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アメリカには尻を見に行くんだよ。

まだ東京で仕事をしていた時の事。その日、フレキシブルと言う会社の仕組みを大いに利用した私は昼の11時頃に悠々と出勤していた。いや、今日は夜中まで飲み会なんだ。接待なんだ。昨日もそうだったんだ。仕事は終わらせてある、今日は比較的自由なんだ。

そんな言い訳をしながら音楽を爆音で聞く。会社までは駅から15分ほど。
ふと気が付くと、目の前に監査役がとぽとぽと歩いていた。

「ぉはようございまぁす!今日もお疲れさまでぇす。」
二日酔いだろうが、元気いっぱい制作会社のノリで挨拶をする。

「おお、墨さん。元気そうで何よりだねえ。朝からとても楽しそうじゃないか。若い人は良いねぇ。」
「そうなんですよ。今生活が楽しくって。監査役、何かこの頃楽しいことありました?」 

至って普通の形式的な会話である。監査役が返答する。

「そうだねぇ、今って言うわけじゃないんだけどねぇ、私ディズニーランドが大好きでねぇ。若い時にはよくアメリカのディズニーランドも行ったもんだよ。」
「ディズニー。そうだったんですか。どんな所がお好きなんです?」

齢70歳を超え、ディズニーが好きで堪らない爺様なんて少しファンタジーじゃないか。私の好印象を感じた取った監査役はニコニコと話を続けた。

「アメリカ女のねぇ、尻の形がもう見るたびにたまらなくてねぇ、あの尻の形、本当に好きなんだよ。それを見るのはディズニーランドが一番でねぇ。特に太ってるのがいいんだ。」

下品だ。セクハラだ。何より聞いていて、気分が悪い。今まで挨拶しか交わしたことのないような関係性で、いやその関係でなくともするべき話ではない。

私の引きつった顔を視界にも入れず、うっとりねっとりと記憶だか妄想に浸る監査役を見て、私は何も言わずに速足となり、監査役をその場に置き去りにした。

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