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トビエイを食べてエイとの付き合い方を考える。

昨今の鱏事情。

ここ最近色々なバラエティ番組やニュースで”エイによる被害”が頻発しているという内容の放送をちらほら見かけるようになった。
ことアカエイの名前や影響は一般人にも浸透してきたと思われる。
漁業関係では網を損耗させたりアサリや有用貝類の潮干狩り会場ではエイが対象の貝を食らい尽くしたり海水浴場などで毎年刺される事故が発生し海水浴場そのものの閉鎖したりする。海上保安庁や地元の新聞、日本ライフセービング協会から注意勧告が出るほどだ。
そしてこれはアカエイだけでなく「トビエイ類」にも同じことが言える。
市場にも並ばず水族館でも殆ど見かけないので一般層の知名度はいまいちではないだろうか。
そんなトビエイ類、日本近海で上記のような被害を出しているのは「トビエイ」「ナルトビエイ」の2種類だ。
特に有明海や瀬戸内海では数を増やし以前よりも人間社会に影響を与えている。
YahooJAPANで調べると「漁師の敵?」「アサリやカキを食い荒らす」などあまり好感的とは言いがたいワードが目につく。
同じトビエイ類でもマダラトビエイはディ○゛ニーに出演するくらい愛されているのに…。
何故にアカエイやトビエイが爆発的に増えたのかというとコレだ!
というものではなく「エイを捕食する大型魚の減少」「海水温上昇によるエイの沿岸海域での滞在、活動時間が増えたこと」「産卵の際に河口域や浅瀬で大規模な群れを作ること」「人間による消費が激減したこと」などが考えられると言う。
お説教臭くなるのは非常に不本意なのだがやはり環境の変化と人間の経済活動もこの騒動の一因となっているのだ。
ではかといって個人単位が今から短期間のうちに「よっしゃ!海水温下げるぞ!」とか「俺は広大な海のエイ類の個体数を調整するぜ!」なんてことは不可能であろう。そもそもそういうのは県や地域、専門家、行政が連携して主導すべきことだ。
ともなれば無意味に殺して処理するのもなんだし食べてしまおうと。
アカエイなんて昔から食べられてきたしエイヒレやカスベエイの肉もスーパーで買える。更には最近じゃあ兵庫県立香住(かすみ)高等学校「ナルトビエイのあんかけ缶詰」が開発されている。
そうエイ類とは本来、人間にとって非常に有益な水産物なのである。
海洋国家という肩書きに胡座をかき多数の水産資源を無軌道に減らしていっている我が国。
こういった普段は見向きもされない生物も貴重な水産資源として扱い、管理しながらより多くの選択肢を残してより長く人間が豊かに生活できるように考えていかなければいけないと思う。

トビエイ弾着。

っちゅーことで私もトビエイを食べ倒して有効活用します。

ドドン!!

これは印束商店様という水産業者さんのご厚意により着払いしてもらったトビエイのヒレだ。
非常に新鮮でエイやサメの類いのアンモニア臭が一切ない。
長崎から新潟へきたのだが驚くべき鮮度管理だ。
臭くないのであればまずは生で食べるほかあるまい…。

トビエイの刺身&湯引き

ヒレの肉と軟骨を分けそれぞれ生と湯引きしたもの。

部位により色味がピンクだったり赤だったり白だったりと暖色系でおもしろい。
普通エイの刺身や湯引きはコチュジャンや酢味噌で食べるのが定番でそれに倣いコチュジャンとわさび醤油、ごま油で頂く。
…?ううむ。エイの刺身は基本、うま味や脂質由来の甘さというのが他の魚に比べて薄い。それを差し引いてもちょっと物足りない。
鮮度がよすぎてうま味が出ていないのか小型の個体だったから味に深みがないのか…。あとは"きどい"というのかメチャクチャ薄めた塩素のようなアカエイとは違う独特の風味がある。軟骨魚類や磯臭い魚を食べたことのある人には気にならない程度だが食べ慣れない人にとってはなかなかの違和感だろう。
肉のみの食感はモチモチシコシコといった感じで見た目ほどの繊維質は感じられない。ヒレをつかい海上を滑空するためか軟骨は非常に弾性と剛性に富み、先端ポリポリ根元はゴリゴリと鳥の軟骨を食べているような食感だ。
湯引きはというと、身がパサつきかすかに塩素の香りがする味の薄いササミみたいな風味になる。
湯通ししただけでは軟骨の食感は変わらなかった。

