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【2023年】8月9月10月に読んだ本


『夜間飛行』サン・テグジュペリ

星の王子さま』で著名なサン・テグジュペリの中編小説で、郵便飛行業の草創期に事業存続のため命を賭けて「夜間飛行」に従事する人々の物語。
なにかへの個人的な愛を捨ててでも自分には遂行しなければいけない「重い責務がある」という漠然とした感覚。あとがきでこの作品を読んだアンドレ・ジッドはその漠然とした感覚こそ“あらゆるヒロイズムの源”だと語っていた。細やかな心情描写と緊迫感のある展開が素晴らしかった。

『中国行きのスロウ・ボード』村上 春樹

1983年に刊行された著者の初短編集。(この本に収録されている)「午後の最後の芝生」について好きな小説家が別の本で語っていたので読んでみたくなった。そして久しぶりに読んだ村上作品の風情におおおぅ…と戸惑っているうちに読み終わってしまった。笑 「午後の〜」の他は表題作「中国行きのスロウ・ボード」が好み。“僕”が出会った2人目の中国人として出てくるバイト先の女子大生が一番印象に残った。

『この夏のこともどうせ忘れる』深沢 仁

「高校生の夏休み」という熱気と眩しさに溢れる期間に起きた少年少女らのほの暗い変化を描く短編集。
登場人物たちの浅慮に思える行動も「後のことは考えない若さゆえの勢い」ではなく無常観と諦めが漂っていて切ない。この先、絶対忘れられないけど口にも出して誰かに語ることもないような夏を「どうせ忘れるのだ」と自身に言い聞かせているようなタイトルがとても良い。

『桃を煮るひと』くどう れいん

わたしを空腹にしないほうがいい』から5年、歌人のくどうれいんさんの2作目の食エッセイ。
今回も日々の生活と食へのちょっと強火な愛情が読み心地のよい文章で綴られていた。ちょくちょく話に出てくる同居人ミドリさんとご結婚されたとのこと、おめでたい。

『ひとりで食べたい: わたしの自由のための小さな冒険』野村 真里

コロナ禍以降はとくにその機会が増えた「一人で食べること」についてをテーマにしたエッセイ。
自身も一人で食べることを心から楽しめているタイプなので内容に共感した。何を幸せで心地よいと思うかは人それぞれ。以前読んだ藤原辰史さんの『縁食論ー 孤食と共食のあいだ』を思い出した。
(そういえば、前述のくどうれいんさんの本には「どうしても私は一人でご飯を食べたくない」という話が出ている。同じ時期に読んだので対比的で面白かった)

『月金帳』石野 千/牧野 伊三夫

小説家の石田千さんと画家の牧野伊三夫さんの往復書簡。
スタート時期はコロナの最初のあたりで、週の始まりの「月」曜日と週の終わりの「金」曜日に送り合ったので『月金帳』。衣替えの報告、草花の話、食の思い出…特別なことはない身の回りから生まれた話題を平日の頭と終わりにホームページで公開された書簡を本にまとめたものだという。あの時期、知らずに感じとりにくくなっていた“いつもの” “おだやかな” “日常” をお互いに記している姿に誠実な思いやりを感じて癒やされた。

『教室を生きのびる政治学』岡田 憲治

学校や会社や商店街、どんなコミュニティにも人間の行動には同じ力学=「政治」が働いている。政治でイメージする国を治める活動というのような遠い話ではなく、半径5メートルの安全保障(安心して暮らすこと)を目的とした政治学として他者とどう関わっていくのかを教えてくれる本。
印象に残った部分はいくつもあったが、第2章が特に参考になった。

『ネガティブ・ケイパビリティで生きる』谷川 嘉浩/朱 喜哲/杉谷 和哉

ネガティブ・ケイパビリティ(答えのでないものを答えのでないまま持ち続ける能力)について3名の若き哲学者たちが対談する本。
対談の終わりにすっきりとした解があるわけではない。しかし「(都合よく見えるものも)突き詰めていくと見えてくるそれが持ち合わせているネガティブな面」に対してなんとなく持ち続けていた気持ちが、本書の中で語られていたことによって、あぁ他の人もそう思っていたのかと安心できた。なんの解決が出なくても「これってこういうかんじだよね。どうもできないけど」と誰かと共有し合うことがネガティブ・ケイパビリティの維持には大切なのかもしれない。

『協働する探究のデザイン:社会をよくする学びをつくる』藤原 さと

2020年度から始まった新しい学習指導要領で注目されている「探究学習」。
「探究」って結局なんなんだと思っていたので、既存プログラム含め歴史について学ぶことができて良かった。一般社団法人こたえのない学校代表理事である著者の「学び」に対する真摯な想いが伝わってくる。今一番欲しかった情報が詰まっていて、さらに興味と意欲を持つことができたありがたい一冊。

『子どもの難問』野矢 茂樹(編)

「友だちって、いなくちゃいけないもの?」「心ってどこにあるの?」といったような子どもが聞きそうな素朴な22の問いに対し、それぞれ2人の哲学者が子どもに語りかけるような口調で答えを述べていく構成。(メンバーがめちゃくちゃ豪華) 1人あたり1〜3ページ程度の回答なのでさくっと読むことができて、これはさらっとは答えにくいよなぁという問いに様々な視点から解答を繰り出す哲学者たちの手腕が楽しめる本。

『アクティブ・リスニング』戸田 久美

タイトルどおりアクティブ・リスニング(積極的傾聴)について書かれた本。なんのために聴くのか、カウンセリング的な傾聴術からさらにステージを変えて「ビジネスで役立つ傾聴術」を教えてくれる。
聴く姿勢での心理的安全性の確保や話を整理し理解を深めていくロジカル思考、またベースにアサーティブ・コミュニケーションの視点が入っているのがよかった。

『子どもの文化人類学』原 ひろ子

著者が極北の原住民族ヘヤー・インディアンと共に暮らしたフィールドワークでの興味深いエピソードや世界の民族(インドネシアの民族、イスラエルの共同体キブツなど)の子育て、親子の関係、子ども同士の社会などの在り方を知ることができる本。
ヘヤー・インディアンの人々がある程度の年齢になると夢に守護霊となる動物が出てきて、それ以降は生涯その守護霊と相談しながらものごとを決断をしていくという話が面白い。

その他

研修づくりのために読了。
『チームワーカー Googleで学んだ最速で成長する5つの行動原則』草深 生馬
『僕たちのチームのつくりかた メンバーの強みを活かしきるリーダーシップ』伊藤 羊一
『チームワーキング』中原 淳 / 田中 聡
『対話型授業の理論と実践』多田 孝志
『対話力―仲間との対話から学ぶ授業をデザインする』白水 始


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