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新時代サッカーの共通言語『ゴール期待値(xG)』

サッカーの試合を見ながら、「いまのシュートは決めなきゃ!あんなチャンス、誰だって決められた!」というようなことを言っている人を見たり、あるいは心の中で思ったりした経験がある人も多いのではないでしょうか?
発言した本人は確信を持っているかもしれませんが、これは主観に過ぎず、本当に「誰だって決められた」チャンスだったかどうかは、実際のところ定かではありません。

ゴール期待値(Expected Goal = xG)という指標を使えば、そのシュートがどれほど難しいものだったかを客観的に計測することができます。Stats Performが2012年に導入してから10年が経った現在、ゴール期待値は、報道やSNSの投稿、プロクラブの分析など、多くの場所で当たり前のように使われるようになりました。

ゴール期待値とは、その名の通り、それぞれのシュートが成功する期待値を0~1(0%~100%)で示すものです。0(0%)は得点するのが不可能なシュート、1(100%)は百発百中で成功するシュートになります。つまり、ゴール期待値が「0.10」のシュートは成功確率が10%で、10本に1本が得点になる難易度だということです。

AIを使って精度の高い数値を算出

ゴール期待値の算出には、シュートを放った位置やゴールまでの角度と距離、また、シュートの前のパスの種類(クロス、スルーパスなど)など、さまざまなデータが使用されています。

さらに2022年春、「Qwinn」と呼ばれるStats Performの人工知能(AI)が、従来の5倍以上のデータを使用し、過去の試合から50万本以上のシュートを分析することで、ゴール期待値の算出に使用するモデルの正確性が向上しました。下記は、Qwinnがゴール期待値の算出に使用しているデータの一部です。

  • シュート位置とゴールマウスの間の明瞭度(空き具合)

  • 相手選手からのプレッシャー

  • 下記の要素を考慮したゴールキーパーの位置:

    • シュート位置までの距離

    • シュート位置からの角度

    • シュート位置とゴールの中心を結んだ直線との位置関係

  • ヘディング、ボレー、利き足、逆足など、より詳細なシュートの種類

  • アシストの特徴など、直前のプレーのより詳細な情報。また、直前のプレーがポストの跳ね返りやパス以外のプレーだった場合の位置情報

  • ダイレクトシュートだったか、こぼれ球だったかなど、より文脈を含んだ情報

各シュートのゴール期待値

実際のプレーを例に、ゴール期待値を使ってシュートの難易度を比べてみましょう。

下の動画は、J1リーグ2022年シーズン第13節で、横浜Fマリノスのアンデルソン・ロペス選手が決めたゴールです(動画内1:30付近~)。ロペス選手のシュート位置はゴールエリア内の中央付近で、ゴールとの間に相手選手はいませんでした。Optaが算出した、このシュートのゴール期待値は0.96です。「誰だって決められた」わけではないかもしれませんが、かなり高い確率でゴールになるシュートだったことが分かります。

一方、次の例は、逆にゴール期待値の低いシュートです。J1の2022年シーズン第28節、サンフレッチェ広島の川村拓夢選手が決めた、超ロングシュートです。相手キーパーは飛び出していたものの、川村選手がシュートを放ったのはハーフライン手前のピッチ端で、ゴールは60メートル以上先にありました。このシュートのゴール期待値は、なんと0.00以下。100本打っても入らないようなミラクルゴールだったと言えるでしょう。

選手個人のゴール期待値

一定期間における選手のゴール期待値を合算すれば、試合やシーズンを通したゴール期待値と実際の得点数の比較により、「期待される得点数に対して、実際どれくらい得点したのか」という検証をすることもできます。

例えば、A選手がゴール期待値0.20のシュートを1試合に5本放った場合、その試合のA選手のゴール期待値は「0.20 x 5 = 1.00」になり、1得点を挙げられるだけのチャンスが与えられていたということが分かります。実際に1得点を挙げていれば期待通りの活躍だったと言えますし、2得点以上であれば期待の倍以上のパフォーマンスを発揮したと言えるでしょう。一方で無得点だった場合は、力不足だったと言えるかもしれません。

これをシーズン通算で計測するとサンプル数も増えるため、より正確なゴール期待値を得ることができ、選手の特徴も見えてきます。例えば、2021-22シーズンのプレミアリーグで得点王に輝いたトッテナムのソン・フンミン選手は、シーズン通算のゴール期待値が16.01だったにも関わらず、23得点を挙げました。一方、同じく23得点を挙げたもう一人の得点王、リバプールのモハメド・サラー選手はゴール期待値が24.64でした。同じ得点王でも、ソン選手は難しいゴールを多く決め、サラー選手は多くの好機から得点を重ねていったことが読み取れます。

チーム全体のゴール期待値

ゴール期待値が役に立つのは、選手個人の評価をするときだけではありません。チーム全体のゴール期待値を算出することで、チームとしてどれだけの得点チャンスを作り出せているのかを数値化することができます。この数値は、戦術の評価をする上での重要な情報になり得ます。

例えば、チャンピオンシップ(イングランド2部)2020-21シーズン序盤のブレントフォードは、パフォーマンスに結果がついてきていませんでした。ところが、ゴール期待値では、得失点の両方で実際よりも優れた数字が出ていました。その後、ブレントフォードの成績とゴール期待値のギャップは徐々に埋まり、最終的には3位でシーズンを終えました。
ブレントフォードが実際にゴール期待値を基準に戦略を立てたかは不明ですが、このチームは、かなり早い段階からゴール期待値を導入したことで知られています。

BBCの番組で使用されたゴール期待値(右下)
特定の試合の合計ゴール期待値は、「運に左右されなかった場合」の結果を算出できる

今回は、ゴール期待値とその活用方法についてご紹介しました。ゴール期待値は、欧州を中心とするサッカー先進国では広く知られており、今回ご紹介した以外にも多くの活用事例があります。ご興味をもっていただけた方は、下記よりお問い合わせください。

ゴール期待値(xG)の詳細

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