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哲学を志す文系のための数学独習法

哲学を志す文系にとって、数学は必須教養である。しかし数学はあまりにも専門的語彙の敷居が高く、容易に近づくことができないように見える。

しかし私は、あえて一切の数式を「流し読み」(=「スルー」)して、専門家が「大和言葉」で説明している部分だけを読むことによって(もちろん後半に付された「演習問題」等はガン無視である)、「なんとなく」の理解を塗り壁式に重ねてきた。それによる理解が、もちろん数学の専門家の方から見て浅はか極まりないことは承知している。

が、人生の時間は有限である。私はこうした学習を通して、他のどの分野の文献によっても得ることのできない、かけがえのない思考の窓を手に入れたという実感を持っている。

今回はそんな私の、超独断と偏見による「数学の独習法」ならびに、その際に参考になった動画・本・ブログをご紹介する。

全体像を頭に入れる

ざっくり言って、数学は「代数」「幾何」「解析」の三つに分かれる。
代数は「数」、幾何は「かたち」、解析は「大きさ」に対応。
これまで、幾何と解析は相性が良かったが、「数」と「大きさ」は、「離散」と「連続」のギャップから、似たようでいて実は水と油だった。
しかし、グロタンディークが数々の発明によって「数」と「大きさ」を「結婚」させたことで、代数幾何学の新しい地平が開け、フェルマーの最終定理は解決され、現代数学はラングランズ予想の解決及び素数の謎の解明へと向かっている。

以下は、数学系YouTuber古賀 真輝氏による「数学の世界地図」。

古賀 真輝 氏の「数学の世界地図」

単行本「笑わない数学」

当時小学生だった教え子(現在は駒場東邦中に進学)が教えてくれたNHKの伝説的な番組がついに書籍化。ガロア理論や楕円関数など、CG技術の発展によって初めて可能になった直感的図解が秀逸。短いページの中に、数学の面白さと全体像がぐっとまとまっている。

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図鑑「マスペディア」

上記の地図にも表されている数学の各分野の全体像と、面白いキーコンセプト(例:「ゴロム定規」など)に触れることができ、図解を通して直感的な理解が可能になる。

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新書「数学は世界をこう見る」

非専門家の小島氏による解説を通して、トポロジーからグロタンディークのスキーム論に至るまでのざっくりした感触を得ることができる。

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新書「物理数学の直観的方法」

鬼才・長沼伸一郎氏が、ベクトル解析、フーリエ変換、複素積分など、理工系学生の前に立ちはだかる数学の「10の難所」を極めて直感的な方法で説明してくれる。文系にとっては、「ふーん」という感じで楽しみながら読める。

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新書「数学21世紀の7大難問 数学の未来をのぞいてみよう」

「リーマン仮説」「ポアンカレ予想」「ホッジ予想」「バーチ、スウィンナートン=ダイアー予想」「P対NP問題」「ヤン・ミルズ理論」「ナヴィエ-ストークス方程式」という、各分野の未解決問題をのぞくことで、数学者が直面している問題の本質の奥にある哲学的な課題を垣間見ることができる。

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全体像を、よりしっかり理解する

ここからは、シリーズものの書籍を通じて全体像をよりしっかり理解していく。ここを飛ばしても構わないが、そうすると全体像の理解はおぼつかないものになるだろう。

マセマ・シリーズ

お気に入りの雑誌を買い集めるような気分で収集し、馬場先生の直観的な図解と説明を楽しみながら読める。暇があれば例題を手を動かしながら解いてみると理解が深まる。

「数学30講」シリーズ

マセマを手っ取り早く終えて、こっちに進むのが正解。

全10冊のシリーズを通して、「微分・積分」,「線形代数」,「集合」,「位相」,「解析入門」,「複素数」,「ベクトル解析」,「群論」,「ルベーグ積分」,「固有値問題」という分野についての詳細な知見が得られる。
全編にわたって、優しい導入と直観的理解を促す説明がなされる。特に「集合」「群論」「ルベーグ積分」あたりは、哲学的にも非常に興味深いテーマなので、外せない。

