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完璧過ぎるリスク:人間心理と歴史から学ぶ印象管理の秘密

水清無魚(すいせいむぎょ)
→ あまりに清廉潔白すぎると、かえって人に親しまれないということ。

私たち人間は美しいもの、完璧なものに惹き寄せられる。

ところが、その完璧さがある一定の境界を超えると、疑念や不信感が生まれるという、なんともややこしい生物だったりする。

この現象は、人間の心理や社会の中での関係性においても数多見受けられる。

例えば、高級レストランでの完璧なサービスや、キレイすぎる製品広告。

一見魅力的に見えるものでも、その裏になにか隠された意図がないかと疑ってしまうのは、人間の本能的な部分から来るのかもしれない。

ということで、完璧すぎることの罠について、心理的背景や歴史的事例を交えながら考察していこう。

キレイ過ぎて疑われる心理

完璧すぎるものや人に対して疑念を抱きやすいのはなぜだろう。

その答えを探るために、まず人間の心理に目を向けてみる。

人は、なにかが完璧すぎると、それに対して疑念を抱きやすい。

これは、人間の進化の過程で獲得した生存本能の一部として、異常なものや過度なものに対する警戒心が働くからだ。

この警戒心は、人間が野生の環境で生き抜くための大切な能力として獲得されたものだろう。

また、社会的なコンペティションの中で、他者との比較が避けられないことも、完璧すぎるものに対する疑念の一因となっている。

競争社会の中で、他者よりも優れていると見られることは、一見良いことのように思えるが、それが過度になると、疑念の目を向けられることがあるというわけだ。

例えば、過度に整形手術を受けたセレブリティや、リタッチが行き過ぎた広告写真をイメージしてもらいたい。

これらは、観る者に不自然さや違和感を感じさせ、真実から離れていると感じる経験をしたことがある人は少なくないだろう。

人は社会の中で生きるため、他者からの評価や期待に応えようとする。

その結果、自分自身を磨き、より良いものを追求することが求められる。

ところが、その追求が過度になると、人はその完璧さに疲れ、逆に過度な完璧さに対する反発を感じることがあるという非常にややこしい生物だということを改めて知っておくべきだ。

