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「つくっては、すこし戻って、さらに強度の高い作品をつくる」画家 河合浩さん

B2Bシードスタートアップ向けのインキュベーションオフィスSPROUNDが、なぜ画家のインタビュー?と思われるかもしれません。SPROUNDに7室設置された会議室には、実は半期に一度入れ替わる会議室ギャラリーがあるんです。入れ替わりで様々なアーティストやデザイナーの作品が並びます。今回は、第一期の作品提供にご協力くださった河合浩さんにお話を伺いました。
アウトプットの方法はかなり違いますが、世の中の課題や違和感を感じ取り1、新たなものを作り出すアーティストと起業家。日常のスタートアップトークからすこし離れて、今日はアーティストの声に耳を傾けてみたいと思います。

河合 浩さん
画家、画業。東京都出身。栃木県益子在住。
CD、ジャケット、アパレル、雑誌へのアートワーク等を手掛けるほか、日々絵を描き、全国各地で展示活動中。2019「illustration」第209回ザ・チョイス入選(大原大次郎選)。主な仕事に YUKI "trance/forme" TOUR2019 アートブック「PHANTASMAGONIA」アートワーク提供、PAR ICI(パーリッシィ)2017autumn/winterカタログワークなど。

ーー本日はお話をお聞かせいただけるとのこと、ありがとうございます。さっそくですが、河合さんがどうして画家の道に進まれたのか伺えたらと思います。画家としてのこれまでの経歴を教えていただけますか。

実は、本格的に画家として活動しはじめたのはここ2年くらいなんです。それまでは、生活のためと割り切って、長時間労働の工場で働いていたのですが、やはりお金のためとはいえ、好きでもなく楽しいとも思えていないことを続けていくことに限界を感じました。周りにも失礼だし、迷惑ですしね。新たな就職先を探すのも苦でしたし、絵が売れるならそのことに集中して、挑戦してみようという気持ちになりました。
絵はずっと描いていたのですが、基本的には単純に絵を描くことが好き、その時間が自分にとって必要であるというところで、それを発信することに興味が持てなくなっていた時期が長くありました。そういったなかでSNSの存在を知り、描いた絵を発信してみると意外と反応があって。2013年に茨城県・つくば市にある本屋「PEOPLE BOOKSTORE」で初めて開いた展示会も、SNSで声をかけてもらって実現したものなんです。まったく初めての展示だったので、絵について話すことや価格設定など、戸惑いもありましたね。
展示を重ねていくうちに、絵を評価していただいて声をかけてもらうような機会も増え、今では全国あちこちで展示しながら、好きな絵を描いて生活することができています。

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河合さんの初期の作品展示。
今回SPROUNDに提供いただいた作品のテイストと異なることがわかる


ーー画家になる前と後で変わったことはありましたか?

自分の人間性が少し変わったように思います。臆病だった性格が改善されてきたというか。展示会を繰り返していくうちに、コミュニケーション能力がついて、人と話すことが楽しくなりましたね。物事に前向きに取り組むことが出来るようになったと思います。

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SPROUNDの会議室「BREEZE」に展示した河合さんの3作品


ーーおかげさまで、半年間SPROUNDの会議室で作品を楽しませていただきました。河合さんの作品は生き物のように見えたり、文字のようにも見えたり。「見る人が自由な見方ができる作品」という印象をもちました。どのようなことを考えて絵を制作していますか?

「見え方を限定したくない」という思いはあります。なので、向きも決めていませんし、サインも入れていません。絵を回転することで、結構印象が変わるんですよね。描くときも回しながら描いてたりもしていて。それは乾き切ってない絵具が手につかないようにという理由もあるのですが、どこから見ても面白くなるようにという考えも大きいです。作品を買ってくれた方も、展示していたときの向きとは逆に飾ってくれていたりもしますね。
また、思いつくままに描いているうち、何か具体的なものに見えてくる部分があったら線を足して、そのように見えなくします。どっから見ても固定された見え方ができないようにしたいですね。絵を見て下さった方があれこれ想像して、そこから具体的な何かを見つけ出してくれたりするのは楽しいですけどね。


