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昭和昭和と云ふけれど…

「昭和」といっても、時代としては西暦で言えば1926年(12月25日)から1989年(1月7日)までの半世紀を優に越える長期にわたり、その間には世界恐慌や太平洋戦争(大東亜戦争)という社会的にも文化的にも大きな混乱の節目を迎えていて、そのすべての期間を一括ひとくくりに語ることはできない。
もっとも世間では、ざっくり(本当にざっくりと)〝ショーワ〟とまとめて、その時期のあれこれをべて「古いモノ」として一蹴する空気もあるようで、言葉の言い回しでさえ無意識にでも口にしたその一言で〝年寄り認定〟されるという実にキビシイ昨今ではある。令和の御代、昭和一桁も団塊も、さらに降ったシラケ世代も一律〝爺婆ジジババ〟扱いという有様だが、「まだまだこれから」と思っている側から「そろそろご勇退を」と肩を叩かれている感がしなくもない。
そんな「昭和言葉」のランキングなるものがネット上で話題になっていたので、昭和半ばの生まれとして思うところをつらつらと。 –––––

上記引用にある全ランキングはここに列挙しないが、〝ベスト(ワースト?)テン〟は以下のようになっている。

1位 ナウい
2位 アベック
3位 あたり前田のクラッカー
4位 よっこいしょういち
5位 チャンネルを回す
6位 許してちょんまげ
7位 もんけ、シミーズ、ももひき
10位 冗談はよしこちゃん

う〜む…
昭和という時代をこれらで代表してしまうのか…

2位の「アベック」はフランス語 (avec = with) 由来だから、と言うワケではないが、そうそう古びたイメージではないし、7位の「衣紋掛け」は「ばこ」くらいに一般名詞とみてもよいと思うのだが。

また1位「ナウい」と3位「あたり前田…」の時間的距離はそこそこあって、同じ世代感覚の言い回しとは言い難い。ことほど昭和は長く、その時間層も多種多彩なので、それぞれの〝昭和感〟は同じニュアンスの〝ショーワだねぇ〟というものではない。
就中なかんずく流行はやり言葉としての「ナウ (Now)」の用法は、「ナウな/ナウだ」(形容動詞・またはナ形容詞)としての使い方が本来だったのではないか。それが後年「ナウい」という形容詞(イ形容詞)として扱われるようになり、その傾きについては子供の頃から「随分と言葉が雑になったなぁ…」という印象を抱いていたものである。爾来じらい「〜い」という新語が現れるたび、その粗雑な形容詞的表現にウンザリさせられている。

ランク4位… 横井庄一さんのグァム島からの帰還はもちろん同時代的に知っているが、「よっこいしょういち」なんて言い回しは、少なくとも私の周りでは聞いたこともなければ使った事もない。4位に上るほど人口に膾炙していたものなのか、個人的には疑わしく思う(たまさか私が知らなかっただけなのかもしれないが)。

個人的な馴染みが薄いといえば、ランク3位にある「当たり前田…」が矢沢あいの少女漫画『ご近所物語』で使われた時は、何が面白いのだかさっぱりわからなかった。賞味期限切れの古臭いネタとは理解できたが、当時(平成7〜9年頃)『りぼん』誌でこの言葉に触れた少女たちはその背景を知って面白がっていたのかどうか。

10位はむしろ「冗談はせ」(西川のりお、またはギレン・ザビ@1stガンダム)が私の世代感覚的にはしっくりくるかもしれない。

それにしても…

記事中に見られる23位「半ドン」30位「ハイカラ」36位「ほの字」を一律昭和言葉にくくるのは、ちょっと物知らずも甚だしいのではないか、とも。このリストを見ると、文明開化以来の歴史感覚が混濁しているような感すらある。そのうち日本語の歴史が積み重ねてきた時間層が摩耗し、「はるはあけぼの」と「はるはあげもの」の区別がつかなくなってしまう〝いとをかし〟な喜悲劇もまんざら冗談ともいえなくなるのではないか。

最後に、ランキング2位「アベック」について。

子供の頃、シューマンの《アベッグ変奏曲 (Abegg-Variationen)》を〝アベック変奏曲〟というタイトルだとはじめ思っていた。和文表記の題名だけ見て「連弾(一台のピアノを二人で演奏する)曲かな…」と思って譜面を見たら違った、なんて事も、ありやなしやで。

…今度書いてみるか、連弾のための〝アベック変奏曲〟を。

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