Base Ball Bear鑑賞『東京ピラミッド』 アルバムの曲順という概念

 今回から副題をつけてみました。下北沢GARAGEが閉店するということで、この文章を書き始めたのはBase Ball Bearのガレージラストライブの配信を見たばかりのところです。とても良かった。GARAGEに行けたことが無かったのは残念ですけど、配信やってくれてたいへんありがたかったですね。

 今回はここ最近改めて良さを再確認した『東京ピラミッド』について。インディーズ時代のシングル『YUME is VISION』の3曲目に収録されている曲です。『YUME is VISION』は4曲でシングル、『GIRL FRIEND』は同じく4曲でミニアルバム、『夕方ジェネレーション』は7曲で同じくミニアルバム、時間が経って『光源』は8曲でフルアルバムなんで、まあさじ加減って感じですね。
 2000年代後半くらいまでの音楽業界においてはオリコンランキングが幅をきかせていて、アルバムとしてリリースするかシングルとしてリリースするかで集計されるチャートが異なるので結構意味があったのかもしれないですけど、今はシングルだろうとアルバムだろうとミニアルバムだろうとEPだろうとあんまり違いはないですよね。ストリーミングで1曲ずつ聞くという人が多くなっているんで。とはいえもともとフルアルバムが10~12曲くらいであるというのも、アナログレコードがA面B面合わせて40分くらいであったことからだと思うんですけれども、何曲何分くらいが丁度良く感じるかなんて人それぞれだよなって感じですし、だから結局アルバムやミニアルバムの曲数なんてアナログレコードやらCDやらの記録時間みたいな技術的な側面で決まってくるわけですね。
 『YUME is VISION』くらいのコンパクトな曲数でも、4曲通しで聴くことでとても充実感があると思います。一方でめちゃくちゃボリュームのあるアルバムも、単純にたくさん聴けて嬉しいですよね。僕が持ってるオリジナルアルバムのCDだと2枚組ですけど花澤香菜さんの『25』(2枚組25曲)やRed Hot Chili Peppersの『Stadium Arcadium』(2枚組28曲)とかめちゃくちゃボリュームありますね。ただ、仕事で外回りのときに職場の車でCDよく聴いてるんですけど、2枚組アルバムって途中でディスク交換しなきゃいけないので車で聴くには若干面倒です。同じように車内で聴くというシチュエーションであれば、『YUME is VISION』のような4曲もちょっと短く感じてしまいます。何曲何分がちょうど良く感じるかは聴く環境にもよりけりです。アルバム1枚に2,500円~3,500円くらいせっかく出すなら曲数多いほうがうれしい、ってくらいですかね。ディスク入れ替えを厭わないかどうかみたいな環境面の条件を抜きにすれば、僕個人的には30曲くらいまでであれば何曲でもその曲順で聴くという楽しみ方ができるので、本当に何曲でもいいなって感じです。もちろんシングル『YUME is VISION』も、『YUME is VISION』→『君のスピード感』→『東京ピラミッド』→『ドッペルゲンガー・グラデュエーション』という曲順が耳に染みついてます。

 僕は音楽作品における曲順という概念が大好きです。作品にストーリーがある場合はその理解に一役買うというのもありますし、まず本来の曲順があって、そして別の場面(ライブなど)でその曲順に沿っていると、それらの曲たちが居るべき所に居てくれているというか、曲たちそれぞれがいちばん活きるポジションにいられている感じがするというか、とにかく気持ちいいなって思います。あとは曲単体だとそんなに好きじゃないなって曲も、曲順という概念によってアルバム内で良い役割を果たしたりするっていうのもありますね。
 今のところ『東京ピラミッド』そのものの鑑賞とは違うことばっかですけど、結局何が言いたいかというと、音楽ストリーミング時代で1曲ずつバラバラの聴き方が浸透しているとはいえ、まだしばらくクリエイター側には曲順という概念のある作品を創っていてもらいたいということですね。Base Ball Bearに限らず。そのためにもリスナー諸君はアルバム全体で聴くとか、曲順に沿って聴くという方法に楽しみを見出すことに成功してほしいものです。

