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ミシュランガイドの歴史と世界中に拡がった理由

錦衣玉食(きんいぎょくしょく)
→ 美しい服と美味しい食べ物のことで、贅沢な生活をすることのたとえ。

美しい服や美味しい食べ物といっても、その感覚には当然個人差がある。

とりわけ、美味しい食べ物については、乖離があるように思う。

とはいえ、美味しいという基準がなければ、せっかくの食事という楽しみを満喫できないし、競争も生まれないので美味しい食べ物は食べられなくなっていく。

そういう意味で、世界で通用する1つの基準をつくった企業がある。

そう、Michelin = ミシュランである。

タイヤメーカーのミシュランがミシュランガイドを始めた理由

ミシュランは1889年にアンドレとエドゥアールのミシュラン兄弟がフランスで創設したタイヤメーカーだ。

2022年現在も世界最大級のタイヤメーカーとして君臨しているミシュランが、星で有名なグルメガイドであるミシュランガイドを始めたのはなぜか。

ミシュランガイドの初版は1900年8月に発行された。

1900年といえば、パリ万国博覧会が開催された年で、広まり始めたばかりのドライブ文化を、より安全で楽しいものにするために、ミシュランガイドが生まれた。

ドライブを安全に楽しいものにするというと、現在の感覚だと少々違和感を覚えるかもしれないが、当時はまだクルマがほとんど普及していなかった時代だ。

ドライブといっても快適ではなく、ガス欠、車両故障、パンクといったトラブルがつきまとうのが当たり前だった。

そんな当時の状況で、ミシュラン兄弟がもっと楽しくクルマを運転してもらいたい、遠くまで快適にドライブして欲しいと考えて誕生したのが、ミシュランガイドなのだ。

ミシュランガイドにはタイヤの修理方法、ガソリンスタンドや自動車修理工場のリスト、ドライバーが食事を楽しむレストラン、遠方でのドライブでも困らない宿泊施設が掲載されていた。

また、先述したが、1900年といえばパリ万博の年。

華の都パリでは地下鉄が開通し、ちょうど人々が遠くに動き出し始めた時代だ。

ミシュラン兄弟もこの流れをビジネスとして意識したことは間違いないだろう。

クルマが売れるということは、消耗品であるタイヤの需要もこれからさらに伸びるとビジネスチャンスとして捉えたはずだ。

ゴールドラッシュで儲けたのは、金を掘っていた人ではなく、ショベルやテントを売っていた人というのに似ているかもしれない。

そんなことを意識していたかは定かではないが、ミシュランガイドは発行当初はドライバーに無料で配られていた。

ミシュランガイドが有料になった理由

発行当初から、少しずつ形を変えていったミシュランガイド。

現在の運用と同じように星がついたのは、実は最初からではない。

ミシュラン兄弟はあるとき、ショックな場面に遭遇する。

とある修理工場で、傾いた作業台の足代わりに数冊のミシュランガイドが地面に積み重ねられているのを見かけたのである。

そのとき、ミシュラン兄弟は、人々はお金を払って買ったものしか大切にしないと語っている。

こうして、1900年から無償で配布していたミシュランガイドは、1920年から販売が始まった。

その後、ミシュランガイドに最初に星が登場したのは1923年のことで、快適さと適正な値段のレストランに黒い星をつけるというものだった。

星が美味しさを表すという概念となったのは1926年なので、ミシュランガイドが発行されてから実に四半世紀経った後なのである。

そして、おいしい料理に舌鼓をうつミシュランのキャラクターである、ムッシュ・ビバンダム(ミシュランマン)を通して、グルメな読者にもガイドブックが浸透してきたのもこの頃だ。

三つ星による評価制度はフランスの地方で1931年、パリでは1933年に導入された。

ミシュランの社員である調査員が匿名でレストランやホテルを訪ねるようになったのもこの頃からなのである。

フランスから世界へ拡がっていくミシュランガイド

それでは、フランス国外で最初にミシュランガイドが発行されたのはどこだったのだろうか。

その答えはベルギーで、1904年だったといわれている。

1911年には国というカテゴリではなくエリアとしての展開もしている。

アルプスとライン川版や、フランス・コートダジュール、コルシカ島、イタリア、北アフリカ、エジプトを網羅した太陽の国版といった形で出版されている。

その後、2005年にはヨーロッパ以外では初となるニューヨーク版を刊行し、翌2006年にはサンフランシスコ版が加わった。

そして、2007年11月、ついにアジアの第一歩としてミシュランガイド東京2008を刊行した。

ミシュランガイド掲載基準

結論からいうと、ミシュランガイドの掲載基準は定かではない。

けれども、これだけ歴史があり実績もあるミシュランガイドなので、様々な情報が出ている。

まず、お店は本や雑誌、SNS、インターネット、業界の評判、読者や自薦のご意見など、編集部に寄せられるありとあらゆる情報をもとに選定するといわれている。

それから、世界共通の5つの基準がある。

  1. 素材の質

  2. 調理技術の高さ、味付けの完成度

  3. 料理の独創性

  4. コストパフォーマンス

  5. 常に安定した料理全体の一貫性

この5つの基準をもとに匿名調査員が複数回調査を行い、合議制で決定する。

調査員は全然わからないという情報もある一方で、何度もミシュランガイドで星を取っているお店の人であれば、明らかにわかるという情報もある。

そして、星の解説は下記のとおりだ。

  • 一つ星★:そのカテゴリーで特においしい料理

  • 二つ星★★:遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理

  • 三つ星★★★:そのために旅行する価値のある卓越した料理

この他に、フォークとスプーンのマークで快適さやサービスが5段階で示され、その評価の下にシンプルショップとストリートフードというマークがある。

さらに、もう1つ、ミシュランマンがペロリと下を出しているマークがある。

これは、ビブグルマンという評価で、良質な料理を手頃な価格で楽しめる店を紹介している。

その基準は、5,000円(東京・京都・大阪)もしくは3,500円(地方ガイド)以下で、特にオススメの料理を提供するお店だといわれている。

まとめ

くり返しになるが、ミシュランガイドが初めて発行されたのは1900年ということなので、120年以上の歴史があるということになる。

ただただ歴史があるだけでなく、美食家のバイブルとして毎年話題になるのことも事実だ。

評価を受けた飲食店やレストランはとても名誉で予約が取れない名店となっていくわけだが、そもそも発行された理由も再度押さえておこう。

それは、クルマとタイヤのことを心底考えていた兄弟が、クルマに乗る人のために作った実用ガイドブックだということである。

それから、初版の序文にはこんな言葉が書いてあった。

このガイドブックは、旅行者に宿泊と食事ができる場所を見つけていただくために編集されたものである

そして、このポリシーは今も変わらないとしていることこそ、ミシュランガイドが世界中で信用されている理由なのである。

すべての人に便利に使ってもらい、家族や友人と素晴らしい外食や宿泊をしてもらうためのガイドであり続けたいという想いが歴史を紡いでいる。

1冊の赤い本の中には、1900年から変わらない想いが詰まっていると思うと、なんとも感慨深いものがある。


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植田 振一郎 Twitter

株式会社stakは機能拡張・モジュール型IoTデバイス「stak(すたっく)」の企画開発・販売・運営をしている会社。 そのCEOである植田 振一郎のハッタリと嘘の狭間にある本音を届けます。