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箸休め, 「名前のない毒」

先日 村上春樹さんの『女のいない男たち』を読んだ。「木野」が印象的だった。

木野の章を読んだ日の午後、
米津玄師の『lemon』を聴いた。
 
―――

昔のことだが、自分にも好きな人がいた。年は2つ上だけど、学年は1個違い。写真を撮るのが好きで、少しカッコつけようとするけど 詰めが甘い。
そんな人間くさい所に惹かれたように思う。キャンパスが違ったのと、入っていたサークルを自分が辞めたことが決め手になって、会わなくなった。
 
でも、先輩が卒業をしてしまうというタイミングで、それを口実に連絡をとって それとなく… 婉曲的というよりは、逃げ腰に 気持ちを伝えてみた。その肝心の返答を、私は覚えていない。人間というのは案外 便利にできているようで、都合よく 記憶からそれを抹消している。ただ漠然と、相手からの返答が芳しいものでなかった事だけは覚えている。
 
そうして 未練がましくも、去年の暮れ また連絡を取ろうとした。けれど、相手からの返信が途絶えた。「記憶から抹消する」という自己防衛的な機能が、今回は 悪く作用してしまったのではないかと知人から教えてもらって、時間差で納得したのだった。
 
実際に、自分が先輩と一緒にいた時間というのは
サークル活動中のごく僅かな時間に過ぎない。
ただ、如何せん 受け止めきれない。
自分も、そして 先輩もそうだったのかもしれない。
 
―――

正しく悲しむ時間が きっと必要だ。
受け止めきれずに、涙だけが溢れてくるという時間があっていい。
 
だけど、社会は そんな時間を許してくれるだろうか。
この、無垢な日本で。
自分たちが深呼吸できるほどの、
嗚咽を漏らしながら大泣きできるほどの量の酸素はあるのだろうか。
 
―――

そう、これは 一個人の感想の話だ。
だけれども、「あくまで 個人の感想」にしたい訳じゃない。
両極端では、つまらないと思う。
 
それに、自分たちは透明人間でもないし、そういうキャラでもない。
曖昧で、矛盾していて、両義的。
過剰な脚色は、むしろ その醍醐味を半減させてしまう気がしてならない。
 
そういえば、あの本にも ゲイの男性は出てこなかった気がする。
 
―――

結局 今よりも幼かった私は、一体 何に苦しんでいたのか?
 
なんとなくの理解… いや、きっと 言葉だ。
「ラブソング」と聞くと、つい 異性愛を思い浮かべてしまうだろう。
(それは ゲイって聞くと、そういうキャラの、下ネタ混じりで喋りの上手い、面白い人を思い浮かべるのと似ている。)
 
どうして、そうなのか?
そういう文脈で聞く回数が多いからだ。厳密に言えば、両者は1対1では結びついていないのに。愛を謳った歌がラブソングなら、同性愛や異性愛、家族愛や兄弟愛、師弟愛や博愛、どんな形の愛であれラブソングだろう。ゲイだって、下ネタ混じりで喋りの上手い人もいれば、下ネタが苦手な人やゲイである事をネタにしない人、オープンにしていない人、必ずしも身体的な繋がりを必要とはしない人もいるのだ。
 
=====
分かり易くて、その場限りはいいだろう。
でも、そういった言葉たちは毒だ。ヒ素みたいな毒。
だけれども、名前がない。私たちを知らず知らずのうちに、苦しめる。
=====
 
どうして、そういったイメージを連想してしまうのだろうか?
脳のメモリには限りがあるからか?そうしたら話が通じやすいからか?
 
(生まれる場所や性、SOGIは誰も選べないが)
今回の場合はどうか? -- 誰も悪くないようで、多分 みんなが悪い。
 
どうして 曖昧なものを広義的なまま捉えられない、そういう機会が少ない社会になったのか?
個性がないと、分かりやすい何かがないといけないのか?
分かり易いのって そんなに大事?
 
分かり易さの反面、必ず 何か削ぎ落としているものがある。
きっと、それに無自覚なのだ。
 
昔よりかは良くなったよねって、問題を矮小化されようと
みんな 何かしらあるよねって、存在を透明化されようと
あんた一人じゃないんだよって声を、カルチャーを発信していく。
じゃないと、孤立する。
本当は 居場所はきっとあるのに、一人じゃないのに。
分かり易さは残酷だ。きっと、ありもしない線を引く行為だから。
 
―――

私たちは、至るところで線引きをされ、分けられる。
男と女、出身地、職業、血液型、身長、体重、年齢、国籍、趣味
 
林檎の色は赤だと、誰が決めた。
海の色は青だと、誰が決めた。
木々の葉っぱの色は緑だと、誰が決めた。
男は女を、女は男を好きになるのと誰が決めた。
それが普通で、そうじゃないと結婚できないって決めたのは一体 誰だったか?
 
そもそも男ってなんだ?
女ってなんだったか?
そんなに白黒はっきりつけられるものなのか?
今まで考えた事はあったか? 一度でも。
 
自分で 自分に毒を盛っていた、名前のない毒を。
自分で自分の首を絞める事なく、生きていきたい。
と同時に、真実のにおいがする言葉たちを手にして「あんただけじゃないよ、苦しんでるの」って声を上げていきたい。
 
___

よし、美味いものでも食べて 寝るとしよう。


ー筆おきー

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