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【暫定版】2024年 広島大学 理系 数学 第5問 解答解説(考え方まで)

関数 $${f(x)=\log \left(x+\sqrt{1+x^2}\right)}$$ に対し,次の問いに答えよ。
(1) 曲線 $${y=f(x)}$$ は $${x>0}$$ で上に凸であることを示せ。
(2) すべての $${x \geqq 0}$$ に対し,不等式 $${\dfrac{x}{\sqrt{1+x^2}} \leqq f(x) \leqq x}$$ が成り立つことを示せ。
(3)定積分 $${\int_0^{\frac{3}{4}} f(x) d x}$$ の値 $${S}$$ を求めよ。
(4) 曲線 $${y=f(x)}$$ 上の点で, $${x}$$ 座標が $${\frac{3}{4}}$$ であるものを $${\mathrm{A}}$$ とする。また,点 $${\mathrm{A}}$$ における曲線 $${y=f(x)}$$ の接線を $${\ell}$$ とする。 $${\ell}$$ と直線 $${y=x}$$ の 交点を $${\mathrm{B}}$$ とする。点 $${\mathrm{O}(0,0), \mathrm{A}, \mathrm{B}}$$ と点 $${\mathrm{C}\left(\frac{3}{4}, 0\right)}$$ を頂点にもつ四角形 $${\mathrm{ABOC}}$$ の面積 $${T}$$ を求めよ。
(5) (1)~(4)を利用して, $${\log 2}$$ の小数第 1 位の数字を求めよ。

2024年 広島大学 理系 数学 第5問

問題の解釈(どう読むか、何を読み取るか)

試験場で、問題を全部読まずにいきなり (1) の答案を書こうと飛びつく人が多そうですが、あまりオススメしません。
効率的に問題を解くためには、まずは問題の大きな流れを読み取るようにしましょう。特に本問は5問も小問があるため、誘導の流れを見失うと大きなタイムロスに繋がります。

このセクションでは、各小問に対して、私(東大医学部生講師の端くれ)がどう読解し、作問者とコミュニケーションをとっているかを解説します。

関数 $${f(x)=\log \left(x+\sqrt{1+x^2}\right)}$$ に対し,次の問いに答えよ。
(1) 曲線 $${y=f(x)}$$ は $${x>0}$$ で上に凸であることを示せ。

(1) $${y=f(x)}$$ のグラフの形が問われている。上に凸らしい。
視覚化できるに越したことはないから、積極的に図示していこう。

図示するにあたって、関数 $${f(x)}$$ の(上に凸以外の)挙動も調べていく。$${f(x)}$$ が単調増加関数なのは $${\log}$$ の中身を見れば明らか。それに、$${f(0) = \log 1 = 0}$$ も簡単に求まる。

グラフは楽に図示できそうだ。

※なお、経験を積むと「関数 $${f(x)}$$ ではなくわざわざ"曲線 $${y=f(x)}$$ " と書いてくれてるわけだから、本問は計算ではなく図形的議論を主体に進むのだろう」という嗅覚が育ちます。試験場で沼ったときなどは、こういった細かい表現が方針転換の良いヒントになります。

(2) すべての $${x \geqq 0}$$ に対し,不等式 $${\dfrac{x}{\sqrt{1+x^2}} \leqq f(x) \leqq x}$$ が成り立つことを示せ。

(2) $${f(x)}$$ の不等式(評価)が与えられている…
ちらっと先を見ると、(3)(4) は定積分や面積を求める問題。ここで不等式は使わなさそうだ…ということは???

きっと (5) でこの不等式利用するのだろう!
(5) を解いてるときに、うっかり忘れてしまわないようにしたい。(5) の問題文に「(2) の不等式を使え!」ってメモっておく。

(3)定積分 $${\int_0^{\frac{3}{4}} f(x) d x}$$ の値 $${S}$$ を求めよ。

(3) $${f(x)}$$ の定積分の問題。$${f(x)}$$ は対数関数 $${\log}$$ だし、部分積分などを考えておきたい。
しかし、計算できるかは手を動かしてみないと分からない。

