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今注目のESG領域のスタートアップ 大きな苦悩を乗り越えた転換期と、これから。【スタートアップコミュニティSPROUND 利用企業インタビュー】Resilire CEO 津田さん

「知の還流」がコンセプトのインキュベーションオフィス「SPROUND」をご利用の企業、通称SPROUNDERの入居者インタビュー第12弾。今回は、株式会社Resilire(レジリア)の代表・津田裕大(つだ ゆうだい)さんにお話を伺います。

起業から4年。ESGという大きな社会課題をテーマに起業し、すでに大きな苦労を乗り越えてこられた若き起業家の津田さん。ご自身と会社のこれまでとこれからについて、また、津田さんのアツい想いもたくさんお話いただきました。
創業期のスタートアップが、SPROUNDというインキュベーションオフィスを使ってみての感想や、事業に活きたことも語っていただきました!

津田 裕大/Yudai Tsuda
株式会社Resilire 代表。「テクノロジーで持続可能な社会を創造する」というビジョンのもと、サプライチェーンリスク管理のSaaS「Resilire」を開発・提供。

Resilireの事業とCEO津田さんについて

日高(SPROUND):まず簡単にご自身と事業内容のご紹介をお願いします。

津田さん(Resilire):Resilireの津田です。Resilireは2018年に創業し、大手の製造業や商社企業向けに、サプライチェーンリスク管理のSaaSを提供しています。昨今コロナや紛争により、原料や部品の調達困難が多発していますが、我々はそれを予防するサービスを作っています。

私自身、Resilire創業前は、ITのベンチャーをやっていました。また、大学時代からWebのインターフェイスのデザインや飛び込み営業をしており、大学4年の頃はその経験を活かして友人とデザインやWebの受託開発事業を行う会社の経営もしたりしていました。

この辺りの多様な経験も、今の事業作りに活きていると思います。

日高:学生時代からとても活動的だったのですね。

日高:Resilireさんは、直近だと、豊田通商さんとの業務提携を発表されたり、津田さんがForbes Japan Under 30 2022に選出されたりなど、ニュースをお見かけする機会が増えていて、そんなところからもとても成長を感じています。

2022年を振り返って、Resilireの成長角度は津田さん的にはどう感じていますか?

津田さん:そうですね、2022年はすごく成長を感じました。

積水化学工業社や豊田通商社や長瀬産業社への導入など2022年は大きな企業様に導入いただけました。また、社員が0から5人に増えたのも大きな変化でした。

特に豊田通商社とのニュースは大きな反応をいただきました。自動車の部品や産業全体のサプライチェーンの強靭化の推進をしていくというニュースで、自社だけでなく、サプライチェーンのデータを多く保有するトップ企業と組んで推進しようとするというニュースは、インパクトが大きかったです。

また、採用は、とてもこだわっている中で5名の採用に至ったので、かなり大きな成長となりました。
Resilireは「コトに向かう」(:下記、「組織崩壊を経験したからこそ、今、大事にしていること」にて。)という価値観を大事にしています。それは顧客の価値に向き合い合理的な意思決定をするというような考えで、その考えに共感して貰えたり、体現できる方しか採用しないというスタンスを取っています。一方、本当の意味でコトに向かえる人はなかなかいないので、体現できる方がこのスピード感で入ってくるのは結構すごいことなのではないかと感じているところです。

大きな転換期 組織崩壊とプロダクトのピボット

組織もプロダクトも白紙に

日高:ニュース露出が増えたり組織拡大に伴って採用面で忙しくなったりと、2022年も変化が大きい一年だったかと思いますが、2018年の起業から今まででResilireにとっての転換期はいつだったのでしょうか?

津田さん:2020年7月に、一番大きい転換期がありました。
組織崩壊を経験して、プロダクトをピボットして0から作り直してと、全て0からスタートするということがありました。

日高:そんなことがあったんですね!そこからどのようにして改善に向かったのですか?

