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短篇小説 赤い大地

今よりもずっとずっと昔、恐竜と呼ばれる生き物たちが大地を闊歩していた頃の話です。

地面にはシダやマツ、イチョウなどの草木が生い茂り、それを食べる草食恐竜と、その草食恐竜を食べる肉食恐竜がいました。

全体はちゃんとバランスが取れており、どこかが欠けてしまう、というようなことは、ずいぶんと長い間なかったのです。

ところが、ある日、空に大きな黒いものが現れました。その黒いものには、たくさんの不気味な尻尾がありました。それに、たった一つの、巨大な目をしていたのです。

大地の生き物たちは、自分たちがこれまで一度も見たことのない、恐ろしく、とてつもなく巨大な何かが空の上にあるのを見て、恐れおののきました。

その不気味な黒いものは数日の間空をさまよったあと、海の中に落ちました。

叫び声のようなものすごい音が、世界中に鳴り響きました。それとともに、強烈な風が、世界中を覆いました。そして、大量の塵を含んでいた風は、空に舞い上がって太陽を隠してしまったのです。

その結果、いくら待っても朝の訪れない日が、何日も何日も続きました。どこを見渡してもただの暗闇でした。

やがて生き物たちは、かつて空に太陽がいたことなど、すっかり忘れてしまいました。それほどの長い間、世界は夜が続いたのです。

太陽がいなくなったため、大地からは草木がなくなってしまいました。草木がなくなると、それを食べていた草食恐竜たちも、次々に息絶えました。

そうして気がつくと、世界には肉食恐竜だけが生き残っていたのです。

なぜ肉食恐竜は生き残ったのでしょうか。それは、肉食恐竜たちがお互いに戦い合ったからです。戦い合い、負けたほうは、勝ったほうの餌になりました。だから、強い肉食恐竜たちは、世界がそのような事態になっても生きながらえることができたのです。

この暗闇の世界にはただ大小さまざまな肉食恐竜だけがいて、負けた肉食恐竜は勝った肉食恐竜の餌になる、ということが、それから何年も何年も続きました。何年も何年も続くうち、肉食恐竜たちはそれが当たり前のことだと考えるようになりました。

彼らはむしろ、それが正しいことだとも思いました。強いものが勝ち、強いものが生き残るのは、あまりに当然のことだからです。空が暗いのが当たり前であるのと同じように。

それに、強いものの餌になるものもまた、そのことを正しいと思っていました。なぜなら彼らもまた、さらに弱いものを餌にしていたからです。その餌にされていた弱いものもまた、自分より弱いものを餌にしていました。だから、その暗闇の世界では、みんな同じ生きるための理屈を共有していたのです。

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