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定禅寺STREET JAZZ FESTIVAL2023で感じた 旅と音楽

人は一期一会。
人に限らず人生で出逢うあらゆるものが、一期一会。その裏側には、出逢わなかった無数の存在が隠れている。

2023年2月公開のジャズ映画「BLUE GIANT」を観て、原作漫画を全巻読んで、作中で主人公が高校生のときに足を運んだ地元のジャズイベントこそ「定禅寺ストリートジャズフェスティバル」、今回私が訪れた場所だ。ジャズ、フュージョン、ロック、ゴスペル、ビッグバンドーー漫画の描写にあったとおり、街のあちこちに、ジャズの枠には収まりきらない様々なジャンルの音楽が溢れていた。

23ある屋内外の会場で並行して、各バンドが30分のステージを演奏する。1会場当たりのステージは、2日間かけて16〜20ステージ。

今見ているバンドは、イベント全体の400分の1の一幕。「すべてを遍く知りたい」完璧主義の私にとって、これは悔しい制約だ。だが、見られないステージの量が把握できると、今度はすっきりと気持ちを手放すことができた。自分の運命のなかで手に入れられるものは、思っている以上に、ほんの僅かなのだ。

全てを網羅的にモノにしようとするから、一つも手に入らない。たった一つを手に入れようとするなら、そのステージが唯一無二の出逢いになる(実際、アマチュアバンドでネットに動画も上げていなければ、これが彼らの音楽を聴くことができる、正真正銘、最初で最後の機会かもしれない。あらゆるものがネットでアーカイブされすぎていて、あとで検索すればいいやという、出逢ったものへのぞんざいさが育ってしまう時代である……)。

ジャズフェスは、自分の弱さと、弱い自分にできること、を認識する場でもある。

フェスを通じて一期一会に出逢ったミュージシャンたち、そして、旅を通して出逢った経験のいくつかを、ここに紹介する。


The Accel Jazz Express

「特急」の名の通り、強烈なスピード感と勢いのある演奏・トークで会場全体を一気に盛り上げていく、エンターテインメントを備えた社会人ビッグバンド。煌びやかさとクールさで揃った選曲が、真夏のビールとよく合って最高に美味しかった。

はらかなこ

強く芯のある打鍵のピアノと、的確で雰囲気のあるパーカッションのデュオ。自作している曲は、春のようにやさしい曲調から、世界の深部に届くようなシリアスな曲調まで幅広い。二人とも楽しそうに音に乗っていた。アコースティックピアノを置いた屋外会場での演奏は、晴れた欅並木の空に心地よく響いた。

Hard Getting More Mellow Band

フュージョン系のインストバンド。70〜80年代フュージョンを中心に演奏。アルトプレーヤーのグルーブ感が半端なく、音楽の中の真実が見えているのだろうなあと羨ましく思った。

Mrs. Angel

仙台到着一発目に出会ったのが、この声圧たっぷりのゴスペルバンド。演奏場所は街のアーケード2階部分の「おおまち空中ステージ」と呼ばれる会場で、声がよく反響するのもあって、なんか一気に感動した。歌って、いいねえ。

JET HORNS

トランペットのベル部分を斜め上に傾げた、荒くれ者揃い(失礼)のビッグバンド。トランペットソロの見せ場の魅せ方と、高音域に威力を感じた。こういう形でエネルギーを発散するのは、正義だと思う。

MMJG

ホーン3管のスタンダードなジャズバンド。安定したトランペットのズズズっと聴かせるソロがいいし、テナーとトロンボーンも前へ前へのバランスよし。ピアノとキーボードがそれぞれあって面白い。

ブランケルサクソフォンアンサンブル

美しきサックス4管のアンサンブル。ソプラノの的確な発音がすばらしい。息のあった演奏は、精巧な飴細工のよう。

ashiknep hum(アシネップフム)

スームスジャズ系バンド。カーブドソプラノまじかっけー! ムードたまらん。やっぱりソプラノだよなあ!


旅のクラフトビールダンジョンへ

歩き回るも、宮城県を代表するblack tide brewingのビールが見つからない。ビアレストランでも売り切れ! コンビニにも駅にもない!
ホテルで見つけたフリーペーパーには、ビール、ビール、ビール。やっぱりここは聖地なはず。当のビールはどこにあるの!?

デパ地下にありました。
ブラックタイドが売り切れていたビアレストランでは、新たな知見。加美町振興公社「やくらい地ビール」と、角田市のJAみやぎ仙南「仙南クラフトビール」は、どちらも味と正面から向き合っているようで、味わい深かった。

全国区にはなっていない、掘り出しクラフトビールを見つけたときの幸せ。これぞビア旅の醍醐味。(ジャズフェス目的じゃなかったんかい)

駅の寿司屋の光り物

寿司は美味しいに決まっているので、旅先で食べたいのは「寿司」ではない。マグロではない! 日常では金を積んでも食べられない物、手の届かない物を食べたいのだ。
新幹線で仙台に到着して、至近の駅寿司で昼食。「太刀魚炙り」「生石垣貝」の各握りは至高の味わいであった。

ちなみに石垣貝という二枚貝の産地は三陸周辺。沖縄県の石垣島とは関係ないとのこと。ホンビノス貝などと同様、歴史は浅くてここ数十年で食べられるようになったらしい。食用魚介も、時代と共にどんどん変わっていくなあ。海底の貝社会の隆盛をみた。

