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415台湾の国連参加

台湾有事が喧伝されている。今の時代に軍事侵攻の意思をあからさまにする中国という国の異常さと、それに対して反対の声をあげない隣国日本政府はいったい何なのか。
台湾に旅行したのは2008年の暮れ。台北駅近くのホテルに泊まり、散歩していたら博物館があった。展示は「2.28の暴虐」を糾弾する内容だった。2月28日事件?? 事前知識ゼロだったから、展示内容は驚愕だった。
1947年2月28日に国民党政府の官憲、軍隊が丸腰の市民を蹴散らし、殺戮した大事件だ。直後に政府は戒厳令を敷き、一切の関連報道を禁じたから真相は闇に葬られた。戒厳令が解除されたのは1987年。40年近い戒厳令下にあったのだ。
戒厳令撤廃後、事件が少しずつ明るみになっている。戒厳令下の台湾は、人権の面では共産党支配の大陸側と変わらなかったのだ。毛沢東も蒋介石も、自由と民主主義の敵という点では同じ穴の狢(むじな)。それを変えたのが先年亡くなった李登輝さんということになる。第7回「李登輝さんを悼む」を参照。
展示を熱心に見ていたボクに「日本人ですか。台湾は民主化されました。同じ陣営の日本を頼りにしているのです」と声をかける人がいた。どう反応していいのかとまどった記憶がある。

先日ネットで見つけた小さな記事。台湾の蔡英文総統が、2021年9月15日、「リモート形式で行われた中米独立200周年の祝賀イベントにビデオメッセージを寄せ、中華民国(台湾)と外交関係を結ぶ中米各国が国際社会において、台湾の国際参加を支持する姿勢を表明し続けていることに謝意を示した」。
 蔡総統、中米独立200周年祝う 台湾の国際参加支援に感謝 | 政治 | 中央社フォーカス台湾 (cna.com.tw)

台湾は国際開発銀行等、いくつもの国際機関に加入しているが、おおもとの国際連合には加入できていない。その余波かどうか、国際保健機関(WHO)から除外されていて、コロナ対策でのみごとな対応が世界に普及されないなどの不合理が生じている。
台湾政府は実体を伴っている。ならばその住民の意思を尊重し、独立国として承認すればいいのではないか。ボクはそう考える。
「国際政治はそんなに簡単なものではない」という“専門家”の批判がありそうだが、難しく考えることはないだろう。人々が集まって組織するのが主権在民の国家である。台湾島の人々が独立国であろうとするならば、それを承認するのが正しい道のはずだ。現に中国共産党やその筋の人が「沖縄の住民は日本からの分離を求めており、独立国として承認すべきだ」との論文を大真面目(まじめ)に発表しているではないか。沖縄の独立はよくて、台湾の独立は許されないとたった論法を典型的ダブルスタンダードという。ついでに言うと、独立国家を本気で希望している沖縄人は一握りもいないが、台湾には独立を主張する声が充満している。日本のマスコミだけが事実に即した報道をしない。なぜか。日本の外務省が中国共産党を怖れ、遠慮や過剰な配慮しているからだ。
日本の憲法は自由と民主主義を世界に広めると立派なことを言っている。憲法前文にしっかり明記している。憲法順守義務を負う政治家、公務員(特に外務省)は、自由民主主義を標榜する独立国台湾が誕生することは心強いことこの上ないはず。なぜ全面支援しないのか。
「台湾の独立を認めない。中国は一つ」との中国共産党の主張を聞いたけれど、受け入れはしないというのが1972年日中共同声明に関する日本政府の立場のはず。しかるにこんな事件があった。1994年7月、バンコクに向かう河野洋平外相(村山富市内閣)の搭乗機が台風で台北の飛行場に緊急着陸した。台湾の首脳部と会談する機会ができたにもかかわらず、河野外相は飛行機に閉じこもったままだった。そしてバンコクで中国の外相に会うなり、「台北のだれとも接触しませんでした」と報告し、相手に苦笑されている。国際的にも物笑いになった(と思う)。よく知られた事実だから、覚えている人も多いだろう。

台湾はもともと中華民国として国連に加盟していた。しかも常任理事国として。それは中華民国がアメリカ、イギリス、フランス、ソ連と並ぶ主要戦勝国の扱いだったから。ところが直後から始まった内戦で、国民党の中華民国は、共産党に敗れて台湾に逃れる。勝った共産党は1949年に建国宣言をする。中国の歴史で繰り返される「易姓革命」である。ところが台湾しか領有しない国民党なのに、「北京を含む全中国を代表する」との主張を変えなかった。一つの地域に合法的政府は一つしか存在しないはず。それで「北京を支配するのはどちら」と議論になり、1971年に台湾は国連を脱退し、入れ替わりに共産党の中華人民共和国が国連加入した。
普通に考えて、国民党の蒋介石の大陸反抗の空想がもたらした大失敗。その後、台湾人は現実に目覚めて、冒頭の記事のように台湾に存在する国家として国際社会に居場所を見出そうとしている。「一つの中国」という虚構に拘泥さえしなければ、民主主義化し、戒厳令が撤廃されて台湾土着の人(本省人)の支持を得るようになった台湾はどこから見ても国家の体をなしている。独立国として国際社会が承認すれば、すべて丸く収まる。
「バルト三国の独立」(403回)で触れたが、アメリカの立派な点は、ソ連による三国併合を認めなかったこと。台湾でもアメリカの立場は鮮明で、その存立を支持している。腰が定まらないのが日本である。自由と民主主義を国際社会に広げるという日本国憲法を無にすべきではない。今回の総裁選、そしてその後の衆院選。メインであるべき争点は何か。それに重きを置かない候補には×点をつけよう。


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