津田さん:はい、その期間は全ての上手くいかないことが凝縮された数か月でした(笑)

組織崩壊を経て「組織体制への考え方を変え、確立したこと」と、大手製薬会社様からお問い合わせを頂いて「プロダクトをピボットしたこと」の、組織面・プロダクト面の両軸で転換を図りました。

組織面では、組織崩壊が起きて自分以外の全員いなくなった時に、何がダメだったのかを深く考え直しました。その結果、会社として大事にすべきカルチャーを言語化せずに、能力ベースで採用を行っていたところに全て起因すると気がつき、バリューを策定しました。

プロダクト面でも大きな転換をしました。
元々弊社は、BCPのDXを推進するSaaSを作っていましたが、お客さんにとって、「Nice to have」なプロダクトでしかなく、「Must have」なプロダクトにしなければいけないと思っていました。
そんな時、ある製薬会社から問い合わせがありました。
「コロナでロックダウンしていて、原料の調達が寸断し、重要な製品の供給が出来なくなっている。それに対して、SIerのツールに毎月お金をたくさん払っているが解決していない、平時の1/3の業務がそのオペレーションに奪われている実態がある。」
この話を聞いた時、「これは顧客が今すぐお金を払ってでも解決したい大きなペインであり、『Must have』なソリューションを生み出す上で重要なヒントとなる」と思い、ピポッドを決意しました。

日高:組織崩壊が起きてお一人だったタイミングで、プロダクト面でもそのような大きな転換があったんですね。

組織崩壊を経験したからこそ、今、大事にしていること

日高:組織崩壊を経て、カルチャーや採用基準を策定し直したとおっしゃっていましたが、具体的にはどのようなものにされたのでしょうか?
今のResilireにはどのような方が多いのか、という面も含めて教えてください。

津田さん:Resilireメンバーの共通点としては、ソフトなコミュニケーションで合理的な意思決定をする人という点だと思います。

合理的な意思決定とは、長期的に顧客に対して最大の価値を生むものをフラットに意思決定をすることで、これは本質思考と、主観を入れずに意思決定ができるマインドが必要になります。一方コミュニケーションがドライだと心理的安全性が保たれなかったり、チーム連携が進みづらかったりして価値最大化に繋がりにくいため、相手を配慮したソフトなコミュニケーションも重要だと考えています。それらを満たす方を社内では「コトに向かう人」と言っています。

どうやったら顧客の価値を最大化できるか
メンバー全員が、「自分自身がこうしたい」とか「こういう役職が欲しい」というモチベーションではなく、顧客の価値最大化のためにチームとして自分が何をやるべきかを常に考えてできれば、その姿勢が顧客の価値を最大化に繋がっていくのではないかと考えています。

こういったカルチャーこそ、組織作りにおいて大事にすべきだと気がつきました。。

例えば、サッカーで勝つには、チームみんなが、自分がどんなプレイをしたいかで意思決定するのではなく、どうやったらゴールを決められるかを考えるように、
ビジネスも個人プレーではなく、チーム一丸となって、顧客の価値を創造するための意思決定を皆でして、顧客が喜ぶものをつくる、そのためにそれぞれが責務を全うすることが必要だと。
そういった意味で、会社はファミリーではなく、プロスポーツチームだと考えています。

國分(SPROUND):採用にとても拘りを持ってやられていることがわかりました・・!現在、採用後の組織を作る時点で大切にされていることもあればぜひ教えていただきたいです。

津田さん:皆さんプロフェッショナルな人なので、あまり首を突っ込まずに任せて、失敗も含めて一緒に経験を積むことを意識しています。

Resilireには、「テストシンキング」というバリューがあります。

仮説を持って取り組んで、フィードバックを得て、もう一度、仮説を生んで取り組んでを繰り返すことです。

これには、2つの意味があります。「実験思考で学ぼうという意味」と「失敗しても良いから早くトライしようという意味」です。
我々が挑戦する産業や課題は複雑で難しく、試行錯誤が必要です。セオリー通りにいかないことも多いです。そのような領域においては、それぞれが思考を巡らせ、少ない情報の中でも一定の仮説を持ってリスクも許容し素早くトライし、振り返りをして、スピーディに気づきを積み上げていくことが重要です。そのプロセスを一人一人とやっています。Resilireの社員は知的好奇心が強い方が多く、「テストシンキング」の過程で新たな気づきを得ていくプロセスに楽しみを感じている方も多いように思いますし、僕も誰も気付けない真理をメンバーと一緒に見つけていけるのが楽しいです。

