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【2023年振り返り】 良かった本/Best Books of 2023

2023年は90冊の本を読みました。
その中で特に良かったものを紹介します。

振り返り…
2023年は4割近くが仕事関係のビジネス書でした。文芸書の数は少ないながらも限られた時間の中で入念に選んで読んでいたので、読後しばらく感慨に浸れるような良い作品にいくつか出会うことができました。2024年は読書時間を増やし「なんでも読んでみる」マインドで、もっと幅を広げて気楽にたくさんの本を読む年にしたいと思っています。


1.『STONER』ジョン・ウィリアムズ

貧しい農家出身の主人公ストーナーが文学と出会い、大学の助教授になって亡くなるまでの一生を綴った物語。ストーナーの人生はよかったこともその倍以上辛いことも起こるが、それでも「まぁそうこともあるよね」と思うような凡庸性が高いものだ。文学に魅せられてもその才能で突き抜けられない、しかしそれでも手放すことができない。ひと目で恋に落ちた女性と結婚できたが、その生活は早々にうまくいかなくなる。全編にわたってそうした人生の“ままならなさ”が少しずつ積み重なっていき、大きな展開もなく死という終わりを静かに迎える。読後は、その積み重ねこそが「普通」の人生に深みをひとさじひとさじ加えている正体のような気がして胸に迫りくるものがあり、日本語訳(東江一紀さん)の美しさとともにとても印象に残った。

2.『プロジェクト・ヘイル・メアリー』 アンディ・ウィアー(上巻・下巻)

『火星の人』のアンディ・ウィアーのSF小説。目が覚めると真っ白い部屋のベッドに寝かされている主人公。そしてなぜか記憶がない。自分は誰でここはどこでなんのためにいるのか、持ち前の科学知識と断片的によみがえる記憶から少しずつ真実を導き出しながら「今なにをするべきなのか」と「なぜここにいるのか」の現在と過去2つのパートが交差しつつストーリーは進む。科学的な内容は理解しきれなくても予測のつかないストーリー展開に心躍り、楽しい読書時間だった。

3.『送別の餃子: 中国・都市と農村肖像画』井口 淳子

中国の北方には「送行餃子、迎客麺」(麺は初めて会ったときに、餃子はお別れのときにつくる)習慣があるという。30年以上、中国で民族音楽・芸能のフィールドワークに取り組んできた著者による出会いと別れの記録。
大学生の頃に『スヌーピーたちのアメリカ』を読んだときの気持ちとつながる感銘を受けた。その国の人々がイメージの前提で括られず、ただ個の「人間」として登場する。いじわるなひとも優しいひともいてみんなエネルギッシュに生きている。こういう思い込みを砕いて新たな興味を持たせてくれるような本に出会うと嬉しくなる。
(文学フリマで出版元の灯光舎のブースを見つけたので「この本がとても好きです!」と伝えにいった笑)

4.『グレート・ギャツビー』スコット・フィッツジェラルド

1925年に出版されたアメリカ文学の代表的作品。SNSで偶然聴いて惹かれたラナ・デル・レイの「Young and beautiful」という曲が映画「華麗なるギャツビー」(2013年)の主題歌と知り、原作を読んでみた。ギャツビーが誰のため何のためにgreatでありたかったのか。刹那で享楽的な時代背景からくる登場人物たちの選択に、自身を共感させる楽しみ方は出来なくとも、哀しく虚しい読後感に浸る良い読書だった。

5.『小さな場所』東山 彰良

「あぁいうふうになったらおしまい」のお手本のような人たちばかりいる台湾の紋身街。そこで育ってきた主人公の少年・小武と個性豊かな大人たちの連作短編集。街に溢れるタトゥー屋の彫師たちやチンピラ、素性不明の探偵といった偏った大人たちは、小武に反面教師ながらも「生きる」とはどういうことかを教えてくれる。読んでいて20年以上前の池袋が舞台の石田衣良著の『池袋ウエストゲートパーク』を思い出した。(しかしこの本にはマコトのようなスマートなトラブルシューターは出てこないけど)熱気溢れる紋身街の情景や人々の生き様がとても良かったのでまた同じような感覚が味わえる本が読みたいと感じている。

6.『夜間飛行』サン・テグジュペリ

星の王子さま』で著名なサン・テグジュペリの中編小説で、郵便飛行業の草創期に事業存続のため命を賭けて「夜間飛行」に従事する人々の物語。
なにかへの個人的な愛を捨ててでも自分には遂行しなければいけない「重い責務がある」という漠然とした感覚。あとがきでこの作品を読んだアンドレ・ジッドはその漠然とした感覚こそ“あらゆるヒロイズムの源”だと語っていた。細やかな心情描写と緊迫感のある展開が素晴らしかった。

7.『傷を愛せるか』宮地 尚子

トラウマやジェンダーの研究者である精神科医・宮地尚子さんのエッセイ。臨床の現場や留学先、映画、旅などの体験から感じたことを元に「傷を抱えながら生きること」について話している。学術的な難しい感じはなく、しなやかな美しさが感じられて読み心地が良かった。

番外『うみべのストーブ 大白小蟹短編集』大白 小蟹

漫画。作者による短歌とともに綴られる7篇の作品集。最愛の彼女と別れた男を、2人が暮らしていた部屋でずっと見守り続けていたストーブが海に連れ出すという表題作の「うみべのストーブ」を試し読みで気に入って購入。
山から降りてきた雪女と夏を過ごす話や交通事故にあった夫が透明人間になる話から大雪で交通網がストップした日に見知らぬ人と銭湯で過ごした夜明けまでの時間の話など設定はさまざま。どれも無性に寂しくて柔らかい感じがすごく良かった。

番外『家が好きな人』井田 千秋

コミック&イラスト集。「自分の家が、一番好き。」一人暮らしの5人の女性がそれぞれ愛する家で過ごす様子を描いた。私も自分の家が大好きなので、読みながら「わかる…すごくわかる…」としみじみ。外に出たくないわけでもひとりでいたいわけでもなく、とにかく“自分の家”が大好きな人たちにおすすめの一冊。

その他

上記以外の印象に残った本のタイトルです。

●(小説)『すばらしい新世界 [新訳版]』オルダス・ハクスリー
●(小説)『ミトンとふびん』吉本 ばなな
●(小説)『いけないⅡ』道尾 秀介
●(小説)『本を読むひと』アリス・フェルネ
●(小説)『上林暁傑作小説集 星を撒いた街』上林 暁
●(小説)『中国行きのスロウ・ボード』村上 春樹
●(エッセイ)『ぐるりのこと』梨木 香歩
●(エッセイ)『貧乏サヴァラン』森 茉莉
●(エッセイ)『旅の断片』若菜 晃子
●(エッセイ)『旅がなければ死んでいた』坂田 ミギー
●(政治学)『教室を生きのびる政治学』岡田 憲治
●(教育学)『学習設計マニュアル: 「おとな」になるためのインストラクショナルデザイン』鈴木 克明他
●(教育学)『協働する探究のデザイン:社会をよくする学びをつくる』藤原 さと
●(社会心理学)『聞く技術 聞いてもらう技術』東畑 開人
●(ビジネス)『みんなのフィードバック大全』三村 真宗


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