トビエイのソテー

エイといえばソテーや唐揚げといった軟骨魚類に足りない脂を他の素材を使って補い、クセのある風味をスパイスやしっかり火を通すことによって臭みを覆う方法が一般的だ。

ふっくらした。

「これは間違いないよね」といった出来。
ワインを使い蒸し工程を入れたらなんか身がふっくらと膨らんだ。
シャープな見た目から丸みを帯びた可愛らしいフォルムにチェンジしたと同時に先ほど感じた鼻につく風味も完全に覆い隠している。
ホクホクとした身に白身魚の素直であっさりとした食べやすい万人向きの料理に仕上がっている。
スパイスを変えたりしても楽しめそうだ。

トビエイの醬油煮

端がくるっと巻いてこれもなんだか可愛いね。

エイと言えば醤油で煮る。
これはアカエイの煮付けとはかなり違う仕上がりになった。
身は適度に締まりムチムチしておりポリポリとした軟骨の食感が合わさってとても楽しい。
多少なりともトビエイの渋みのようなクセはあるが甘み薄めの醤油で煮ると案外この渋みが美味しく感じられる。この渋みもショウガを入れてやると消えるだろうと思われる。
ゼラチン質が少ないようで冷えても煮こごりはできずにサラッサラなままだった。
個人的には全然美味しく食べられる。

トビエイの味噌煮

愛知県の三河地方、豊橋市ではアカエイを利用し味噌煮にして食べるという情報を得たのでトビエイも味噌と少しの醤油で水分が軽く飛ぶまで煮詰めていく。

美味しそうな照り。

本来は三河地方の酸味のある豆味噌を使うのだそうだが新潟では容易に手に入らないので市販の味噌で…。
鷹の爪を入れて今度は渋みを完全に消す方向に調理してみた。
ううむ。日本古来の強力な消臭効果を持つ調味料の前では臭みどころか身の味もすっかり消し飛ばしてしまいました。
思ったより繊細な食材であるらしくガッツリ濃い味付けをしてしまうとトビエイを使う意味が無くなってしまう。

トビエイの味噌漬け焼き

醤油のみでは大人の味付け、味噌で煮ると個性が消えてしまうので適度にクセを消し長所を伸ばすという点に注力し任意で塩加減を調整できる味噌漬けにしてみることにした。

赤黒くなってしまった。

身は焼くとふっくらとなり軟骨は軽く焦げ先端はクリスピーになった。
味噌に含まれる塩分によって水分が抜けて焼いたときに丁度良くできになった。
相変わらず身の味は薄いものの筋繊維に沿ってまとまって裂けて非常に食べやすい。
エイヒレとは違った方向のおつまみ…ジャーキーや強く干し上げた味醂干しに似た酒のアテといった感じだ。

まとめ&振り返り

エイとして定番料理とほんの少し捻った方法で試したが個人的には乾物やおつまみに特化したような食材なのかなと感じた。
今回は小型のヒレだけだったしエイ料理は世界各地に古くから存在するためポテンシャルも決して低くはない。
アカエイとは違うベクトルのきど味はあるがアンモニア臭さは感じられなかったし味噌や調味料を使えば変な労力を使わずに簡単に調節できる。
身本来の味が薄いというのも裏返せば素直であり加熱さえすればどんな味付けでも違和感なく馴染むということだ。

現代日本ではエイ料理というのは食卓に上がりづらく地域や釣り人の特権、カスベか乾物のエイヒレが精々なところだ。
だがしかし、冒頭の部分でも触れたとおり増えすぎたエイ類を有効活用しようとあらゆる企業や産学連携で惣菜や加工品が実験的に数多く生み出されている。
また、まだ魚好きだけの範囲だけだが食用にされるエイの種類も増え「イズヒメエイ」「ガンギエイ」「シビレエイ」…etcと選択肢も広がり水産資源としての有用性も上がってきていると思う。
エイ、サメ自体が上位捕食者であるため捕りすぎ厳禁だが増えすぎた分なら捕って食べることで出る影響は少ないだろう。少なくともただ殺すよりはよっぽど有益だ。
まだ加工する業者や企業が少なく「エイ食」が一般層に浸透するのには時間がかかるかもしれないが今の偏った水産資源の消費活動に楔を打ち込めるような存在に今後なって貰いたい次第だ。
余談だが剥いだトビエイの皮は鞣してレザーにした。
気が向けば何かに使って紹介したいと思う。

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