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ゲームのランキングが感情をかき乱すのはなぜか?

テレビ朝日の「テレビゲーム総選挙」が放送されて盛り上がっていたようですね。1位は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』! なるほど、確かにこの作品ならばトップになるのもわかります。

さて、こういったランキングが発表されると「あれが入っていない」だとか「なんでこれが1位なのか」などの意見が出てきます。盛り上がる一方で、荒れたりモメたりもするわけですね。

そもそも『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が1位なことに「おかしい」だとか「にわか」なんて考える人もいるようです。なぜこんなことになるのか、ゲームライターとして活動する(いわばゲームを遊んだり感想を語るプロである僕が)理由を考えてみましょう。

◆そもそも「ゲームのよさ」には順位をつけられない

ティラノサウルスと戦車が戦ったらどちらが勝つでしょうか? こう聞くとおそらく答えは割れる可能性があるでしょうし、そもそも「違う時代のものなので戦うこと自体がおかしい」だとか「仮に実現しても状況による」という答えになるでしょう。

ゲームもこれと同じです。たとえば『スーパーマリオブラザーズ』は1983年に発売された作品で、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は2017年に発売された作品、つまり34年も間があるわけで、これらを単純に比較しようというのは無茶なわけです。

しかもゲームは進歩がものすごく、15年くらい経てばレトロゲームといってもいいかもしれないくらい時間の流れが速い。時代や土俵の違うものを一緒くたにしたら細かい部分の解釈によって意見が割れるわけで、荒れるのも至極当然といえます。

そもそもゲームは総合芸術と言われるように、ストーリー・音楽・グラフィック・ゲームシステムなど複数の要素で作られているうえに、ジャンルも多岐に渡ります(おまけにジャンルの定義もあいまい)。昨今はユーザーに対するサービス提供型のゲームも当たり前になっているわけで、これをひとまとめにすること自体が難しいわけですね。

◆ランキングは「感性の正しさバトル」とも解釈できる

もうひとつポイントとなるのが感性です。同じ創作物を見た・体験したとしても人間それぞれによって反応は異なります。平たくいうと、好きなゲームは人それぞれというわけですね。

これ自体は別に問題ないし誰もが認めてくれるのですが、しかし「どれが一番か」決めるとなるとモメかねません。なぜなら、自分の感性が正しかどうかの戦いになりうるからです。

自分の好きな作品を否定されたとき、まるで自分そのものが否定されたかのような気持ちになったことはありますか? 実は、ゲーム制作者ではない単なるゲーマーでもこういったケースはよく見られます。逆に、自分が嫌いな作品が認められたときに「わかってないな」となってしまうこともあるのではないでしょうか(ゲーム以外でも邦画とか、いろいろ見下されやすいものもありますよね)。

つまり、「自分の好きな作品≒自分の感性」になり、「ランキング≒自分の感性の正しさの証明」になりうるわけです。「自分は○○○が好きなのに1位になっていないのはおかしい!」と怒る人が出るのも仕方がなかったりします。

◆ランキング企画の「状況」

さて、ではわれわれはどうランキングを向き合えばいいのでしょうか? 先のティラノサウルスのたとえに出しましたが、ひとつの答えは「状況による」と解釈する行為になります。

ゲームもまた文脈によって評価されますし、時代によって解釈は変わり、場所によっても評価は変化します。ゲームメディア「IGN JAPAN」のゲーム・オブ・ザ・イヤー(GOTY)2021は『サイバーパンク2077』が輝きましたし、同サイトのユーザー投票でもGOTYに選ばれました。

ただし、『サイバーパンク2077』は規模の大きすぎるマーケティング、PS4・Xbox One版の致命的な不具合などで非常に問題視されたタイトルでもあります。にも関わらずGOTYとは! と思うかもしれません。

