ROCKET DIVE

 下らない調査ものや関係部署からの連絡が絶え間なく降り注ぐメールボックス。後任の参考になるかと思い、重要なやり取りは残しておきたいと考えているが(かつて所属していた部署の前任が、丁寧にメールのやり取りを残してくれたおかげで、大分助かった経験がある)思うように整理が進まない。先週、一念発起して、5,000通以上あった送受信ボックスの中身を要不要に仕分けし、4,600通にまで削減したものの、それから数営業日で4.872通にまで膨れ上がった。性質の悪い病原菌との闘いのようだ。深く大きなため息が思わず漏れる。その鈍色のため息が、テレワークする部屋の中に拡散して充満する頃、大体、心を過る台詞は、いつも同じだ。

こんなはずじゃなかったのに。

 思考停止に陥り、思わずうずくまりたくなる。そういうときに限って、また新しいメールが届く。送り主は、全く意味の感じられない仕事のための仕事のような調査ものの依頼主だ。「既に締め切りを超過しておりますが、いつになったら提出いただけますでしょうか。」そもそも、お前が大分余裕を持って設定した恣意的な〆切自体に異議を唱えている私には、何度催促をしても意味のないことだと、こいつはいつになったら察するのか。あるいは察した上で、機械仕掛けの人形のように業務をこなしているのか。追い打ちをかけるように、職場から支給された携帯電話が鳴り響く。電話の主は、管理職なのに何も管理しないやつと陰で悪口ばかり言われているポンコツ課長ではないか。今度は、さっきのセリフが心を過るばかりか、頭の中で止めどなくリフレインし始める。

こんなはずじゃなかったのに。

 その台詞で、自分の頭の中、心の中、体の中が十分に満たされたとき。そのたびごとに、自身の人生を振り返ってハッとする。

いやいや、お前が送ってきた人生はその程度のもんだよ。今のお前にちょうどお似合いな人生じゃないか。

 外側から自分を眺める自分が、他人事のように語り掛けてくる。もう我慢ならない。イヤホンを取り出し、大音量で音楽を流す。曲はhideの「ROCKET DIVE」。


大体おんなじ毎日、それでまぁまぁそれなりOK。だけど、何となく空見上げちゃうでしょ。

例えば旅の途中。君のエンジン空回りで、それで何となく空しくなるでしょ。

なんにもないってこと、そりゃあなんでもありってこと。君の生きたい場所に、どこでも行ける。

何年待ってみても何も降ってきやしないんだろう。

待ってるだけの昨日にアディオス。


 好きになったのは、hideがこの世を去ってから随分あと。彼の生前には、なんとなく歌声が好きになれずにいたけど、今は煮詰まったら必ず聞いている。この曲がXJAPANの解散後すぐにリリースされたこととか、歌詞とかをよく聞くと、何というか、すごく前向きで優しさに溢れた曲だなと思う。高校生とか大学生の時の自分に教えてやりたい。ありがとうhide。元気出てきた。また明日からコロナウイルスみたいなメールボックスと闘ってくるわ。

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