ーー面白いですね!SPROUNDで飾っているときも途中でひっくり返したりすればよかったです。そのようないろんな見方ができるような作品を制作する過程を詳しく教えてください。

下書きとかは特に何もせず、線や形を配置していきます。そうすると形と形の間に意図していない関係性が生じたり、描いていない余白の部分にあらたな形も見えてくる。そういう偶然性を面白がりながら制作に取り組んでいます。


ーー偶然性を求めて、下描きもなく無計画に筆を走らせると聞くと、なかには失敗作も出てくるような気もします。

「失敗」という考えはあまりなくて、そういったアクシデントをマイナスと捉えずプラスに変えて、自分をいい意味で裏切りたいということをいつも考えています。どこか作品を自分から遠ざけたいような気持ちがあるんです。意図しないところに絵の具が垂れてしまっても、それをどうポジティブに変換するか。むしろそういう自分の意図と違う方に転がっていくことで面白い作品が出来ると思ってますね。

河合浩①

河合浩②

河合さんの作品は、生活の中で作品を作られ、人の生活の中に彩りを届ける

ーー作品を制作する上でほかに意識されていることはありますか?

「奥行き」を意識しています。「画用紙に絵具が載っているだけのもの」から、それ以上の「何か」を想像することが出来るような絵が描きたいと常に思っているので。白い画面に線一本だけあっても凄みを感じられるような作品は、シンプルな中に「奥行き」を感じられるからだと思います。
あとは、普段の生活にも繋がるようなことですが、ある程度描いたら、嫌に感じたり、必要がない部分を消していきますね。
それと「今描いているものが一番いい」と思って描くことでしょうか。実際そうなっているように思います。


ーー絵を描き始めた頃と、今。なにか変化はありますか。

確かに作風は変化はしています。変化というか進化だと思っていますが。とはいえ自分ではそこまで大きく変わっているという気持ちはありません。同じような毎日を過ごしていても1年前と今現在とでは違っているというような感じでしょうか。そんなふうに少し前に作った作品と、新しい作品を、行ったり来たりしながら、少しずつ変化していっているように思います。過去の自分の絵を参照して描いたりすることもあるんですよね。でも僕は多少ひねくれているところがあったり、日々技術も向上していたりで、おのずと現在進行形の絵になります。
あと変わったとすれば、「作品の強度」を意識して描くようになったことでしょうか。。仕事を辞めてより絵を描いて生きるということに意識が向いた結果かなと思います。「丁寧に描く」というのもその一つです。丁寧に描こうとすると作業のようになってきて、その過程で無意識になるというか、自分から遠ざかって行く感覚があるんです。丁寧に描くことによって自分から離れ、作品としてもクオリティの高いものができあがる。そういった日々の変化がこれから製作していくなかで、またどうなっていくのか、自分でもそれがたのしみです。


今回はSPROUNDERに絵を提供していただいている河合浩さんにお話を伺いました。
日頃のB2Bスタートアップの世界から少し離れて、「『強度を高める』べく作品に向き合い徐々に手を離れていく」というアーティスト河合さんの言葉が、スタートアップ業界のみなさんのインスピレーションになれば嬉しいです。作品が楽しめるのは2月いっぱいまで。残りわずかですが、ぜひ近くでじっくり楽しんでいただけたらと思います。
SNSで作品に関心を持ってくれる人、連絡をしてくれる人が増えたとお話ししてくださった河合さん。作品の販売はもちろん、Instagramに投稿した作品写真やご自身の生活を切り取った写真を、冊子にまとめたりもしているのだそう。生活のなかで作品をつくり、生活に近いところに作品を届ける河合さんのInstagram、ぜひこの機会に覗いてみていただけたら嬉しいです。

Instagram: https://www.instagram.com/kyeutk/
Twitter: https://twitter.com/kyeutk
作品販売サイト:


(文:平松映人 / 聞き手・編集:上野なつみ / 撮影協力:飯田萌希・島袋響)

 

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