見出し画像

ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ徹底考察③ Zoom AppsにOnZoom、競争を勝ち抜くためのビジョン

(この記事は企業としてのズームを理解する目的で書いています。決算等経営数値の分析は他の方の記事で良いものが沢山ありますので、自分が経営者ということもあり経営的視点から深堀りしています。今日明日の株価が適正かとか、何が起きてもずっと持ち続けようといった議論ではなく、中長期的視点での企業研究です。またズームは11月30日に3Q決算発表を控えておりますが、トレードに関する記事は別にアップしてありますので、そちらをご参考ください。)

さてちょっとタイトル変えてみましたが、このズーム・ビデオ・コミュニケーションズの考察記事も3本目に来ました。マニアックな記事にお付き合いありがとうございます。そろそろ貴方もZOOMERです。遅れてきたルーキーって奴です。今回は主にズームの未来について考えましょう。
なお記事を書いているのが3Q決算発表前の11月26日ですので情報が限られています。鮮度はすぐ古くなるかもしれませんがご了承ください。

画像1

8.市場に広がるスピード

前回の記事でも触れましたが、ZOOMという名前がスピード展開にとても有利に働いています。2019年12月には1000万人だったオンラインミーティング参加者が、2020年4月にはのべ3億人規模になりました。直近9月のzoom.usのトラフィックも24億くらいあるようで、爆発的な増え方です。同業他社と比較しても拡大スピードが段違いでしたので、チェックシートでは高い評価にしています。
ズームはどのようにユーザーを獲得しているのでしょうか。例えば11月26日のサンクスギビングデー期間、40分の無料制限枠を取り払うと告知していました。家族同士の対面に使ってくださいということです。Zoomsgivingという言葉も作られました。

画像7

このような利用のきっかけをプロデュースするのが上手な企業なので、アプリ人気は常時上位をキープしています。顧客がひと手間使ってわざわざダウンロードする、需要の創造を続けていくことは簡単なようで難しいです。マーケティングの得意な企業と言えます。
事業展開スピードについては、この項目の重要さを説明するために他の業界とも比較してみます。例えばレストランや小売店などの店舗事業。1年間に何店舗出店できるでしょうか。1店当たり資金を調達して何千万円かけて建築して従業員雇って…大企業でも100店程度が限界です。外国への展開に至っては何年もかかって少しずつというペースです。これがSaaSなどITシステムを使った企業でしたら、半年で3億人の顧客を一気に得ることができるのです。当たり前のように聞こえるかもですが、私たち経営者にとってこんなに素晴らしい仕組みはありません。
では皆がITやれば良いではないかと思うかもしれませんが、もちろんそう簡単ではありません。店舗など箱もの商売の良さは、難しい開発をせずとも良い立地を押さえて店を構えれば、一定のお客さんが確実に来てお金を落としてくれるという安定性です。不動産事業に近いです。もちろん中身にもよりますが。しかし今回のパンデミックでコストの重たい事業は軒並みダメになってしまいました。強固と思われていた前提が崩れたのです。
何十年も昔からある有名な企業よりも、ECやSaaS企業のほうがずっと高い時価総額なのはその事業性質のためです。ズームもまた然りです。

9.自動化の完成度

こちらも他業種との比較をしてみましょう。製品やサービスの提供から売上の回収まで、スパンが短ければ短いほど、確実であれば確実なほど、経営的には良いです。支払いサイトが長いと当然取りっばぐれたり資金繰りに困るリスクが出ます。前払いか現金商売が最速ですが、クレジットカード支払いでもだいたい数週間あれば確実に入金されます。SaaSであれば人の手をかけずに仕組みで契約され売上も自動回収ですから、自動化完成度は高いです。ネットビジネスにおける決済上の不安は、昔と比べると圧倒的に少なくなりました。ペイパルなど決済会社が儲かるはずですね。人を配置して契約を勧め、アフターケアして、回収もいちいちおこなっているような業界は、自動化の波に取り残されて行きます。
(個人的には、銀行口座を開ける時の手続きや、不動産売買時の手続きなども早く自動化してほしいです。がんばれドキュサイン😅)
経営者達にとって、手間もかけずにチャリンチャリンと入ってくる事業は至高です。著作権とか特許もその類ですが、私達は絶えずそういったネタを探し続けています。うらやましい限りです。
ここまでの2項でなぜアメリカの企業が強いのか、そして私も含め多くの人がなぜわざわざアメリカ企業に投資しているか、ご理解いただけるでしょう。