あとは、自分も含め、社員メンバーが情報をオープンにすることを徹底しています。具体的には、ドキュメンテーション文化があって、みんな思考を書き残して、他のメンバーにも見えるようにしています。僕自身もオープンにすることを意識していて、毎月株主定例などで、株主からフィードバックもらったことをそのままメンバーが見れるようにしています。

ESGテーマという大きな社会課題領域での起業、津田さんの想い

上野(DNX/SPROUND):最近ESGのテーマで就職・転職先を選ぶ人も増えていますが、津田さんがこの領域で起業されたのは、どんな経緯からだったのでしょうか。大手製薬会社などの需要を感じたからか、それとも、津田さん自身関心がありESGのテーマで起業しようと決めていらしたのか。

津田さん:もともと、不変的な課題を解きたい、人がやりたがらない課題を解きたいという思いがありました。

賢い人が普通に考えて解決できるような領域は、僕は自分がやる必要はないと考えています。賢い人の9割5分ができないけど、社会にとって意味のある課題を解くことをしたいのです。

気候変動による自然災害やリスクは、他の人があまり挑戦したがらない領域ですが、自分はこれからもずっと続いていく普遍的な課題だと思います。

創業当初は、ほとんどのVCに災害の予防は儲からないからやらない方が良いと言われたり、専門家にBCPやサプライチェーンのリスク管理をクラウドでやるのは不可能だと言われました。しかし、賢い人が冷静に考えて難しいと言う課題こそ自分にとって取り組む意味があるなと思いました。(笑)

なので、ESGの盛り上がり自体は僕としてはそんなに関係なくて、元々重要な課題だと思ってはじめました。
これからも経営の意思決定は変わらず、トレンドに左右されず、普遍的で誰もやりたがらない課題に取り組んでいきます。

また、それらの意思をカルチャーに反映させたいと思い、Resilireのバリューでは「レジリエンス」というものを入れています。またレジリエンスは社名の由来でもあります。

これは困難な課題や状況に対して、解決するための前向きな提案をしようといった考え方になります。

スタートアップは、殆どの人がそれはできないと否定するものに取り組むことが役割だと思っていて、市場認知と実体に乖離がある領域を発見し、誰も知らない真実を見つけ出し新たな解決策を提示する事が必要だと思っているので、できない理由を考えずできる理由を考えよう、環境を言い訳にせず前向きに取り組もうといった意味を含んでいます。

日高:そうなんですね!津田さんのそういった視野や視点はどこで養われたのですか?

津田さん:学生時代から人が嫌がることをやってきました。高校時代、きついバイトで人がどんどん辞めていくなか、自分は3年間楽しくやりました。
家やオフィスを一軒一軒、朝から夜まで走り回る飛び込み営業もやって良かったと思います。他の人もやる真っ当なことより、誰もやりたがらないことに価値があると考えています。

大学のビジネススクールで、「勝ち馬に乗るな」という話を聞きました。人がやりたがらないけど社会的に価値があるものこそ本当に意味があるものだから、学生はそういうことに時間を使ってほしいという当時の講師の話が僕の中でしっくり来たんです。

上野:津田さんのその姿勢が、Resilireのビジョンやカルチャー、バリューに繋がり、今のResilireを表していると思います。そういうところに共感してくれて、今後応援してくれる人も増えていくと思います。

津田さん:今のメンバーもそこに共感して来てくれています。僕が、勝ち馬に乗りたいと思って来る人を採用していないということもあり、儲けることに動機付けされる人はResilireにはいないですね。