駅内の寿司店数店のなかには長蛇の列の店もあったけど、なぜに偏り? 佇まい? お値段? 並んでないところに入ったけど満足だった。人についていけば大丈夫、という判断軸は不要なアイテム。

牛タン専門店 焼肉チェーンと一緒には到底できない

仙台といえば牛タン。本格的な牛タン専門店で、肉厚の牛タンを初めて味わい、深く感動した。牛タン、こんな美味しかったんだなぁ。

脂ノリノリなので「お新香じゃなくて千切りキャベツでもつけてくれりゃあ」なんて不満をもらしたのだが、これには実は意味があった。

牛タン定食は戦後の食糧難時代に端を発する。当時、食べられない部位として安価に取引されていたタンを、美味しく食べられるようにと、とある料理人が2年かけて調理法を改良したのだという。
そして、同様に食べられていなかったテールをスープに、米より安い麦を混ぜてご飯のかさを増やし、くだんのお新香は「一夜漬け」で、やはり古漬けよりかさがあるので、これを付けたのだとか。

それで、どの店でもこの定食セットになってるのかー。食べ方のムーブメントには違いないが、タピオカとちがって長年の歴史となり地域の名物となりえるのは、やはり背後に利他の願いがあるからなのだろう。

塩竈の水産物仲卸市場へは、パスとバス使うといいよ

週末パスで在来線が無料だったので(後述)、仙台から至近の港町、塩竈まで行って市場で海鮮丼を食べた。

好きな食材を買い集めて海鮮丼を作るというエンターテイメントは、日本全国の魚介市場で展開されているが、ほとんどマグロとウニといくらに代表されるので、どこで食べても一緒の「アンチ地物」状態になっていると思う。

その点、今回は地物の飛魚がたらふく食べられた。流通に適さない小型の青物は狙い目だし、グラム単価も明らかにお手頃。そして、宮城サーモンも初賞味。うーん脂が乗っている上に、脂が乗ってて、トロトロの身の脂が美味しい。

にしても、暑い。酷暑の中を、駅から30分歩いて市場まで往復。帰ってきて調べたら100円バスあった。発汗デトックスできたし、よしとする!

新幹線素人が発見した路線の真実

今回はJR「週末パス」というチケットを活用した。2日間、範囲内のJR在来線+連携私鉄が乗り放題8,800円。関東全域と長野・新潟・山形・宮城エリアをカバー。新幹線も特急料金追加して乗れる。一泊旅行に最適。

出発地の佐久平から仙台まで、乗車券が片道8,000円近くかかるので、特急券を追加してもかなりお得。さらに旅先で「海鮮丼食べにちょーっと足伸ばしたいなあ」なんて時もこのパスが使える! 地元のビアフェスへ電車で行くときに偶然ポスターで見つけた。ビアフェスよありがとう。

さて、電車の知識があまりない私なので、この機会に新幹線がどう分岐しているか気になって調べた。

距離をガン無視した新幹線分岐の図
(東京以北)

な、な、なんと! 仙台駅と佐久平駅は、路線図上のほぼ完全な並行位置にあった。どおりで所要時間も、大宮を挟んでちょうど1時間ずつだったわけだ。

新幹線というとつい東京起点で見て、東京に近づくか遠ざかるかという軸で考えがちだが、こういう並行移動の旅もありなんだなあ。なんだか乙な旅路である。ハブ都市埼玉は自虐してばかりいずに、もっと誇りを持って生きてほしい。

さらに、中ボスランクに並び立つ「金沢・庄内・秋田・八戸」をコンプリートするとかなり旅の猛者感が出ると感じるのは、私だけではあるまい。通過点でなく街をじっくり歩いたことがあるのは、私は今のところ金沢だけ。マツコさんって日本中の街のこと大小構わずよく知ってて尊敬する。そんな感じの旅人になりたい。


おわりに〜仙台と音楽とビールと、うずまく雲〜

鉄旅動画を見れば、車窓の景色がわかる。
ストリートビューで、街の様子がわかる。
バンドの動画を見れば、曲調も技巧もわかる。
お取り寄せすれば、全国のビールも海鮮も食べられる。

それでも私は旅をする。

車道をホコ天にした光降るステージで湧き上がる歓声を聴き、
アーティストとオーディエンスの熱狂のキャッチボールを目撃し、
通りがかった人がふと足を止めて聴き入るときの心中を想像し、
ジャズのスウィングとビールの爽快さにつかのま心身を預けきり、
その地に根ざして生きる人々の生業を手ずから受け、
日本を巡り巡る友人たちと再会して、同じ大地に自分もいることを確かめ、
炎天下から百貨店へ一歩入った瞬間の涼しさに打たれ、
新幹線のトイレのデザインと機能性に感動し、
自分の足に任せれば、どんな未知の場所へでも行けてしまうことを知る、
そのために。

旅の内容のほとんどは、行くまでわからない。その、わからないことが瞬間瞬間に起きて、そこで初めて、ネットで調べただけではわからない本当のところが「わかる」。それははたから見ると、運命に翻弄される不幸なアクシデントのように感じる。

けれど、翻弄それ自体はポジティブな性質もネガティブな性質も持ちあわせていない。そして、居場所を移さずとも人は結局、現状に翻弄されながら生きる。それだったら、知らない場所を見てばかりいないで、飛び込んでいってみたらいいじゃないか。翻弄を自分の手で選びとり、一期一会をひとつひとつ拾いながら進む。RPGの地図にある、雲に巻かれたまだ見ぬ場所へ。どんな場所からスタートしても、雲の先にしか、ゲームクリアの道はない。



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