10.エコシステム度

エコシステムとは生態系のことですが、経営・IT分野においては多くの企業が共存共栄して発展していくことを指します。わかりやすい例では、アップルがiosをベースにApple Storeを提供することにより、便利なサービスやゲームなどが簡単に人々の手に渡るようになりました。その結果アップルと開発元の両方が儲かります。プラットフォーム化されている仕組みの上で自然に発展するのがエコシステムの極意と言えます(言葉の解説はこちら)。
10月、ズームはZapps改めZoom Appsを発表しサービスの拡張性を広げました。他社のアプリをZoomに統合できるようにしたのです。この連携先にはSlackやDropboxなどのお馴染みのサービス以外にも、Zoomを便利にするさまざまな機能も含まれています。
有望なアプリを軽く3つご紹介しましょう。

Kahoot! カフート

画像2

これはクイズを簡単に作れるツールです。オンライン授業などで生徒が飽きてしまわないように、作成したクイズをゲーム形式で解いていく仕様になっています。終わった後には個人の正解率なども表示されます。ズームでワイワイ盛り上がりながら学習できますね。

Dot Collector ドットコレクター

画像3

この男性、著名投資家でヘッジファンド運営会社ブリッジウォーターの創業者Ray Dalio氏が熱弁するDot Collectorは、話し合いの時にリアルタイムで参加者のフィードバックが得られるアプリです。画面の右側に参加者のvoteを出したりできます。透明性を担保した意思決定システムにより、傲慢さが排除され最善の意思決定ができるとのこと。動画のアクセス数も多いので何気に注目されているアプリかもしれません。

Exer Studio エクサ―スタジオ

画像4

これはPTONのライバルか?見ての通りオンラインエクササイズ用のアプリです。家でエクササイズする時に一体感を出す上で便利なアプリですね。大きな機械が要らないと便利。運動不足なので自分が受けたいです。
他にもありますが、こんな感じでZOOMの運用者が他のアプリとも接続して利用できるよう連携していきます。企業内利用だけでなく、イベント主催者と個人を意識した機能も多いですね。
Zoom Appsについてはもうすぐラウンチ予定です。Apple StoreみたいにZoomを使いこなすサービスが沢山繋がれば盛り上がるでしょう。

一方で、先日SalesforceがSlackを買収すると報道がありました。市場シェアの項目でも触れましたが、企業向けのサービスは多数あり戦国時代を迎えています。企業予算のパイを得る戦いです。Slackはチャットを武器に先行したものの、後発のMicrosoft Teams相手に苦戦しており株価も伸びていません。そこで買収話が出ている訳です。Zoomも全く油断できず、巨人Microsoftは攻勢を強めています
参考記事: Microsoft Teams DAU1.15億人:Windows以上の期待値、2018年以降最速成長
自社サイトでも下記のような図を掲載し、TeamsはSlackとZoom両方の特長を兼ね備えているというアピールをしています。

画像6

またMicrosoftは自社のエコシステム「Teams App Store」の提供も始めており、サードパーティとカスタマイズ化を促進していくと発表しています。
参考記事: MS Teamsローコードツールに:Microsoftが開発支援開始へ
Zoom, Google Meet, FacebookのWorkplace, Salesforce-Slackなどと激しく市場を争っていくこととなります。
(ズームのEric Yuan社長は「SlackやMicrosoftを打ち負かすのではなく、パートナーとしてやっていきたい」と発言したそうです。確かにSlackはZoom Appsで連携しました。Microsoftの返答は…知りません😅。やはり企業文化的にMicrosoftとは組むの難しい気がしますけれど)。

巨大企業にどう対抗していくか。ズームのこれからに注目です。サービスをまだ開始していないのでチェックシート上は中立にしました。
Zoom Appsについては進行中なので近々またニュースが出ると思います。
次に、Zoom Appsと一緒に発表されたOnZoom。OnZoomというのは簡単に言うと「有料ライブイベント開催支援」機能です。サイト上でライブイベントとユーザーがマッチングできるようになります。お金のやり取りにはオンライン決済(現状Paypal)を利用できます。11月現在アメリカ国内のみベータ版で始まっていますが、2021年には世界に展開予定です。