 以上がクソ長い前置きです。ここから『東京ピラミッド』の鑑賞です。
 Apple MusicのURLはこちら。

 まずはこの長めのイントロ、大変好きです。イントロだけで3つのセクションに分けられると思うんですけど、どれもコード進行同じなのでどれか1個だけでも全然Aメロにスッと入っていけると思います。でもその中でいきなり3つのセクションを駆け抜けて結局Aメロには3つ目のセクションが採用されるというのは、なんだか冒頭の歌詞の

渋谷駅西口に60分遅れで到着した俺。
タートルネックの季節に1人熱くなって人海(ひとうみ)を泳ぐ

の情景を表しているようだなって僕は勝手に思ってます。

もしくはイントロ1つ目のセクションは、

亜空間から俺を見下ろすピラミッド。

と言ってますが、「亜空間」にいる「ピラミッド(=東京タワー)」視点のテーマソング(フレーズ)みたいな感じで曲の一番初めと一番最後に来ていて、2番目のセクションはこの曲の主人公(=Base Ball Bearもしくは小出)が「人海」を掻き分けて走る情景のテーマソング(フレーズ)で、3番目のセクションはそのまま歌詞が乗るのでその主人公の頭の中の描写がされるときのテーマソング(フレーズ)、みたいな解釈も好きです。そしてそういう解釈をすると映画好きな小出さんらしいなってことになります。

 当たり前のように「東京ピラミッド」=【東京タワー】と書きましたが、これはアルバムCの題材やジャケットイラストのモチーフになっている東京タワーの意味するところの一つに、小出さんもどこかのインタビューで言っていた「俺たちは東京のバンドとしてやっていくぞという意思」があるということから考えられます。なのでこれは僕の解釈というより小出さんによるほとんど公式の見解ですね。そしてさらに東京の人々のすべてを「亜空間から見下ろす」東京タワーは、当時駆け出しバンドのBase Ball Bearにとって聴衆やEMIなどレーベルの人々や音楽シーンそのものかと思います。

 その東京タワーに向けて

立ち止まり途方に暮れて哀愁
ため息つく顔は笑っている
人海に難破している
さらに雨でも降ればより、いい…
嗚呼、君を捜す俺を誰か見てくれているか?人々よ。
亜空間から俺を見下ろすピラミッド。
キミのために走ろうか。
演じようか。

というような言い方で心意気を示しています。「君」を見つけ出せずに「人海に難破している」この曲の主人公ですが、波はありつつも総じていえば不遇の学校生活を過ごした小出が、その闇をバネにして曲を作る感じとリンクするように思います。
 僕が特に好きなフレーズはこの引用4行目の「さらに雨でも降ればより、いい…」のところです。言ってみれば「逆境よ、不条理よ、ストレスよ、もっと来い!全て作品として昇華してやる」みたいな精神性がとてもロックで好きです。闇堕ち系の主人公みたいで中二心をくすぐられもします。

 そしてこれはまさに、湯浅失踪でもバンドを解散しなかったBase Ball Bearらしい考え方だなと思います。もちろん当時、この「雨でも降れば」の雨にメンバー脱退を想定はしていないと思いますが、とはいえどんな逆境も作品として昇華するんだというBase Ball Bearらしさはこの頃から変わらないんだなといったところでしょうか。
 僕正直、湯浅脱退後のライブは片手で数えられるくらいしか行けてないのでちゃんと情報を仕入れられていないんですが、湯浅脱退以降の光源ツアーとかC3ツアーとかでこの『東京ピラミッド』演奏されたってライブありますかね。観に行ったという方、コメントで情報をくださると嬉しいです。演奏されていたら上記のような意味合いでセットリストに組まれてたんだろうな、ってだけなんですが。演奏されていなけりゃいないで、そうでしたかってだけなんですが。

 以上です。あと最近またちょっとYou Tubeやってるので良かったら見てやってください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?