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ナレッジワーク代表 麻野耕司氏が語る、モチベーションクラウドの急成長を実現させたセールスイネーブルメントの極意--第二回SPROUND STARTUP WORKSHOP

(本記事は2020年11月にSPROUNDで開催されたイベントのレポート記事を、ナレッジワークのプロダクトローンチを待って公開するものです。一部情報が古い場合がありますが、ご了承ください)

皆さん、こんにちは!!インターンの辻です。

さて、今回はSPROUNDにて開催されました第二回SPROUND STARTUP WORKSHOP「株式会社ナレッジワーク代表、麻野耕司氏が語る、モチベーションクラウドの急成長を実現させたセールスイネーブルメントの極意」の模様をお伝えしていきたいと思います。

モチベーションクラウドが競合を圧倒し、業界第1位のサービスになるまでの急成長を支えた、営業組織のマネジメント方法「セールスイネーブルメント」の極意を、 スタートアップ経営者及び営業責任者向けにご講義いただきました。これから営業組織を設計する方や、営業チームをより強くしたい方など、幅広い経営者及び営業責任者のみなさまにとって有意義な内容となっておりますので、是非ご覧ください!

SPROUND入居企業であるナレッジワーク麻野さんによるワークショップということで、徐々にSPROUNDのコンセプトである「知の還流」が生まれてきたな、とコミュマネ陣としては嬉しい限りです。

本日はよろしくお願いします

ナレッジワークの麻野です。皆さん、本日はよろしくお願いします。
まずはじめに私の自己紹介をさせていただければと思います。

前職はリンクアンドモチベーションという組織人事の会社で17年間働いておりました。前半は組織人事のコンサルティングを担当していたのですが、後半からは「モチベーションクラウド」という組織改善のサービスを担当していました。こちらを2019年に退職し、2020年の4月にナレッジワークを創業しました。

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麻野 耕司 Koji Asano / 株式会社ナレッジワーク CEO
慶應義塾大学法学部卒業。リンクアンドモチベーション入社。2018年、同社取締役に着任。2010年中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティング事業の執行役員に当時最年少で着任。2016年国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」を立ち上げ。国内HR Techの牽引役として注目を集める。2018年には日本最大級の社員クチコミサイトを運営するヴォーカーズ(現オープンワーク)に出資し、取締役副社長を兼任。2019年リンクアンドモチベーション取締役退任。2020年4月、株式会社ナレッジワークを創業。著書:「THE TEAM」(幻冬舎)、「すべての組織は変えられる」(PHP研究所)

4年足らずでARR20億円突破、その背景に「営業力」

前職のリンクアンドモチベーションで私が担当していたサービス「モチベーションクラウド」は組織改善のサービスで、2015年の年末にゴーサインが出て、16年1月から開発を開始し、7月にプロダクトリリースして18年5月にARR10億円、19年9月にARR20億円突破といった具合に、非常に良い形で成長を実現できました。

当時を振り返ると、このような成長を実現できた背景には当然「組織力」という要素もあったのですが、客観的にみて「営業力」の影響が非常に大きかったのではないかと考えています。

そのため、本日はその裏側でどのような営業が行われていたのかをお話ししつつ、営業の重要性についてお伝えできればと思います。特に、スタートアップ界ではよく「PMF後」のセールスイネーブルメントについて語られますが、私は「PMF前」のセールスイネーブルメントが特に重要だと考えています。モチベーションクラウドでは売り出す前からこの考え方を実践していましたし、それが成長に大きく貢献したと思っています。

なぜ競合との差別化に「セールス」が重要なのか?

まず「セールスの重要性」についてお話しします。

”ZERO to ONE”で有名なPeter Thielの言葉に「差別化されていないプロダクトでも、営業と販売が優れていれば独占を築くことは出来る。逆のケースはない。」という印象的な言葉がありますが、僕自身もそのように思っています。プロダクトが良ければ売れるというわけではなく、ことSaaSにおいてはセールスが重要だと思います。

スタートアップは、事業を拡大していくために商品開発や広告販促、人材採用などに取り組んでいきますが、結果につなげるためには「営業力」で成果が左右されます。そのため、前職で投資事業を担当していた時は、B2Bの会社はすべからく営業力を見ていました。今振り返ってみると、この基準でハマる企業は上手くいったかなと思います。

特に情報化社会によってプロダクトがコモディティ化しやすくなってきた今日は、かつてよりも営業によって差が生まれるようになってきました。基本的に皆さんが心得ておくべきは、プロダクトの情報は競合に筒抜けで、開発は模倣されていくといううこと。機能自体も似たものに近づいてくるのかなと思います。そのため、いわゆる商品を説明する「プロダクト営業」だけではなく、課題解決をできる付加価値をつけた「ソリューション営業」ができるかどうかが重要になってきます。実はその時、プロダクト営業よりもソリューション営業のほうが、ハイパフォーマーとローパフォーマーの差が大きく生まれてきます。そのため、どのようにこの差を埋めていくかが非常に重要かなと思います。

前職でモチベーションクラウドを担当していた時にもwevoxという競合がいました。当時、両者のプロダクトには顧客が認識できるレベルの機能差はありませんでした。しかし、5年経った現在、売り上げベースで約6~7倍の差がついています。これはひとえに営業力の差なのかと思います。

製品は模倣されやすいですが、営業は競合から見た時にその活動の中身が見えにくいですよね。そのため、営業及びその裏側の仕組みをつくることができれば、模倣されにくい競合優位性を築くことができると思います。

営業ができるようになる「セールスイネーブルメント」とは何か?