とはいえ、これも背景を知れば別に不思議ではありません。IGN JAPAN編集部にはサイバーパンク好きの方が複数いますし、レビューでは10点満点を獲得、確か広告も出ていたはずです。そのメディアと趣味の合う読者がいる(もしくはそういう人たちが熱心な読者になる)わけで、ユーザー投票でも1位になるのも道理といったところでしょう。

別の例を挙げましょう。2021年11月末、『ダークソウル』が「史上最高のゲーム賞(Ultimate Game of All Time)」を受賞しましたが、これもまた喜ぶ人がいる一方でモメているケースも見ました。

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しかしこの賞、ノミネート作品を見るとおもしろいです。というのも、『ダークソウル』と『テトリス』と『ポケモンGO』と『シムシティ』なんかがノミネートされて、それらで比較しているわけですよ。そんなことある? と言いたくなるほどごった煮ですよね。

■「Ultimate Game of All Time」ノミネート作品
・『マインクラフト』
・『ラスト・オブ・アス』
・『ドゥーム』(1993)
・『ダークソウル』
・『テトリス』
・『スーパーマリオ64』
・『ストリートファイター2』
・『スペースインベーダー』
・『ポータル』
・『ポケモンGO』
・『スーパーマリオカート』
・『グランド・セフト・オート V』
・『スーパーマリオブラザーズ3』
・『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』
・『ヘイロー コンバットエボルヴ』
・『メタルギア・ソリッド』
・『ハーフライフ2』
・『コール オブ デューティ4 モダン・ウォーフェア』
・『パックマン』
・『シムシティ』(1989)

結局のところ、ゴールデン・ジョイスティック・アワードの審査基準ではこういったタイトルが入り、オンライン投票によって『ダークソウル』が選ばれたという話に過ぎないのです。

いわば「その状況でその作品が選ばれた」だけ。「テレビゲーム総選挙」でいえば、「テレビ朝日」が集めた「日本全国のアンケート調査」による「5万票」において『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』がトップになったに過ぎず、カギカッコでくくった前提(つまり状況)が変われば結果も容易に変化するでしょう。

◆感性を他人に評価させるべきではない

「感性の正しさバトル」もやめたほうがよいかと思います。前述のようにアワードはその状況によって受賞するものが違うわけで、「○○のGOTYで自分の好きな作品が選ばれたから、自分は正しい」とはなりません。

ゲームを遊んだり、映画を見たあとTwitterで感想を検索して反応をチェックする……というのもいわば感性の答え合わせですが、感想なんて薄っぺらいものであろうがなんだろうがよいわけです。正誤なんてないものですからね(とはいえ、認識の誤りなどはあるのでなんでも通るわけでもないですが)。

また、アワードにおいて評論家はあくまでゲームを評価していると捉えたほうがいいかもしれません。どういうことかというと、その向こうにいる人間の性格や感性を評価しているわけではないのです。当たり前ですが。

◆結局のところ、ランキング企画をどう楽しむべきなのか

というわけで、この手のアワードとかランキングは「誰かが何かの基準で決めたものである」という前提を意識しておくのと、「自分の感性と合ってる or 違っている場合でも、なんらおかしくないと捉えておく」のが重要かと思います。

簡単にいえば、「へー、このランキング(アワード)ではこういう結果なんだ」くらいの捉え方がいいのでしょう。

しかし、口でそうは言っても実際は非常に難しい話です。自分の好きなゲームが褒められたら嬉しいし、そうでなければくやしい気持ちになりうる。ランキングが作られればそれがどういうものであろうとも気になるのが人の心というものです。

比較しなければ苦しみは生まれませんが、そもそもよそや他人と比べたくなるものが人間というもの。ゆえにランキング企画やアワードは作られるわけです。いわば写し鏡。需要があるからランキングやアワードが作られる。そして人がそれに喜んだり心を乱されたりする。これもいきもののサガか……。

結局のところ、こういうものから人間は逃れられないのかもしれません。

以下、おまけです。有料マガジン「ゲームを遊んで書いて儲ける楽しみと苦しみ」購読者向けに『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が1位になった理由について書いてみようかと思います。

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