(4) 曲線 $${y=f(x)}$$ 上の点で, $${x}$$ 座標が $${\frac{3}{4}}$$ であるものを $${\mathrm{A}}$$ とする。また,点 $${\mathrm{A}}$$ における曲線 $${y=f(x)}$$ の接線を $${\ell}$$ とする。 $${\ell}$$ と直線 $${y=x}$$ の 交点を $${\mathrm{B}}$$ とする。点 $${\mathrm{O}(0,0), \mathrm{A}, \mathrm{B}}$$ と点 $${\mathrm{C}\left(\frac{3}{4}, 0\right)}$$ を頂点にもつ四角形 $${\mathrm{ABOC}}$$ の面積 $${T}$$ を求めよ。

(4) グラフを書いて、面積を考えている…ということは、(3) の $${S}$$ も、単なる定積分ではなく、座標上の面積と考えるのが妥当だ。

※ なお、(3) の積分計算で少しでも沼ったら、先に (4) を解くようにしよう。ただの四角形だからね。点数を取るための狡猾さを惜しんではいけない。

(5) (1)~(4)を利用して, $${\log 2}$$ の小数第 1 位の数字を求めよ。

(5) 「(1)~(4)を利用して」と書いてある。親切心があふれた問題。
「 $${\log 2}$$ の小数第 1 位の数字」を求めるには、例えば $${0.3… < \log 2 < 0.4\ldots }$$ のように不等式を立てる必要がある。
(この問題を見て「不等式を立てよう!」って思えないなら、それは練習不足。定石中の定石だから。もしくは、「進数法の定義通りに式を立てよう」という意識が不足してるのかも。)

…ということで、 (5) は不等式証明のカテゴリとして扱いたい

そういえば、(2) で不等式があった。(3) できっと $${\log 2}$$ にまつわる式が出てくるのだろう。(2) の各辺を $${x}$$ を $${0}$$ から $${\frac{4}{3}}$$ の範囲で積分すれば $${S}$$ が出てくるので、(2) と (3) は使いこなせそうだ。 

では、(4) はどう使う?要は、「 $${T}$$の面積を不等式の問題に使え」といわれてる状態。では、他に面積として現れる $${S}$$ との大小関係を考えればいいんじゃないか。

…以上のように実戦では読んでいきます。レベルに応じて使えそうな思考回路だけ学び取っていくといいかと思います。

+ α :知ってる人は双曲線関数が見えるよね。

$${f(x)=\log \left(x+\sqrt{1+x^2}\right)}$$ は双曲線関数の逆関数です。

「知るか!」と言う人もいると思うので説明します。

以下のように定義される関数を双曲線関数といいます。

双曲線関数の定義

$$
\sinh x = \dfrac{e^x - e^{-x}}{2}, \\
\cosh x =  \dfrac{e^x + e^{-x}}{2}, \\
\tanh x =  \dfrac{e^x - e^{-x}}{e^x + e^{-x}}
$$

$${\sinh x}$$ を「ハイパボリックサイン」
$${\cosh x}$$ を「ハイパボリックコサイン」もしくは「コッシュ」
$${\tanh x}$$ を「ハイパボリックタンジェント」
と言います。

$${\sin, \cos, \tan}$$ の文字が含まれるだけあって、三角関数と非常に似ています。
(以下の議論は、上の定義式を代入すれば、高校範囲で導出できます。あくまで見た目が慣れないだけで、実態や仕組みは高校範囲内といっても過言ではありません。)

まずは基本公式から…

双曲線関数の基本公式

$$
\sinh^2 x - \cosh^2 x = 1, \ \ \
\tanh x = \dfrac {\sinh x}{\cosh x}, \\
$$

最初の式から「三角関数が単位円周 $${x^2 + y^2 = 1}$$ 上の点なら、双曲線関数は双曲線$${x^2 - y^2 = 1}$$上の点だね!」と言えます。"双曲線"関数の名前を冠する理由も納得。

