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雨模様9

目覚めるとあたしは、エレベーターのような部屋にいた。微かに振動が感じられ、部屋は移動しているようだ。

部屋の中には、あたしの他にも、まだ眠っている人達がいる。だが、エレベーターとは違って、上下四方全面メタル張りの冷ややかな空間だ。

部屋の全ての壁に出入り口があるが、あたしは先程のチャットでのやり取りが関係しているような気がして、軽々しく行動するのはやめて、暫し様子を伺っていた。

眠っている人達の中から一人が目を覚ましたようで、モゴモゴと何か喉の辺りをしきりに掻いている。

やがて彼は、何かを少し吐き出してから目を開けて話し出した。

「ここは何処なんだ…君は?君は誰?」

「あたしはカナメ。必要の要と書いてカナメと読みます」

「俺はタスク。ニンベンに有ると書いてタスクだ。宜しく。で君は何処から来た?」

「あたしは家で眠りに落ちて…気づいたらここに…」

「とにかくこの部屋から出よう」

もしかしたら、この部屋が、あのポンコツAIが言っていた「セクター」なのかも知れない。あたしは「セクター9」はどんなところなのか、ミヤオは本当に大切にされているのか、不安な気持ちでいっぱいだった。

先程目覚めたばかりのタスクさんは早くも隣の部屋への通路を探している。

「ここが開きそうだ。ちくしょう、このクソ扉。なんて硬く閉められているんだ。」

彼は、最初のうちは手を使ってその取手のようなハンドルを回そうとして居たが、そのうち、足で蹴飛ばしたり、靴底で無理やり回そうとしたり、明らかにキレていた。

と、暫くして扉がギーと耳がつんざけそうな金属音とともに、ゆっくりと開いた。

扉が開く時の騒音で残りの人達が身体を芋虫のようにくねくねさせ始め、目覚める過程にあるように見えた。

「ダメ。そっちへ行ってはダメ!」

ある眠って居た女の人が、目覚めたての気だるそうな声で、それでもめいいっぱい身体から搾り出すように叫んでいる。

「俺はお先にずらがるよー」

タスクさんは入り口からスルリと壁を抜けて隣りの部屋へ移動してしまった。

「ダメーダメよ!イヤー!」

女性の叫び声の直後、ぎゃーというタスクさんの悶絶する声が聞こえてきた。あたしは隣室を慎重に覗き込んだ。

タスクさんは服を着ているものの、何かで切り裂かれたような傷が何十箇所もあって、その全てから血しぶきを撒き散らかし、明らかに命を絶たれていた。

あたしは、恐怖で体が震えて、腕には鳥肌が出ていた。

つづく