営業担当者の方々に聞いてみても、「セールスイネーブルメント」という言葉自体を知っている可能性は1%以下です。セールスイネーブルメントという言葉の意味は直訳通り「営業ができるようになる」というもので、具体的には「みんなが売れるようになるための再現性と実効性の高いメソッド」を指します。

皆さんもご存じの通り、従来の人材育成は「OJT」と「研修」の二つをメインに行われてきましたが、なかなかうまくいかないケースが多々あります。

上司が部下を指導するOJTは、実効性は高いが再現性が低い。例えば、上手く教えられるマネージャーとそうでないマネージャーとでの指導の質の差が大きい、マネージャーはうまくいってもメンバーはうまくいかないないなどの問題があります。一方で、研修は再現性は高いものの、研修で聞いたことがなかなか現場で使えないなど、実効性に欠けるという問題があります。

セールスイネーブルメントは、そんなこれまでの人材育成のあり方を覆す、再現性と実効性の双方を両立したメソッドです。セールスイネーブルメントは、分かりやすく言うと営業を業績に直結させていくような取り組みです。こうした取り組みにより、営業の受注率・営業成績の中央値が上がっていきます。平均値はハイパフォーマーに引っ張られ、ローパフォーマーをミドルパフォーマーにしていくことができます。また、新規入社の戦力化のスピードをあげることができます。こうした成果に直結する取り組みをセールスイネーブルメントと考えましょう。


「ナレッジ」=「コンテンツ」+「ノウハウ」

それでは、果たしてセールスイネーブルメントにはどんな要素が必要なのか。私が考えるポイントはひとつで、「ナレッジ」だと思っています。ナレッジは「コンテンツ」「ノウハウ」に分かれます。

「コンテンツ」は、顧客向けに使う動画や資料のことを言います。例えば商品説明の資料や動画や、顧客向けの提案書などが当たります。「ノウハウ」は、社内向けの資料や動画のこと。例えば商品プレゼン動画やトークスクリプト、商品勉強会動画などが当たります。これらコンテンツとノウハウから構成されるナレッジをいかにして展開していくかが、セールスイネーブルメントだとシンプルに捉えていただければ良いかと思います。

まず、「コンテンツ」についてです。これは顧客向けに使う資料のことを指します。私自身モチベーションクラウドを立ち上げた時、はじめに売れるのは自分だけでした。その際難しかったことが、いかに他のメンバーが売れるようにしていくかでした。最初はOJTで一生懸命一人ひとりに教えるんですが、なかなかできるようにならないんです。要するに、投資対効果が低いんです。そこで、メンバー自体のみにアプローチするのではなく、良い営業資料を作ろうと切り替えたんです。営業資料は全ての商談で使われるため、良い資料を用意することで、話すのが苦手な人もちゃんと商談を進めていける仕組みを整えました。すると、あれだけOJTしても上手くいかなかったのに、みるみるうちにメンバーが上手く提案できるようになっていきました。この時に、しっかりと商談が進む資料を作ることに、注力することの重要性を感じました。

良い例をひとつ共有すると、かつて僕が投資していた会社は競合にある外資系企業がいましたが、こことバッティングしても売れるんです。その秘訣はやはり営業力で、競合企業ごとに汎用的な資料、競合から乗り換えてくれた顧客のインタビュー動画なんかを用意していましたね。この会社はこういったことを徹底的にやり抜いていました。これくらいまでコンテンツをしっかりと用意できるかどうかで成果が変わってくるのかなと感じています。

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当日はオンライン・オフライン双方多くの方々にご参加いただきました

もう一つは「ノウハウ」ですね。コンテンツが大事な一方、コンテンツだけだとうまく伝えられないケースも多くあります。コンテンツとセットで模範プレゼンの動画や、トークスクリプトがあると、適切なアクションがわかるようになったりします。こういった具合でコンテンツとノウハウがセットで充実したナレッジを築き展開していくことが重要だと考えています。

また、これらのナレッジは営業プロセスごとに活用したり、同じコンテンツを育成プロセスにも活用することもできます。ナレッジをレベル別に編集して、育成のサイクルを増していく。このような形で業務と育成を近いところで同時に取り組んでいく、という新しいコンセプトがセールスイネーブルメントで実現できると思います。

SaaS企業こそ、セールスイネーブルメントに取り組むべき理由

そんなセールスイネーブルメントですが、欧米では既に約6割の会社が取り入れていると言われています。アベレージで社員一人当たり年間15万円くらいの予算を投資しているといわれています。そして、やっている会社とやっていない会社で営業達成率で約10%違い、営業受注率で約6%違うという統計データが出ていたりします。それくらい欧米では主流になりつつある手法です。

