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390役所に契約社員

お役所に行くのは緊張する。区役所、税務署、法務局など、どこでも同じ。それでも昔に比べれば“親切に”なったと思う。どの窓口が担当なのか見極めようと玄関付近で見回していると、「どんな御用でしょうか」と案内役が声をかけてくれる。
さして重要な案件でなく電話でも事足りる気もしたが、散歩もかねて足を運んだ。案内役に担当部署を教えられ、受付箱に資料を投げ入れて順番を待つ。「一時間待ち」の案内表示が出ている。時間がない人用のお急ぎコースのシステムが必要なのではないかと感じる。
こういう場合、暇な高齢者は文句を言わずに待つのが社会的常識。今日は文庫小説をバッグに入れてこなかった。でもそこは大丈夫。スマホでニュースを見て時間つぶし。

順番が来たらしく名前を呼ばれた。担当者の女性の前に座る。彼女は「○○です。よろしくお願いします」と名乗った。思わずこちらも名乗りそうになったが、ボクの氏名を含む個人情報を提出した書類に書いている。「こちらこそよろしくお願いします」と応じた。
相手はボクの書類を見ながら質問する。そして必要事項を逐次パソコンに打ち込んでいく。その間、自然とさりげない会話になる。
「あら、私と同じ生まれ年ですね。今年で70歳」と彼女。「そうですか」とだけボクは応じた。
ここで「それで何月何日生まれですか」と相手の個人情報を聞き出すのはルール違反だろう。代わりに「公務員の定年は70歳に伸びたのですか」と一般的質問をしてみた。
「私は公務員ではなく、いわゆる契約社員ですから」が彼女の答え。正規の公務員ではないので、公務員定年に縛られないで働けるということなのだろう。「この職場でもかなり多いのですよ」と補足。期せずして、重要情報を得た。
わが国は欧米諸国に比べて公務員数が少ない。そういう主張を聞くが、その場合の公務員定数には彼女のような契約社員が除かれているのではないか。だとしたら公務員を増やせの主張は根拠を欠く。
そうでなくても行政客体の人びとが単一言語を話し、同一文化に染まった者がほとんど。行政サービスに必要な人員は“多種文化混在”の国々より、何割かは少なくて当然だろう。さらに彼女のような高齢者の活用の場として公務分野を明け渡すことで、現役労働人口の不足にも対応できるはずだ。
パソコンへの打ち込み作業が終盤になったところで、彼女が「私は精神保健福祉士を受けようと思って勉強しているのよ」と言う。彼女の担当窓口業務でその職種が役立ちそうなことがあるのだという。高齢になっても勉強する意欲に脱帽だ。
公務員採用試験を今後も続けるのであれば、税務職では税理士、年金事務所では社会保険労務士資格所得者に限って受験資格を与えるくらいの見直しが必要なのではないか。そして本体の公務員試験では、民主主義、自由権の保障などこの国の国是をしっかり問うべきだと思う。

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