画像6

今まで主催者は費用を別の方法で決済する必要がありましたが、OnZoomを使うとズームを通じて予約・即決済できます。また参加者はサイトをザッピングして、興味あるライブイベントを見つけることもできます。Youtubeが動画 + 一方通行のライブ配信だとすると、こちらは双方向ライブ特化で、簡単に開催できるという訳です。
現時点でのズームのマネタイズポイントは、イベント主催者が有料プランに契約する必要があるのでそのサブスクになりますが、将来は決済金に課金することも検討しているようです。

さてこのOnZoom、ベータ版を試しに見てみましたがサイトのUIの印象はあまり良くないです。おそらく今はイベント主催者も審査して絞り込んでおり、スカスカです。Youtubeのようなワクワク感には遠いです。
余談ですが私はYoutubeをサービスの出始めくらいから使っていますが、今でこそグーグルお墨付きの人気アプリですが、最初は違法アップロードの横行する無法地帯でした。こんな記事があります。
YouTubeはいつまで生き残るのか。(2006年)
サービス開始間もなく、Youtubeが違法アップロードの巣窟だったころ、この記事によるとアクセスの3分の1は日本からだったのです。日本コンテンツのチェックが甘いところを突いて動画が大量にアップされ、「いつか訴えられてなくなってしまうかもしれないから、今のうちに見られる動画は見ておけ」ということで日本からアクセスが殺到。記事のタイトルも「YouTubeはいつまで生き残るのか」、笑。これは2006年の記事ですが最近知った人には信じがたい時代でしょう。ちなみにYoutubeは当初、膨大なサーバー費用に対してマネタイズ方法がほぼ無かったため存続が危ぶまれていましたが、2006年10月にGoogleが買収。さまざまな問題を解決して今に至ってます。
同様にOnZoomも宣伝してユーザーに開放すれば、「会話権売ります」とか「コンサートの実況中継します」など玉石混交なサービスで溢れると思いますが、ズームはそのような自然発生的なインディーズブームを起こす気はないように見えます。これは既にズームが巨大企業になっているため批判殺到する可能性が高いのと、そもそもそのような手法が許容される時代でもないからでしょうか。
現時点でOnZoomに対して投資家が抱いているイメージは
1.OnZoomをEventbriteのようなオンラインイベントのポータルサイトに発展させる。
2.イベントとユーザーが大量にマッチングされていく。
3.取引される費用の一部を徴収し収益の柱に

ということだと思いますが、ベータ版を見る分にはそのストーリーはまだ途上です。私見ですがこの戦略は収益最大化まで時間がかかり過ぎます。コロナが収まってから利益の柱を生むまでにタイムラグが出ますし手間もかかる。トラフィックをテストしていくべきベータ版サイトにもやる気が感じられない(失礼💦)。今のままではポータル作戦ではなく、主催者が自分のメディアでOnZoomページに誘導することがメインになります。それだと弱小主催者は参加者の新規開拓に繋がらないでしょう。
この手のサイトの「見せ方」がうまい技術者はいくらでもいて、ズームは解決するだけのお金もノウハウもありますから、正式版ではバージョンアップさせるかもしれません。さらに有名人やインフルエンサーなどを使ったイベントを開催してOnZoomにアクセスさせるとか、何か盛り上げ企画もあり得ます。ただ現サイトの作りは草の根の活動をイメージしているので、エンタメ方面は入口を分けるかもですが。いずれにしても何か利用を加速させる推進力が必要です。また当然、ズームアプリからOnZoomをサーチ出来たりAIがイベント提案したりという機能は要るでしょう。

そんなことを考えていたら、ピンタレストがズームを使ったオンラインイベントをテストしている、という記事が出ました。OnZoomを顧客の入口にせず、既にユーザーを抱えている企業との連携をメインに仕掛けていくとしたら、方向性は合点がいきます。OnZoom集客に頼らず他社の機能としてくっつけていく。まだ未確定情報ですが、この分野でもズームの出してくる戦略を待ちたいと思います。

今回は以上です。未来への考察が多く疲れました😅。次回はもう1つの柱としてズームが力を入れているZoom Phoneなどにも触れたいと思います。

投げ銭や感想、良いねなど、反応があると嬉しいです😊。

※記事中の下線部分には情報ソースをリンクしています。 投げ銭や感想、良いねなど、反応があると励みになります。