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演劇のメタと劇スの特異性:二層展開式少女歌劇のメタフィクション

pishiko
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1.二層展開式少女歌劇のメタフィクション

 少女☆歌劇 レヴュースタァライトはメタフィクションであると言える。そもそも、メタフィクションとは何か。一般には、

「架空の出来事であるフィクションをフィクションとして扱うこと」(*1)

“メタフィクション”って知ってる?小説用語を徹底解説, 2017/06/28, P+D MAGAZINE

とされている。では、メタフィクションが観客に与える効果は何か。『あなたは今、この文章を読んでいる。:パラフィクションの誕生』で佐々木は、注目すべきは「不安」であり、それは

「フィクションのフィクション性の強調は、現実そのものの持つ虚構性の露出と裏腹になっている」

佐々木敦, あなたは今、この文章を読んでいる。 - パラフィクションの誕生, 慶応義塾大学出版会, 2014, p.34

ことによると述べている。

 少女☆歌劇 レヴュースタァライトアニメシリーズにおいてメタフィクションは、TVアニメ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(以下、テレビ版)第12話でキリンがこちらを見て語り掛ける演出や、『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(以下、劇場版)終盤で華恋がこちらを見る演出が該当する。そもそも少女☆歌劇 レヴュースタァライトはミュージカルとアニメのメディアミックスとして自らを「二層展開式少女歌劇」と名乗っている。この「二層展開式少女歌劇」という、舞台とアニメの内容がリンクするという仕掛けも既にメタフィクションである。それは、現実の舞台における「演者」と「キャラクター(役)」の構造を虚構のアニメの「キャラクター」に重ねることで、アニメのキャラクターの中にも「演者」がいる、或いはシナリオとは別にキャラクターは自我を持っているのではないかと錯覚させるためである。


*1 “メタフィクション”って知ってる?小説用語を徹底解説, 2017/06/28, P+D MAGAZINE, 閲覧日2022-04-07, https://pdmagazine.jp/background/metafiction/

2.フィクションのレイヤー

 メタフィクションの仕掛けについて考える前に、メタフィクションのレイヤーという概念を導入したい。レイヤーは階層的な構造を持つメタフィクションの階層であり、上位のレイヤーは下位のレイヤーを内包している。メタフィクションであれば基本的に「現実のレイヤー」と「フィクションのレイヤー」は必ず存在し、更に作中作などが重なることでレイヤーは多層になり、それが現実と虚構の曖昧さを生む。

 テレビ版におけるレイヤーは3つ挙げることが出来る。劇中劇である「戯曲STARLIGHT のレイヤー」、それから華恋たちのいる「レヴュースタァライトのレイヤー」、そして我々観客のいる「現実のレイヤー」となる。

2-1.テレビ版でのレイヤー

 では、キリンはどこに位置付けられるのか。当然キリンも1キャラクターに過ぎず、現在の3つのレイヤーの中では「レヴュースタァライトのレイヤー」に属するが、それでは華恋たちと見えている世界が異なり過ぎるように感じる。例えば、キリンはタイムリープによって物語の流れを操作するだけでなく、我々を認識しているかのような言動までしている。また、作中ではキリンは自らを「運命を愛する観客にして運命の舞台の主催者」と称する。これより、キリンは華恋たちにとって上位存在、すなわち華恋たちの行く末をある程度コントロール可能な存在であると考えられる。そこで、華恋たちとキリンの関係を「演者」と「演出」と捉え、「レヴュースタァライトのレイヤー」を解体し、新たに「演出のレイヤー」と「演者のレイヤー」を定義したい。

表1 テレビ版におけるレイヤー(筆者が作成)

2-2.テレビ版での華恋のレイヤーの変化

 実のところ、テレビ版での華恋のレイヤーは変化している。先ほど述べた通り、第1話の時点では、華恋が位置するのは「演者のレイヤー」であった。しかし、第12話で華恋は『戯曲STARLIGHT』に沿っていた物語を書き換えるという形で新章を演じ、上位存在であったキリン(それから我々観客)を驚かせた。これは、キリンが演出していた舞台に対して、想定されたシナリオを華恋が打破したという点で「演出」への昇格である。従って、テレビ版終了時の華恋のレイヤーは「演出のレイヤー」であると言える。まとめると、テレビ版は我々観客の「現実のレイヤー」を巻き込んだ「演出のレイヤー」のキリンによる「演出」の物語を、「演者のレイヤー」から「演出のレイヤー」へ昇格した華恋が打破する物語である。

