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ひとり何個まで?

「いただきます!ひとり何個まで?」
と必ず言っていた。
子どものころの話だ。

当時は父だけものすごく帰りが遅かった。
母から「お父さんの分、とっておきなさいよ」と言われても、私たち3兄妹は構わずごはんをかき込んでいた。

ある日、深夜に目が覚めてしまった。たぶん小学3年生頃だったと思う。
1階のトイレに行くため階段をおりていく。
居間の明かりが点いていて、父と母の話し声が聞こえた。
お父さんが帰ってきてるならちょっくら顔出してお喋りでもしてあげようか、と思ったが、父の叫びが聞こえて、ちょっくら顔出せなくなってしまった。

「ええ~!おかず、こんだけえ~~?」
「あ、ごめん。明日から多めに作っとくよ」
これはまずい。中腰で子ども部屋に引き返した。

次の日から「いただきます」のあとに「ひとり、何個まで?」と続けるようになったのだ。
まだ割り算を習っていなかったのか、習っていたけどできなかったのか覚えていないが、母には「恥ずかしい。それ絶対外食のときやらないで」と言われた。

それから約30年が経ち、私たち3人兄妹は独立して暮らしている。
両親にとって、夫婦ふたりきりの生活も15年以上になった。
たまに両親の家に遊びに行くと、母は、父母+私の3人分よりだいぶ多めのおかずを食卓に並べてくれる。

昨日、父が言った。
「いただきます。お母さん、これひとり何個まで?」
父よ、あんたもか。

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