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専門分野に分け入る

群論関連

単行本「見える! 群論」

群論に関してはなかなかイメージがつかみづらいが、私はこの本で初めて、群という存在を手触りを持って理解できるようになった。

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単行本「有限群村の冒険」

群論の最先端にそびえ立つ「モンスター群」についての直観的な説明が日本語でなされた唯一の本(しかも小説)。だが、群論についてのある程度の理解がないと意味不明。(小説としては正直全く面白くはない。)

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文庫「ガロアの夢:群論と微分方程式」

ガロアの群論と微分方程式との驚くべきつながりが明かされる。著者の語り口が独特で面白い。群(代数)、トポロジー(幾何)、微分方程式(解析)の三つの分野が絡み合うという最先端の面白さが垣間見られる貴重な名著。絶版で手が出なかったが、ついに2023年に文庫化!

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トポロジー関連

単行本「トポロジカル宇宙 完全版: ポアンカレ予想解決への道」

トポロジーという、ややもすると中に浮きがちな幾何学概念を、「宇宙の形」として説明することで非常にロマンあふれる物語に変えてくれる本。ポアンカレ予想の解決についての直観的な解説も得られる。

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単行本「トポロジー:やわらかい幾何学」

トポロジーに対する真面目な理解を、直観的な図解を通して促してくれる。瀬山士郎氏の解説は非常にわかりやすい。

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文庫「現代数学への招待:多様体とは何か」

私の多様体についての理解はこの一冊によるもの。「アトラス」=「地図」の貼り合わせによって多様体が浮かび上がる様子が鮮明に描かれているのと同時に、「ウリゾーンの距離化定理」なども紹介され、トポロジーが捉える空間概念の奥深さが垣間見れる。

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ラングランズ予想関連

単行本「類体論と非可換類体論Ⅰ フェルマーの最終定理・佐藤-テイト予想解決への道」

名前はイカツイが、豊富な例示を通して、「類体論」とその拡張による「非可換類体論」の本質がコンパクトにぎゅっと理解できる本。文系にとっては、フェルマーの最終定理とラングランズ予想についてはこの本を読むだけで十分では?

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単行本「数学の大統一に挑む」

エドワード・フレンケル氏による初心者向けの解説本。序盤は優しめだが、中盤からぶっ飛ばしていくが、あくまで直観的説明を通して、「層」や「圏」、「トポス」にまで言及される。グロタンディークが押し開き、ラングランズ予想につながっていく「数」という概念の奥に広がる新たな世界を垣間見させてくれる。

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圏論

単行本「〈現実〉とは何か」

圏論についてたくさん本を出している西郷先生が、現象学のアプローチから圏論の本質について解説。相対性理論がとった立場と、圏論における自然変換概念の類似性を指摘している箇所が面白い。

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コホモロジー関連

単行本「コホモロジーの心」

圏論からコホモロジー、スペクトル系列まで、驚くべき距離を短いページ数の中で駆け抜ける。消化には時間がかかるけれど、大和言葉が豊富なのでしっかり読める。

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単行本「コホモロジー」

ゴリゴリの専門書に見えるが、そうでもない。大和言葉で本質を解説してくれている箇所がかなりあるので、そこをつまみ食いすれば大変楽しめる。

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その他

YouTubeチャンネル「3blue1brown」

視覚的でとてもわかりやすい。

YouTubeチャンネル「Aleph0」

連続体仮説、ポアンカレ予想、フェルマーの最終定理、ガロア理論の四つについて、直感的図解がすごくわかりやすい。


単行本「一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する」

物理寄りではなく数学寄りのスタイルで、「微分幾何学」を数学的にしっかりと理解していくアプローチをとるので、「一般相対性理論」と「多様体」が頭の中でしっかり接続される。ガウス・ボンネの定理を数学的にしっかり理解させてくれるあたりの感動を味わえる。

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ブログ「日曜数学者 tsujimotter の「趣味で数学」実践ノート」

何を読んだか忘れたが、とりあえず色々とめちゃくちゃわかりやすい。困った時はTsujimotterが何か説明していないかを探してみる。

https://tsujimotter.hatenablog.com/

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