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福祉における人的資本経営

皆さん、こんにちは。
福祉の社労士なかざわです。

今に限ったことではありませんが、福祉事業を経営されている方から
「人手不足」「採用が難しい」「人間関係のイザコザに辟易」
「職員が成長しない」「すぐにヒトが辞めていく」等
ヒトに関するお悩みをよく聞きます。

これらの悩みは、福祉にとって永遠の課題なのかもしれません。
しかし、それらの悩みが全て消えてなくなってしまう経営手法があります。

それが、「人的資本経営」という経営手法です。

皆さんは「人的資本経営」という言葉をご存じでしょうか?
有価証券報告書への人的資本情報記載の義務化を皮切りに、各方面で様々な議論がされているので耳にしている方も多いのではないかと思います。

しかし、現在話題にあがる「人的資本経営」は義務化に伴う開示を前提とした議論が多く、中小企業や福祉業界向けの内容になっていません。

そこで、今回は、本来の「人的資本経営」とは何か
福祉では、どのように人的資本経営を実施したら良いか、について
独自に研究し、まとめましたので、
その内容をご紹介していきたいと思います。

人的資本経営とは

いま、「人的資本経営」と検索すると、沢山の情報が出てきます。
よくあるキーワードとしては、「人材版伊藤レポート」「ISO30414」「開示義務」がヒットするかと思います。
これらを読んだことのある方は「結局、人的資本ってなんなんだ?」という感想になるのではないでしょうか。

各所で解説されている「人的資本経営」に少しズレがあり、これが余計に混乱させる原因となっています。
なぜ、ズレるのかというと、解説する方の視点がそれぞれに違うためです。

具体的にいうと、伊藤レポート、ISO、開示義務について解説する場合や
HRテックの販促等、目的によってその視点が少しずつ変わってしまいます。

開示を前提とすると、目的にズレが生じてしまうため
「福祉」
の人的資本経営では、開示を前提としない
元来の「人的資本経営」として、以下のように意味を捉えます。

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

経済産業省HPより

「資本」とは何か

「人材を「資本」として捉える」とはどういうことでしょうか。
これは、財務上、人材にかかる費用を「人件費」として費用計上していることもあり、どうしても人件費は「コスト」として見てしまうのですが
これを、「資本」として捉えようという話になります。

1つ例え話をします。
マイホームを3,000万円で購入し、ローンを月々10万円支払う場合と
家賃10万円のところに住む場合
10年後には下の図のような違いがでてきます。

持ち家の場合はローンを支払った分だけ「資本」として積み上がりますが
家賃の場合は「費用」として支払うだけで、手元には残りません。
(例え話ですので、細かいリスクや減価償却の話は忘れてください)

人的資本をもう少しわかりやすく

仮に職員30人の事業所があったとします。
ある日、職員30人が全員退職してしまいました。
しかし、奇跡的に30人の採用が決まり翌日には通常通り開所できました。
という、出来事があったとしましょう。

この場合、翌日の現場はどうなるでしょうか?
おそらく正常な運営はできませんよね。

〇〇さんの介助ってどうするの?とか
手袋の在庫ってどこに保管されてるの?とか
記録ってどこに書くの?とか

おそらく慌ただしい日になると思います。

しかし、前日までは通常に運営されていた訳です。
人数も変わっていないのになぜでしょう?

皆さんお分かりだと思いますが、
退職した30人には今までのノウハウや経験値がありました。
それが、突然なくなってしまったため
現場が立ち行かなくなってしまうのです。

この、財務諸表には載ってこない
「見えない資産」に着目するのが「人的資本」ということです。

福祉に人的資本経営が必要な理由

人的資本経営のイメージは掴んで頂けたかと思います。
では、なぜ福祉に人的資本経営が必要なのでしょう。

人的資本経営とは、「人件費を払う」ではなく「ヒトに投資する」
という考え方をします。
×「単純に、外部研修に職員を派遣する」
       ⇩
「この職員には、将来こうなって欲しい、
  だから、これを教えて経験値を積ませる。」
というような発想になります。
このように「投資」をすると、ヒトの質がどんどん向上していきます。

福祉のようなサービス業に該当する仕事は
職員の質がそのままサービスの質に繋がります。
そのため、福祉と人的資本経営はとても相性が良いといえます。
これが「福祉に人的資本経営が必要な理由」ということです。