また、$${x}$$ が $${0}$$ から $${\theta}$$ まで動くときに、原点$${\mathrm{O}}$$ と点 $${(\cos x, \sin x )}$$ を結ぶ線分が通過する領域の面積が $${\frac{\theta}{2}}$$ であるのと同じように…

wikipedia より引用。

$${x}$$ が $${0}$$ から $${\theta}$$ まで動くときに、原点 $${\mathrm{O}}$$ と点 $${(\cosh x, \sinh x )}$$ を結ぶ線分が通過する領域の面積も $${\frac{\theta}{2}}$$です。

wikipedia より引用。

とっても似てますね。

双曲線関数の微分・加法定理

次は微分の関係式。
三角関数みたいに符号が変わらないので、おりこうさん。

$$
(\sinh x)' = \cosh x , \\
(\cosh x)' = \sinh x , \\
(\tanh x)' = \dfrac{1}{\cosh^2 x} , \\
$$

加法定理も簡単。以下の式は複号同順です。
符号が変わらないのが偉すぎる。

$$
\sinh (\alpha  \pm \beta) = \sinh \alpha \cosh \beta \pm \cosh \alpha \sinh \beta \\
\cosh (\alpha  \pm \beta) = \cosh \alpha \cosh \beta \pm \sinh \alpha \sinh \beta \\
\tan(\alpha \pm \beta) = \dfrac{\tanh \alpha \pm \tanh \beta}{1 \pm \tanh \alpha \tanh \beta}
$$

"逆"双曲線関数の定義式と、その微分

この逆関数も有名で、大学入試でも良く題材として用いられます。
逆関数とは関数の入力値 $${x}$$ と出力値 $${f(x)}$$ ($${y}$$ のイメージ)の関係を逆転させるような関数のこと。

すなわち、ある実数 $${a, b}$$ に対して $${\sinh a = b}$$ (入力 $${a}$$ , 出力 $${b}$$ )が成立しているとき、逆双曲線関数 $${\sinh^{-1}}$$ を用いると $${\sinh^{-1} b = a}$$ (入力 $${b}$$ , 出力 $${a}$$ )となります。

$$
\sinh ^{-1} x =\log \left(x+\sqrt{x^2+1}\right), \\
\cosh^{-1} x =\log \left(x+\sqrt{x^2-1}\right), \\
\tanh^{-1} x =\dfrac{1}{2} \log \dfrac{1+x}{1-x}
$$

逆双曲線関数の微分まで慣れておくと 100 点です。
覚えておく必要はないので、「結構簡単な形になるんだったな」くらいには知っておきましょう。知っておくだけでその先を見通しやすく、解答の方針が立ちやすいからです。

$$
(\sinh ^{-1} x)'  =\frac{1}{\sqrt{x^2+1}} \\
(\cosh ^{-1} x)'  =\frac{1}{\sqrt{x^2-1}} \\
(\tanh ^{-1} x)' =\frac{1}{1-x^2}
$$

実は、この微分も大学受験の問題に取り組んでたら 5 回くらいは出会う、もしくはすでに出会ってるはず。やってくうちに、いつの間にか覚えてしまっているものと思いましょう。

本問における双曲線関数

では、ここで、本問を見返していきます。

関数 $${f(x)=\log \left(x+\sqrt{1+x^2}\right)}$$ に対し,次の問いに答えよ。
(1) 曲線 $${y=f(x)}$$ は $${x>0}$$ で上に凸であることを示せ。
(3)定積分 $${\int_0^{\frac{3}{4}} f(x) d x}$$ の値 $${S}$$ を求めよ。

本問の $${f(x)}$$ は実は $${\sinh ^{-1} x }$$ であったことが分かります。つまり、$${y= f(x) = \sinh^{-1} x}$$ で、これを $${x}$$ について解きなおすと $${x= \sinh y = \dfrac{e^y - e^{-y}}{2}}$$ となります。

(1) は先ほど双曲線関数の逆関数の微分を確認したので、すぐ見通しが立ちますね。
(3) は座標上の面積で図示することで $${\log}$$ の面倒そうな積分を回避して、双曲線関数 $${\sinh y = \dfrac{e^y - e^{-y}}{2}}$$ から計算できそうだと考えられます。

…とはいえ、本問は双曲線関数の知識は全然活用できない方です。
その意味で、双曲線関数を紹介するには不適切な問題ったかもと…(;'∀')
そのうち双曲線関数が大活躍する問題が出るから許してください。

解説が長くなりましたが、では、小問に取り組んでいきましょう。
(ここで息絶える。続きは次回。)


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