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京都SFフェスティバル2019参加レポート(天津一)

 京フェス以前に、僕はまともなSFイベントに参加したことがなかった。中国にSFイベントがないわけではなく、むしろこの数年の間にイベントの質量ともに著しく成長していると聞いているが、自分が高校時代のころは中国SF大会のような遠くて敷居の高そうなイベントしかなく、とても高校生一人で手軽に参加できる雰囲気ではなかった。それゆえ、僕は中国と日本の事情を直接に比べることはできない。

 このように、僕ははじめてSFイベントに参加することになったが、そのはじめてのイベントになった京フェスでたくさんの方々と出会い、様々な励みと知識を得て、人生において非常に貴重な体験になった。

 夏休みの時、下村さんに参加しないかと誘われた。驚くべきほどお財布にやさしい参加費と、面白そうなイベント設定に惹かれて、参加するのを決めた。さらに、下村さんから中国SFの企画を合宿でやってみないかと提案され、京フェスに対する期待がますます大きくなった。

 しかし、参加する直前、未曾有の強烈な台風が襲来し、飛行機と新幹線が次々と止まり、夜行バスを予約した僕しか参加できなくなるのではないかと思い、イベントはどうすればいいかと心配していた。

 幸い、他の部員は前日入りを決め、心強く参加することができた。

 高速道路に降り注ぐ大雨の音を聞きながら、バスの長い長い旅路の途中で『なめらかな世界と、その敵』を読んで時間を潰していた。大雨のせいでバスの到着は大幅に遅れたが、ちょうど受付が始まる前に京都に着いた。

 急いで会場についたら、人の少なさと会場の狭さに少し驚いた。しかし関東で「三体」のイベントが行われ、その上台風のせいで足止めされた参加者も多かったからしょうがないだろうと思った。

 1コマ目に行われた藤井光先生・木原善彦先生の実験小説企画は、自分が子供の時読んでいたAVGみたいな子供向けのホラー小説や探偵小説を思い起させた。読者の選択によって読むべきページを選ぶとか、本に付けられた隠し文字を表す用のカードとか、改めて考えてみると、書かれた当時では一種の実験小説といえるものだったのだろうと思う。最近の海外の実験小説はあまり読んでいないが、この計画を通じて小説の表現方式について改めて考えはじめた。

 午後に行われた小川哲先生と小川一水先生の対談企画や小林泰三先生と矢部崇先生のホラー企画で、創作者の気持ちを少しわかるようになった。特に小川哲先生が語った、修行めいた大学時代の生活を聞いて、プロの努力に感心した。小林泰三先生と矢部崇先生の「〔少女庭国〕」に関するディスカッションを通じて、小説の発想がどのように生成されたのかを覗うことができた。

 合宿で、僕は自分が担当した「東北大SF研、中国SFを大いに語る」の他に、「英語圏SFの部屋」「 魔術的リアリズムに見るSF――ラテンアメリカ文学部屋」「 SF・海外文学読書会(仮)出張版 伴名練『なめらかな世界と、その敵』他」、この三つの企画に参加した。インドなどの西洋ではない英語圏SFの考察や、ラテンアメリカ文学に対する整理と再考などのがっちりしている研究に感心した。特に自分は今まで趣味本位でSFを読んできたので、これからもっと系統的に勉強しないといけないと感じた。

 僕と下村さんが主催した「東北大SF研、中国SFを大いに語る」では驚くべき成功を収めた。以前東京のバー「早稲田あかね」で中露SFに関して発表したことがあるが、参加者の人数と情熱、どちらについても前回の経験と自分の予想を超えた。日本のファンたちの中国SFに対する関心を切に感じ、自分もいつかもっと系統的に語れるように、そして中国SFを超え、他の分野について皆さんと語れるようになりたいと思う。

 企画前後のフリータイムで、僕は大部屋で他大のSF研や作家など様々の人々と語った。参加者たちは自由に酒を飲んだり、横たわったりして、上下関係とかも一切なく、気軽に語り合っているシーンは、自分が京大を受験する前夜に吉田寮に宿泊した時に見た景色を思い起させた。日本のファン界隈とプロの間に密接な関係に驚きと憧れを抱きつつも、他大のSF研に今年新入生がいなかったこと、若い読者が少ないという厳しい現状を聞き、心配を隠せなかった。

 京フェスに参加したことが、大学生活において貴重な記憶となった。他の来場者とのインタラクションで、知らなかった世界が目の前に開かれ、自分もそこへ到達したいとワクワクしてたまらなかった。

 これからも、色々とよろしくお願いいたします。

(天津一) #SF


執筆者紹介

天津一(AMATSU, Hajime)
 東北大SF研。中国生まれのSFファンの留学生。2018年、東北大学に入学。
 2018年の冬コミ刊行の東北大SF・推理研機関誌『九龍』に中国のSF作家潘海天の短篇「偃師伝説」の訳を寄稿(下村思游と共訳)。2019年の京都SFフェスティバルでは下村とともに合宿企画「東北大SF研、大いに中国SFを語る」を主催、合宿企画中もっとも多くの参加者を集める。2018年末に東京・早稲田のバー「早稲田あかね」で中国・ロシアのSFに関するトークショーを行い反響を呼ぶ。2020年元日夜に同じく「早稲田あかね」で劉慈欣「三体」の解説トークショーを開催。目下、韓松「暗室」の翻訳中(下村思游と共訳)。

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