しかし、日本企業はまだこうした取り組みができていません。なぜなら、日本では営業は人がやるものだという認識が未だに強く根付いているからです。そのため、日本でこういう取り組みをいち早くできれば、他の会社に対して大きなアドバンテージを持つことができるのではないかと思いますし、これは僕自身がモチベーションクラウドでも実感してきたことです。

特にSaaS企業こそ今後セールスイネーブルメントが重要になってきます。その理由は3つあります。1つ目は、シリーズA・BなどPMF後の多くのSaaS企業は、一般的に継続率が高いことが特徴であり、競合に先にマーケットに入られてしまうと後からシェアを取ることが難しくなります。そのため、いかに営業を強化し、いち早くマーケットに入っていくかが重要です。

2つ目は、受注率が非常に重要です。モチベーションクラウド時代は訪問から受注まで約7〜9%だったと認識していますが、当時20億の時に、マーケット予算は8億ありました。この時に、受注率が1%上がれば、マーケティング予算をどれくらい削ることができるでしょうか。もし受注率が1%あがったら、業績10%上がるということですので、つまり8億のマーケット予算のうち8000万円を削っても同じ効果が見込めるということなのです。それくらい受注率は重要な指標です。

そして3つ目が組織の拡大です。営業人員を3〜5人、5人〜10人、とテンポよく増やしていくと、どうしても全然売れない営業というのが出てきてしまいます。僕自身、初期の頃には3人くらいで他の15人を食わせているという状況が生まれたこともありました。これを解消していくことが非常に重要になると思います。

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SPROUND入居者から多くの質問が飛び交いました

PMF前こそ取り入れるべき?売れると分かってからプロダクト開発を。

一方で、これは今日のポイントなのですがPMF前の企業も、このセールスイネーブルメントを意識することが非常に重要です。私はナレッジワークという会社をやっていますが、はじめからセールスイネーブルメントを実践しています。先にコンテンツとして営業資料を何十種類も準備しているんです。僕の考えでは、PMFとは顧客に価値を提示することであり、ここには共感してもらうというステップと、価値を提供し満足してもらうという2つのステップがあり、この2つが実現した時、PMFしたと言えるのではないかと考えています。

よくプロダクトを通じて価値を提供していればよい、と考えがちなのですが、使ってもらえるプロダクトが売れるとは限りません。特にB2Bに関しては、まずは「売れる」ということが非常に重要です。リンクモチベーションや前職の投資先では、最初に商品説明資料と提案書を作り、この会社なら買ってくれるだろう、という会社をあたっていました。3社ターゲットを思い浮かべて資料を持って売りに行き、3社ともこの値段で「買うよ」と言ってくれたら、他の会社に当たった時にも確度が高く、逆にここで上手くいかない時は、売り出しても当たらない可能性がある。そのため、B2Bにおいては先に売るということが大事だと思います。こういうステップを踏んで、一定の価格で買ってもらえることがわかってから、プロダクトを作るのが良いのではないかなと思います。

モチベーションクラウドは正式なプロダクトローンチの前に、既に40社くらい売れていました。その理由として、プロダクトが無くても資料だけで売れるくらい、最初からしっかりとしたセリングストーリーを作り上げていたことがあると思います。よくPMF前の初期はファウンダーがビジョンで売るしかないよということもありますが、僕はそれをあまりオススメしません。この資料を使えばファウンダーじゃなくても売れるという資料を作り込み、磨き上げて、このセリングストーリーならいけると分かってから、プロダクトを開発することが大事かなと思います。

ナレッジワークの目指す世界

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私たちのビジョンは、「できる喜びが巡る日々を届ける」です。私はリンクアンドモチベーション時代から「働く」ということをテーマに働いてきましたが、その中で労働は苦役であると語られ、苦しいと思っている人が多いことを目の当たりにしてきました。私はその経験から、人々が人生の多くの時間を費やす働くことが、面白いものだ、喜びだということを伝えていきたいと思いました。そのときに「できる」ということが大事だと私は思います。働くことの悩みって、多くの場合「うまくできない」ということから生まれる悩みなんですよね。だからこそ「できない」が「できる」になると仕事はとても面白くなる。「やりたい仕事じゃない」という人が多いですが、多くは「できない」から「やりたくない」ということなんですよね。サッカーが上手くできず面白くないという人も、できるようになったらサッカーも面白くなってくる。出来ないから面白くないだけで、出来たら面白いのです。これが多くの人が働く場面で起こっていると思います。できない人ができるようになり、働く喜びを見出す社会をつくっていきたい。しかし、現状多くの企業はそういう喜びを提供できていません。成果を出した人に給料を出す一方で、できない人は永遠に取り残されています。そのため、私たちナレッジワークはできる喜びが巡るような社会を作れたらいいなと思っていますし、私たちが提供するKnowledge Workがその問題を解決できるきっかけになれば良いなと思います。残念ながらまだプロダクトをお見せすることはできませんが、このビジョン実現に向けて頑張っていきたいと思っています。

(文・構成:辻良太朗)


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