キレイ過ぎて排除された事例

ということで、よりイメージを湧かせるために、歴史的にもキレイ過ぎて排除された事例を挙げていこう。

ヴェルサイユの宮殿の贅沢とフレンチレボリューション

ヴェルサイユの宮殿は、17世紀から18世紀にかけてのフランス王室の豪華さと権力を象徴するものだった。

ルイ14世によって建設されたこの宮殿は、ヨーロッパ最大の宮殿として知られ、その内部には無数の部屋と広大な庭園が広がっていた。

この宮殿は、当時のフランスの技術や芸術の粋を集めたものであり、多くの芸術家や職人が関わった結果として生まれた。

ところが、その豪華さは国民の税金によって賄われていた。

当時のフランスは、貴族や聖職者が税を納めていないため、その税負担は平民に大きくのしかかっていた。

そんな背景もあって18世紀末、フランスは深刻な経済危機に直面していた。

また、穀物の収穫不足による食料不足、高い税負担などが重なり、多くの国民は生活に困窮していた。

一方で、王や貴族たちはヴェルサイユでの豪華な宴会を続けていた。

この社会的な格差は、次第に国民の間で不満として高まっていった。

そして、1789年、フレンチレボリューションが勃発する。

パリの市民はバスティーユ牢獄を襲撃し、革命の火の手は全国に広がった。

ヴェルサイユの宮殿は、革命の象徴として目の敵にされ、ルイ16世とマリーアントワネットは処刑された。

この事例は、過度な豪華さや完璧さが、時として人々の反感を買い、大きな反発を生むことを示しているといえるだろう。

美しすぎるアクトレスやアイドルの過度なスクルーチニー

エンターテインメント業界は、美しさや才能が高く評価される場だ。

しかし、その美しさや才能が過度となると、逆の反応を引き起こすことがある。

20世紀初頭、ハリウッドの映画業界は急速に発展し、多くのアクトレスやアイドルがそのスターダムを楽しんでいた。

ところが、彼女たちの完璧すぎる美しさや才能は、時として彼女たち自身の足枷となった。

公の場での行動1つ1つがスクルーチニーされ、最小のミスも大きな批判の対象となることが多かったのである。

特に、スキャンダルに関与すると、彼女たちの評価は一夜にして地に落ちることがあった。

美しすぎる彼女たちに対する羨望や嫉妬、そして過度な期待から来るプレッシャーは、彼女たちのキャリアや人生に大きな影響を与えたのである。

完璧すぎるビジネスモデルへの疑念と反発

20世紀から21世紀にかけて、多くの企業やスタートアップが革新的なビジネスモデルで成功を収めてきた。

それらのビジネスモデルは、多くの場合、前例のないものであり、その成功は多くの人々を驚かせた。

一方で、その成功が過度になると、それは逆に疑念や反発を生むことがある。

特に、過去の事例では、急速に成長した企業やビジネスモデルが、反トラスト法などの法的措置を受けることがあった。

これは、その企業やビジネスモデルが市場において独占的な地位を築き上げ、他の競合企業を圧迫しているとの疑念からくるものだということも理解しておくといいだろう。

美術や建築の分野での過度な装飾とシンプルへの回帰

ルネサンス期における美術や建築は、細かい装飾や洗練された技法が評価されていた。

この時期の作品は、その美しさや完璧さで多くの人々を魅了していた。

ところが、17世紀から18世紀にかけてのバロックやロココの時代になると、それまでの洗練された美しさは、過度な装飾となってしまった。

これらの過度な装飾は、一部の人々からは高く評価されていたものの、多くの人々からは疑問や反発の対象となった。

そして、19世紀に入ると、新古典主義やモダニズムといったシンプルで機能的なデザインが重視されるようになったのである。

このような歴史的な変遷を通じて、美術や建築の分野でも「完璧すぎる」ものや「美しすぎる」ものが、時代とともに評価が変わることが見受けられるという傾向がわかる。

完璧なリーダーシップと疑念

歴史の中で、多くの偉大なリーダーたちが存在してきた。

彼らは、そのカリスマやリーダーシップで多くの人々を導き、大きな成果を上げてきた。

ただし、そのリーダーシップが完璧すぎると、彼らの周りには疑念や反発が生まれることもあった。

例えば、ローマ帝国のカエサルやフランスのナポレオンなど、彼らはその強力なリーダーシップで帝国を築き上げたが、その結果として彼らは暗殺されるなどの運命を辿った。

これは、彼らのリーダーシップがあまりにも強力であり、それに対する疑念や反発が高まった結果であるといえるだろう。

音楽界での「完璧すぎる」パフォーマンス

20世紀の音楽界は、技術革新や録音技術の進化とともに、多くのアーティストや楽団が「完璧な」パフォーマンスを追求するようになった。

スタジオ録音における編集技術やオートチューンなどの技術を使用して、一切のミスを排除した音楽が生まれるようになったのである。

ところが、このような完璧すぎる音楽は、一部のリスナーからは冷たく、機械的であるとの批判を受けることもあった。

音楽は、演奏者の情熱や感情が伝わるものであり、過度な技術的な加工はその魅力を損なうという意見が根強く存在した背景がある。

美容業界での「完璧な」美しさの追求

20世紀後半から21世紀にかけて、美容業界は急速に発展し、多くの人々が「完璧な」美しさを追求するようになった。

整形手術や美容整形、さらには美容サプリメントや化粧品の技術革新により、多くの人々が理想とする美しさを手に入れることができるようになった。

ところが、このような過度な美の追求は、一部の人々からは自然でない、人工的であるとの批判を受けることもあった。

美しさは、自然なものであり、過度な加工や手術はその魅力を損なうという意見が多くの人々から寄せられたのである。

技術革命と完璧な製品の疑念

20世紀後半から21世紀にかけて、世界は驚異的な技術革命を経験した。

特にデジタル技術やAIの進化により、日常生活のあらゆる面が変わった。

スマートフォンやクラウドコンピューティング、IoTなど、新しい技術がもたらす利便性や効率性は計り知れない。

一方で、これらの技術の急速な進展は、それに伴う懸念や不安も増大させた。

