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社労士的就業規則の作り方 4 試用期間と労働条件

鹿児島で社労士をしています原田です。
 社労士がいつも大好き就業規則の作り方です。序盤の条項は労働者が見ると全然面白くないのですが、思ったより奥深いのです。

ここでは厚労省モデルを使って、社労士が就業規則に対してどうアプローチするかを案内しています。


第二章 採用、異動等 第6条~

(試用期間)
第6条労働者として新たに採用した者については、採用した日から◯ か月間を試用期間とする。
2 前項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、又は設けないことが ある。
3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入 社後14日を経過した者については、第53条第2項に定める手続によって行う。
4 試用期間は、勤続年数に通算する。

モデル就業規則 令和5年7月版 厚生労働省労働基準局監督課

 試用期間です。安易なようで安易ではありません。
モデルの解説は非常にあっさりしているので少し説明します。

 試用期間だから自由にクビにできるわけでは無いので、試用期間中に解雇や本採用拒否となる取り決めは、できるだけ具体的に厳密に記載したいところです。限定列挙することで、安易な本採用拒否を会社にさせない効果もあります。

 試用期間は「解約権留保付労働契約」と言われています。参考になるのは有名な三菱樹脂事件(試用期間中に過去の学生運動をしていたことが判明したため、本採用拒否した事件)

 試用期間中の解雇であっても、対応は慎重でなければなりません。だからモデルの解説でもあまり触れたくないのでしょう。解雇権の話を詳細にすれば、それが厚労省見解だと言われかねません。

 本採用拒否は、判例を見ても明確に線引きができているわけでは無いので、個別具体的に、かつ慎重に判断すべきものです。先の三菱樹脂事件でも最高裁判所は、
「客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」
としています。その具体性には学説的にもいろいろあるし、それに反対する学説もいろいろあります。時代背景でも判断が変わったりします。そもそも三菱樹脂事件でも、地裁・高裁で労働者勝訴で、最高裁で判決破棄の差し戻しをしているぐらい、絶対的にどちらが正しいと断言することの難しさを示しています。(ちなみに三菱樹脂事件は最終的に和解したので、最終判断は示されませんでした)

 社労士的には「きちんと明示だけはしておく」という対応が望ましいでしょう。玉虫色の書き方ですが、規則でどう明言しても、それは司法で必ず通用するとは限りません。むしろそういう状態であることを社労士としては理解しておくことが重要です。

 第2項はそのままです。
時々短縮だけでなく、1年を上限として延長できるようにしたりします。
1年以上はダメだという考え方が主流です。1年以上の延長を可能にしたとしても、それをもって試用期間中の要因に抵触したことを理由とした解雇は負ける可能性が高いです。書いたことで事業主が勘違いすることは書かない方がいいと思います。

 第3条はモデルの解説を読んでください。労基法通りです。

 第4項の勤続年数通算についてです。
 その勤続年数が何に影響しているのかによって判断が変わります。有給や社保の適用等の法令で定めているものは、当然に勤続年数に通算します。

勤続年数が関係する、法定外の事象としては、
・退職金
・永年勤続表彰
・昇給の等級
ぐらいでしょう。

 両方とも法の定めが無いので、通算しなくても良さそうな気もしますが、個人的には「数カ月ぐらいをケチるとか、セコイことしなくて良くない?」と思ったりします。

 中小企業の場合は、退職金制度を設けてあっても、◯年以上在職でないと退職金が出ないような定めにしていることが多いです。まして永年勤続だと10年や20年勤続の話をしているので、「最初の数カ月は除外だったね」などと祝いと感謝の場を削ぐようなことが言えるでしょうか?

 昇給規定として等級表を定めて運用する場合であれば、原則的に定期昇給の月を定めているはずです。定めていないなら、等級票の意味がありません。そういう意味で、故意に私も定めてない場合はあります。理由は違法ではありませんが、あまりよろしくないので言いません。

 昇給の月を定めていないなら勤続年数自体が関係無いし、定めているなら試用期間が適用された人の多くが、入社翌年度の昇給は無しになります。新人を退職させたい会社だと思われるでしょうね。特定の人物を昇給させたくないなら、当然に評価が悪いでしょうから、正当な理由で昇給を止めればいいですし、資金的に厳しいのであれば、昇給規定上で全員の昇給を停止する措置にするだけであり、試用期間を理由として、勤続年数の数カ月をちょろまかす必要などありません。

ということで、真に会社の成長発展を考えれば、言葉遊びのように
「試用期間の数カ月を通算しないと得する」
などと提案してはいけません。こんな提案をするコンサルや社労士がいるとしたら、頭が悪いと私は思います。これは個人の感想です。


(労働条件の明示)
第7条 会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。

モデル就業規則 令和5年7月版 厚生労働省労働基準局監督課

 あまり規則として重要な条文では無いと感じています。これは就業規則の中では珍しい事業主に対して強制する条文です。中身は労働基準法通りです。

労働基準法 第15条
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。(第2項以降省略)

労働基準法 第15条

 ここについての詳細は、労働基準法施行規則第5条の通りで、モデル内にその説明が詳細に書いてあります。そっちを読めば十分です。労基則第5条は長文なので転写しません。それも読まなくていいです。

 労働条件通知書や雇用契約書については、就業規則上の条文よりも、作成した中身が圧倒的に重要です。

重要なのでもう一度言いますが、労働者への規制ではなく、事業主への規制条文ですから、「書いてるからやってね」という事業主に対する作成者のメッセージのような気がします。

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厚労省モデル就業規則はこちら

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