840「不同意性交罪」成立 性暴力根絶への一歩だ 琉球新報社説2023年6月19日  

 同意のない性行為は犯罪である。そのことが刑法で明確化された。

 背景には性暴力を訴えた裁判で無罪判決が相次いだことがあるという。女性が命懸けで抵抗しなかったら、男性が「同意があった」と誤認するのもやむを得ないと判示したものだ。

 裁判官は法律の文言に拘束される。おかしいなと思っても条文とかけ離れた判決を下せない。

 そこで法律文を書きかえればいいではないかとなった次第。三権分立が機能した事例と積極評価しよう。

 ただし「合意があったのか、なかったのか」。これは当事者の内心に関わる部分が多い。客観的状況を踏まえてどうにも釣り合わないといった場合には、「同意はなかったはず」と言えるだろうが、多くは判定が難しいのではないか。

 それでも(主として)女性側の人権を守るためには、厳罰は不可避であるというのが今回の立法理由だろう。

 ならば厳罰化に並行して、被疑者側の反撃権にも配慮がなければバランスが取れないと思う。

 例えば電車内の痴漢。痴漢と騒ぎ立てられて逮捕拘留され、周囲の信用まで失う事例がまま見られる。ほんとうの痴漢犯であれば厳罰が相当。ところが間違いであった場合、なかにはその男性を陥れるために女性を巻き込んでしくまれることがある。

 男性の親せき等の必死の調査ででっち上げであったことが判明したとしよう。その場合、罠にかける行為に参画した女性たちはどの程度の処罰を受けるのか。「ゲーム感覚でした。ご免なさい」の一言で終わるのであれば、罠にかかった男が救われない。

 強姦だと訴えられ、よくよく調べてみれば、美人局にはめた男が脅しどおりにカネを払わないので、虚偽の刑事告発をすることなど小説の筋ではいくらでも見られる。「そんな筋書きに引っかかる男など現実にはいない」のであれば結構だが、果たしてどうか。

 現行刑法にもいわゆる誣告罪(虚偽告訴等の罪)があり(172条)、「人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三月以上十年以下の懲役に処する」となっている。はめようとした人が受けかかった程度以上の罪に問うべきであろうし、相手が蒙った名誉や精神的な被害賠償をさせる必要があろう。ちなみに日産の社長のゴーン氏は、日本の刑事基礎保釈中に国外脱走した身にもかかわらず、1400億円の精神的慰謝料等を逃亡先のレバノンの法廷に提訴したという。

 社説本文

 性犯罪規定を大幅に見直す改正刑法などが参院本会議で全会一致により可決、成立した。強制性交罪などを「不同意性交罪」に名称変更し、同意のない性行為は犯罪であると明確にした。被害に遭った当事者たちの声が結実した法改正であり、性暴力根絶に向けた一歩と評価したい。 

 法改正では、「不同意性交罪」の処罰要件を「同意しない意思を形成、表明、全うすることのいずれかが難しい状態」とした。被害実態に即し、暴行・脅迫やアルコール・薬物の摂取のほか上司と部下といった関係性の悪用、突然襲われて不同意を示せないケースなど8項目の要因を示した。これらに「類する」場合も処罰する。

 現行の強制性交罪の暴行・脅迫といった要件に関し、被害者らは、捜査機関や裁判所の判断にばらつきがあるとし、被害の実態に即していないと批判していた。8項目が具体的に示されたことで、客観性を担保し、裁判官の判断のばらつきがなくなることが期待される。

 また、子どもの性被害を防ぐため、性的行為に同意できるとみなす「性交同意年齢」を13歳から16歳に引き上げた。性的部位や下着などの「性的姿態撮影罪」や、わいせつ目的で16歳未満に金銭提供を約束するなどして手なずける「面会要求罪」も新設する。

 性犯罪規定が大幅に見直された背景には、被害に遭った当事者たちの切実な訴えがある。2019年、性暴力被害を訴えた裁判で無罪判決が相次いだ。福岡地裁久留米支部は、女性が抵抗できなかった状況を認めながらも、男性は女性が合意していたと勘違いしていたとし無罪を言い渡した。娘に性的虐待をしていた父親が無罪になった名古屋地裁岡崎支部のケースでは、裁判所は「抵抗しようと思えばできた」と結論付けた。

 これらの判決を受け、法制度や性暴力に無理解な社会に抗議する「フラワーデモ」が沖縄を含む全国各地で開かれた。当事者や支援者の活動が法改正につながった。今回の改正に、当事者からは「加害者に都合のいい解釈にノーを示せる」と評価の声が上がる。

 性暴力は「魂の殺人」とも呼ばれる。身体的な苦痛を与えるだけでなく、被害者は心に深い傷を負い、長く苦しみ続ける実態がある。今回の刑法改正は、性暴力根絶に向けた一歩だが、真に求められるのは社会の意識改革だ。

 同意のない性行為は犯罪であるとの認識を社会全体で共有し、被害者に対し「あなたは悪くない」「あなたは一人ではない」と伝えることのできる社会を目指さなければならない。そのために性教育の抜本的見直しが必要だ。

 公訴時効も5年延長されたが、自責の念などから申告をためらう人も多く、さらなる延長を検討すべきだ。被害を訴えやすくし、被害者に寄り添った行政の支援拡充も求められる。

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