儲かりそうだからではなく、「このメンバーとこの難しい課題を解くための挑戦をしたら、上手くいけば最高だし、上手くいかなくても最高な思い出になるからやろう」と思ってくれている方々だと感じてます。メンバーみんな、人生掛けて腹を決めてるのを感じます。

上野:スタートアップにおいてCEOが人生掛けるのは当たり前ですが、メンバーにも伝播していることから、今のResilireがどれだけ良い組織なのかというのが伝わってきますね。

SPROUNDのご利用について

日高:Resilireを創業したのが5年前で、SPROUNDにいらっしゃったのは2021年でしたが、SPROUNDの前はどこでお仕事されていたのですか?

津田さん:前は、池尻大橋にある部屋を借りていました。業務委託メンバーと一緒に仕事をしながら自分はそこに住み込んで、家兼オフィスとして使っていました。

日高:そうだったんですね!そことSPROUNDはだいぶ環境が違うのではないかと思いますが、移転してきたきっかけは何だったのですか?

津田さん:投資いただいていたDNXからSPROUNDを勧めていただきました。SPROUNDでは、他のSaaS企業経営者と交流できるし、アーリー期スタートアップにとって勉強になるイベントもあるし、DNXとの壁打ちもしやすくなるからSaaSの知見を高めるという意味でも入るのは良いのではないか?と誘っていただきました。

元々、株主にSaaSの知見がある人がいなくて、自分自身もSaaSに関する知見がそこまでなかったので、キャッチアップできそうだと思い、SPROUNDに入りました。
結果ここに来てとてもよかったです。

日高:SPROUNDに来て良かったと思っていただけて嬉しいです。具体的にはどんなところでよかったと思いますか?

津田さん:一番は繋がりができたことですね。困った時に、他のSaaS企業のみなさんはどうしているのか、すぐ相談できます。
実際、先日は、DIGGLEの山本さんと立ち話をしながら資金調達で苦戦したポイントなどを聞かせていただきました。

また、ランチをしてResilireの採用についても相談させてもらったり。山本さんから助言をいただき背中を押していただいて良い意思決定をできたこともあります。このように、会社のメンバー以外と相談できる環境が良いと思っています。

あとは、DNXさんのオフィスが隣接しているので、担当の投資家の方をいきなり呼び出して相談できたり、重要な採用面談にも同席してもらうなどの連携もできて、大変助かっています。

日高:津田さんがSPROUNDの色んな経営者の方と仲良くされているのは普段から見ていましたが、そこまでたくさんのエピソードは知らなかったので、そんな繋がりがあったのはとても嬉しいです。

今後の展望と意気込み

日高:最後に、今後の展望や意気込みをお聞かせください。

津田さん:現状、サプライチェーンのリスク管理として、サプライヤーの上流のデータベース・取引先のネットワークデータを作るのが、他にはないユニークなResilireのバリュープロポジションだと考えています。そしてそれが製造企業や商社といった大手に刺さることがこの1年で証明できたと思っています。

ただ、サプライチェーンのリスク管理は、あくまで取引先のネットワークデータとサプライヤーを繋ぐことを実現させるプラットフォームの入り口です。

全部のデータが繋がると、それに対して取引に掛かっている全ての工数がDXしていける世界があります。また、原料や品目のデータベースが見えてくると、CO2や人権などESGの課題も繋がりも可視化されていきます。Resilireのビジョンは、「持続可能な社会の創造」です。Resilireのプラットフォームでデータを可視化することで、データドリブンに環境や企業自体の経済活動の持続性を実現していくための道筋を出していけると考えています。全ての意思決定を持続性のあるものにできるプラットフォームにしたいです。

日高:ありがとうございます、Resilireの今後がさらに楽しみです。
本日はありがとうございました!!

(文・聞き手:國分輝歩・日高 くるみ(SPROUND Community Manager) / 編集:上野 なつみ(DNX Ventures))


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