具体的な人的資本経営の実行方法

「ヒトを資産として捉える」こと
「福祉に人的資本が必要な理由」については
お分かりいただけたと思います。

ただし、考え方を変えただけでは何も変わりません。
ここからが、本番開始です。

具体的に人的資本経営を実施するということは、
以下の3点を行うことを指します。

①人的資本のマテリアリティ(重要要素)についての現状を把握する
②現状からみた目標・理想を設定する
③目標・理想に向けて改善を行う

各項目を1つずつ、詳しくご紹介していきます。

①現状を把握する

人的資本経営の重要要素について
現状をアンケートやヒアリング等の調査によって把握します。

人的資本経営の重要要素は、次の8つを指します。

重要要素について、少し深堀してご紹介したいと思います。
具体的には、以下のような内容になります。

①組織:組織文化や最適化された人材配置・組織構造、従業員間のコミュニケーション
②採用・定着:法人に足りない人材の確保、戦略的採用、エンプロイージャーニー(入職してからの全ての体験)の設定
③人材育成:将来的な組織形成を見据えた育成、育成状況の適格な把握
④処遇・報酬:職員の能力と連動した報酬制度、報酬との連動を前提とした評価制度
⑤エンゲージメント:組織風土レベルの向上、理念の浸透
⑥ダイバーシティ:年齢、性別、障害の有無等、時間、職種等多様な働き方
⑦コンプライアンス:法令違反の数、管理職のコンプライアンス意識・知識、健康経営
⑧コスト・労働生産性:人件費、採用・育成コスト、職員一人当たりの付加価値

この要素の中から、重視している又は優先度が高いものから
調査等を行い、現状どのようになっているか把握します。

この、現状把握が一番重要で、ここをしっかり行わないと
巻き戻り等が発生する原因となりますので、注意しましょう。

②目標を設定する

①で把握した要素について、目標を設定します。
「人材育成」について例を挙げると以下のようになります。

現状:特に人材育成について具体的な施策は行っていない。
中期目標:実行・評価・フィードバックの流れがサイクルし、育成が仕組み化する
長期目標:育成のPDCAサイクルが循環し、従業員一人ひとりの成長段階に合わせた育成を提供することが風土として根付く。また、人材戦略に合わせた人材へ育成することができる。

目標を設定するときのポイントは「経営戦略」と連動しているか、に
着目してください。
経営戦略と人的資本経営における目標の部分がズレていると
経営に一貫性がなくなり、年月が経つほど修正が難化します。

③改善を行う

改善を行うとは、
「現状と理想のギャップを埋める」ということです。
これまで、現状を把握し、理想・目標を設定してきましたので
あとは、これのギャップを埋めていくということになります。

改善を行うポイントは「KPI(重要業績評価指標)を設定する」ことです。
KPIは福祉業界ではあまり馴染みのない言葉だと思いますので
少し解説させて頂きます。


KPIの例:
目標:月の売上「100万円」を達成したい
・商品の単価は10万円である
・100件訪問すると2件は話を聞いてくれる
・話を聞いてくれたら2件に1件は買ってくれる
これらが過去のデータからわかっていたとします。
これを計算すると目標を達成するための行動数が判明します。

①10件に販売すれば(10件×10万円)100万円達成する。
②100件訪問すると1件は買ってくれる⇒売上10万円
③100×10=1000件
つまり、1000件訪問すれば「売上100万円」は達成できます。
これをもう少し進めると、

①月の所定労働日数が20日
②売上達成に必要な訪問数1000件
③1000件÷20日=50件/1日
1日に50件訪問すれば売上100万円達成することがわかりました。
この、目標を達成するためには「〇〇を〇回行う」という数値指標を
KPIと言います。
今回の例でいえば、「1日50件訪問する」が売上達成のKPIです。

このように数値管理を行い、改善を行うようにしましょう。

まとめ

これまで人的資本経営の流れについてご紹介させていただきました。
①~③を繰り返し行い、企業文化へと定着させる。
これが「人的資本経営」です。

この人的資本経営を行えば、理論上ヒトに関するすべての悩みは消えてなくなることでしょう。

ただし、人的資本経営の8要素すべてを理想・目標まで改善していくことは
容易なことではありません。

しかし、この先の時代「人手不足」が急速に激化していき
利用者からだけでなく職員からも選ばれる事業所にならなければ
生き残っていけません。

大切なのは、先延ばしにせず、少しずつでも良いのでやってみることです。
この記事を読まれて、少しでもお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

最後に少し宣伝をさせてください。

私は、元福祉職員の社労士で
現在、事業所の抱える悩み・問題を解決するお手伝いをしております。

もし、お悩みや本記事でのご質問等がございましたら、
全身全霊でお返事させて頂きますので

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