特にAIの進化に対しては、その能力があまりにも高まることで、人間の仕事や役割が奪われるのではないかという懸念が広がっている。

また、完璧に動作するはずの技術製品が故障すると、それに依存していた社会や人々の生活に大きな影響をもたらすこともある。

スポーツ界での「完璧な」身体能力

近年のスポーツ界は、アスリートたちの身体能力の向上が目覚ましい。

特にオリンピックや世界選手権では、驚異的な記録更新が連日のように報道される。

高度なトレーニングや栄養学の知識、科学的なアプローチによって、アスリートたちはその限界を次々と更新している。

その一方で、ドーピング問題も深刻化している。

一部のアスリートやそのサポートチームは、禁止薬物を使用して不正に記録を伸ばしている疑惑が浮上している。

これは、公平な競技を求めるスポーツの精神に反する行為であり、そのような「完璧すぎる」記録に対する疑念が持たれる原因となっている。

ファッション業界と過度なトレンド

ファッションは、人々のライフスタイルや文化、価値観を反映するものとして、常に変化し続けている。

新しいトレンドやデザインが登場することで、人々は新しい自分を発見する喜びや、時代の流れを感じることができる。

一方で、ファッションの世界には、過度なトレンドやデザインも存在する。

過去には、特定の文化や宗教を不適切に模倣するファッションが批判の対象となったり、環境や動物の権利を無視した製品が問題視されたこともある。

これらの問題は、ファッション業界が追求する「完璧な」デザインやトレンドが、時として社会的な価値観や倫理と衝突することを示している。

加点方式と減点方式

人は日常生活の中で、無数の出会いを経験する。

新しい人との出会いや、新しい場所、事物に初めて触れる瞬間、私たちはそのものに対して即座に印象を持つ。

この「初めての印象」は、その後の関係や評価に大きな影響を与えることが多い。

加点方式

悪い印象からのスタート加点方式とは、初めての印象が悪いものからスタートし、その後の行動や言動で徐々にその印象を良くしていく方法を指す。

例えば、新しい職場や学校での最初の日、自分の能力や性格を過小評価するような発言や態度を取ることで、他者からの期待を低く保つ。

その後、実際の能力や成果を見せることで、他者からの評価や信頼を徐々に上げていく。

この方法の利点は、初めての印象が低いため、その後の行動や成果で驚きや感動を与えることができる点にある。

また、他者からの期待が低いため、プレッシャーを感じにくい。

減点方式

良い印象からのスタート減点方式とは、初めての印象が良いものからスタートし、その後の行動や言動がその初めての印象を下回ると、徐々に評価や信頼を失っていく方法を指す。

例えば、新しい環境で自分の能力や経験を過大評価するような発言や態度を取ることで、他者からの期待を高くする。

ところが、その期待を満たせない場合、他者からの評価や信頼は急速に失われることとなる。

この方法のリスクは、初めての印象が高いため、その後の行動や成果が常にそのレベルを維持しなければならない点にある。

そのため、プレッシャーを感じやすく、失敗やミスが許されない環境となりやすい。

適度な印象管理の重要性

なぜ、加点方式と減点方式のことに触れたのか。

それは、印象管理の重要性に繋がるからだ。

印象管理とは、自分自身や他者が自分に持つイメージや印象を意識的にコントロール・調整する行為や技術を指す。

日常生活の中で、人々は無意識にも印象管理を行っている。

例えば、仕事の面接やデート、友人との会話など、さまざまな場面で自分の印象を良く見せるための努力をしている。

一方で、過度に印象管理を行うと、自分自身が持つ本来の価値観や性格が見えにくくなる。

この結果、他者との関係が浅く、表面的なものになりやすい。

また、過度な印象管理は自分自身にとっても大きなストレスとなる。

他者からの期待に応え続けることは、精神的にも肉体的にも大きな負担となるわけだ。

ということで、当然だが、適度な印象管理は、自分自身の価値観や性格を尊重しつつ、他者との関係をより良好にするための鍵となる。

適度な印象管理を行うためのポイントを列挙しておこう。

1)自分自身を知る

自分の価値観や性格、強みや弱みをしっかりと理解することが重要だ。

2)他者の意見や感じることを尊重する

他者とのコミュニケーションを大切にし、相手の意見や気持ちを尊重することで、相互の理解を深めることができる。

3)自分の意見や考えをしっかり伝える

他者との関係を築く上で、自分の考えや意見をしっかりと伝えることが重要になる。

ただし、相手を尊重し、攻撃的な態度を取らないよう心掛けることも怠ってはならない。

4)適度な距離感を持つ

自分と他者との距離感を適切に保ち、必要に応じて距離を置くことも大切だ。

まとめ

人間社会は複雑であり、時にキレイ過ぎることや完璧すぎることが疑念や反発を招くことがある。

歴史的な事例を通しても、美しさや完璧さが時として排除の原因となることは列挙したとおりだ。

それから、過度な印象管理や社会の期待に応え続けるプレッシャーの結果であり、真の自分を知り、適度な印象管理を心掛けることが大切であることも書いてきた。

また、初めての印象は、人々の評価や信頼に大きな影響を与えることについても触れた。

加点方式や減点方式のように、初めての印象をどのようにコントロールするかは、その後の関係やコミュニケーションにおいて重要な要素となる。

一方で、過度な印象管理は、自分自身や他者との関係を浅く、表面的なものにしてしまうリスクがある。

つまり、自分自身を知り、自分の価値観や性格を尊重しながら、他者との関係を築いていくことが重要だということだ。

適度な印象管理を心掛けることで、より深い人間関係や信頼関係を築くことができるのである。


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株式会社stakは機能拡張・モジュール型IoTデバイス「stak(すたっく)」の企画開発・販売・運営をしている会社。 そのCEOである植田 振一郎のハッタリと嘘の狭間にある本音を届けます。