寒い日のバス

思っていたよりも打ち合わせが早く終わったので、次の予定まで微妙な時間が余ってしまった。ここはグランドセントラル駅のそば。目的地はトライベッカなので歩こうかと数ブロック歩くも寒さで断念。バスに乗る。

そのバスにはおばあちゃん数人、そして二人の男。
1人の男が何かを言い始めた。
声がかすれ過ぎていて、正直何を言っているのか解らないが、ポエムやラップのようでもあり、彼の声は壊れたラジオを彷彿とさせる。

前に乗っていたもう一人の男、しばらく我慢していたがイラッとしたのか "Shut up men (おい静かにしろよ的な)" と声をかける。

だが、一方の壊れたラジオはそのまま壊れたラジオであるからして、ずっと何かをがなっている。
いや、何かとつながっている。

イライラっと更にしたらしき、前席の男。
" Shut the Fuck Up! (黙れって言ってんだろ!)" 
と言うと、後部座席のラジオガイはまるで田舎の森の中の誰もいない池のようにピタァーっと黙ってしまった。

間にいた私、そしてお婆ちゃんズはそっと肩をすくめ、顔を見合わせる。

数駅過ぎ、前にいた男がバスを降りる。
後ろの男はやつが完全に降りたのを見計らい、
"What's a good day! (なんていい日なんだろう!)"と一声叫び、
また壊れたラジオ音を繰り返す。

おばあちゃんズも降り、
ラジオもとうとうバスを降りた。
おばあちゃんズが降りたあと、独奏会が始まったのは言うまでもなく。うるせえぞなんて言う無謀さは無論持ち合わせちゃいない。

社内はもはや私一人。
静かに座っているとバスは止まり、車掌が私に言う。

お疲れ。アスターついたよ。終点だよ。

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