3.劇場版における華恋のレイヤー

 劇場版での華恋のレイヤーを考えてみたいと思う。テレビ版ではキリンと同じ「演出」にまで昇格した華恋であったが、劇場版でもそのまま華恋とキリンの立ち位置は似たものになっている。それは、キリンのセリフ「ああ、私にも与えられた役があったのですね」からも分かる。華恋たちにとってキリンが上位存在でなくなった劇場版は「演者のレイヤー」と「演出のレイヤー」を区別する必要がなくなったため、華恋とキリンを一旦「レヴュースタァライトのレイヤー」に戻す。その上で、劇場版における華恋のレイヤーを考える。

3-1.演劇のメタフィクション

 ここで、演劇そのものが既にメタフィクションとしての構造を備えていることを確認したい。我々は観劇するとき、無意識に3つのレイヤーを観ている。それは、「演じられているキャラクター」、「演者」、「演者のプライベート」である。具体的に演劇の観客は、

「舞台上のハムレットの苦難に固唾を呑みつつ、ハムレット役の俳優の演技力に感心し、同時にその俳優のゴシップを思い出したりもしている。」

佐々木敦, あなたは今、この文章を読んでいる。 - パラフィクションの誕生, 慶応義塾大学出版会, 2014, p.89

 当然、小説やアニメのような媒体ではこのレイヤーは感じにくく、メタフィクションとしてこのレイヤーを意識させるのは困難である。しかし、スタァライトは1章でも述べた通り「二層展開式少女歌劇」という特殊な構造を持っており、演劇そのものが持つ3つのレイヤーを用いることが出来る。この特異性こそが、劇場版を特別な作品にしている。

3-2.劇場版での華恋のレイヤー

 先に結論を述べてしまうと、劇場版での華恋のレイヤーは「レヴュースタァライトのレイヤー」を新たに「演者のレイヤー」と「演者のプライベートのレイヤー」に分割したうえで、この2つを行ったり来たりする。テレビ版では語られなかった華恋の心情を「演者のプライベートのレイヤー」で語ることで、我々は演劇の「演じることのドラマ」と、「演じられるドラマ」を同時に楽しむことが出来た。それは、華恋の過去を踏まえたうえで演じることの怖さを丁寧に描く一方で、wi(l)d-screen baroque という予測不能な物語の展開がどこに着地するのかに固唾を呑む、ということであり、それは正に{歌劇体験}である。

表2 劇場版におけるレイヤー(筆者が作成)

4.この作品がメタフィクションである意味

 ここまで、テレビ版と劇場版のメタフィクションの構造の違いを確認してきた。ここからはこの差が、我々の感じ方にどのように作用し、劇場版のメタ性が如何に特異であるかについて述べていく。

4-1.虚構と現実の曖昧さ

 この、「演劇」的なメタフィクションの構造の上で、劇場版では終盤に華恋がこちらを見るカットが存在する。華恋は観客と舞台の間にある境界、所謂第四の壁を見て「見られてる?」と発言する。あのシーンに不安を覚えた者は多いのではないだろうか。このシーンで華恋は初めて自分が舞台に立っていることに気付くが、もう少し抽象度を上げると、華恋は自身が誰かにとっての「虚構」の存在であることに気付いた、ということでもある。これは、1章で述べた通り、メタフィクションの効果として観客に「現実の不安定さ」を感じさせる。そもそも我々は当然虚構の存在の華恋を「おやくそく」として、あたかも現実であると自らを騙してアニメを観ている。これを敢えて明示し、華恋の存在を現実から虚構に引き戻すことで、同時に観客自身が虚構の存在であるように錯覚させる。つまり、華恋が不安を感じているように、我々も外側の存在に評価されているのではないかと共感し不安になる。

4-2.ポジティブなメタフィクション

 映画終盤で自らを俯瞰し、観られていることに不安になった華恋はどうなったか。一度は死んだが、舞台の怖さ、先の見えない人生の恐ろしさ、そして自らが虚構であることの不安を乗り越え、復活を遂げた。劇場版の異質なところは、メタフィクションとして現実と虚構の曖昧さを考えさせながらも、不安ではなく前向きなメッセージを我々に与えるところにある。前向きなメタフィクションの構造が意図的であることは、華恋の復活後に演出として「演じ切っちゃった、レヴュースタァライトを」や「本日、今 この時」が存在していることからも分かる。テレビ版と比較すると、我々を揺さぶる程度であったメタフィクションの構造が、劇場版ではよりメッセージ性を持って我々、「現実のレイヤー」を巻き込んでいると言える。

 観客であった私たちは「華恋は今も次の役を見つけ、どこかで舞台に立っている」と考えるだろう。そして、「我々はどうか。死んではいないか。貪欲に、獰猛に、舞台に立てているか。見られている覚悟はあるか。」そう問われているように感じるかもしれない。なぜなら、「私たちはもう舞台の上」なのだから。

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