではない。
他のお菓子でもそうだけれど。

母の仕事が終わるのを待って家に帰った。
小学2年生あたりだったと思う。

母は何かイライラしながらまだリビングで携帯を触っている。
仕事のやりとりか何かをしていたんだと思う。

私は暇だったし何か食べたかったし私のために置いてくれていると思っていたお菓子を食べようとした。

音符の書いてあるチョコレート。最後の1つだった思う。

夕飯前なので食べて良いかと許可を取ろうと尋ねたら、
「お母さんも疲れてるねんから食べたいやんか!ひとつくらい残してくれたっていいやんか!」とすごい勢いで叱られてしまった。

初めて親を子供みたいだと思った。小学校の同級生みたい。クラスにいてもおかしくない。
数百円で数十個手に入るお菓子1つにそんなに感情を露わにしている母を初めてみた。

怒りながら泣きながら、もう1度携帯を触り始めた母を背に私はそれでもチョコレートを食べたかったので(譲れよ)半分こしようと思いつきそのチョコレートを切ろうとした。

戸棚の開閉や踏み台を動かす音で気づいたのか母が台所にやってきて何をしようとしているのかと尋ねるから「半分に切ろうと思った。」と答えると泣きながら謝って抱きしめられた。

結局包丁の刃をチョコレートに当てることはできてもうまく切れず、母に交代して切ってもらった。
小さなチョコレートを2人で美味しい美味しいと言い合いながら食べた。

何か嫌な気分で甘いものが食べたくて、台所でチョコレートをつまんでいるといつもこのことを思い出す。

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