詩【最悪の先の最悪】

もう潰れたのか
あくまで潰れかけなのか
まだ潰れてはいないのか
一見では判別しかねるようなテント看板

前面はほぼ破れているし
かつて内側から外側を彩っていた蛍光灯が
もう丸出しの状態になっている

あまり広くは好かれないタイプの青色を基調に
白すぎる白色の文字で何か書かれているが
数千年前の歴史的だったはずの石盤と同様
素人目に判別は難しい
それでも
腐りそうな状態でも軒先を飾ろうとしている

看板の前面はほぼ破れてしまっているので
何の商売の店なのかはわからないが
看板の側面に僅かに残った文字からは
概ねふとんの店であることが伺えた

建物の外装はトーチカのような塗装で
少し昔に多く建てられたであろう
一軒家式の住居・店先一体型の建造物

錆びついた一階のシャッター
茶色い二階の窓枠
リトラクタブル・ヘッドライト風の換気扇
ところどころ活かされているようで
居心地が悪そうに踊るトタン板 

その全ては何一つとして生を感じさせない
郷愁や過去への憧憬すらも生みようがない最悪の先にある最悪を表した時の産物

世の中で起こることや耳にする出来事を
今現在のせいにして最悪ぶって
最悪の到達点を自らの努力で更新し続けてきたような
そんな口ぶりで今をまた語り憂う
恥を知る間もなく最悪を上書きしていく

そんな時の産物であった

内側に逃げいったとて
もう書くところが無くなった電話帳からはみ出した番号のメモ用紙が
誰も手に取らない電話の前で人工の光さえも浴びることを許されず待ち続け
繋がりが絶たれた最悪は
どこへも行けずにそこにとどまって
朽ち果てられぬまま虚無に浮かぶ

昨夜は強い風の音がしていて
うねりをあげ吹き荒れた風の後の道
花壇を埋め尽くした鮮やかな黄色
銀杏の葉
側溝に滞留した薄茶色
多量の枯葉

似たようで異なる最後を迎えるであろう葉
自然に身を委ね朽ち果てていくのだろう

瑞々しいテント看板の青色と白い文字
終われないことがあまりにも滑稽で

もう潰れたのか
あくまで潰れかけなのか
まだ潰れてはいないのか
一見では判別しかねるだけなのか

もう潰れていたとしても
潰れかけだとしても
当分潰れなそうなのだとしても
時の流れに費やされたものたちが
どこまでもどこまでも宙ぶらりんになって
泣き笑いながらこちらを見ている

こんなふうになってまで
なにがたのしいのだろう?

嫌でも何でも 生きていたいものなのだよ
生きているか死んでいるかわからなくても

特別暗くも明るくもない場所で
当たり前のように在り続ける
晒され続けることに
なれていく

時が振り撒いた絶望と最悪の破片が
少しずつ突き刺さっていく

まがいものになることもなく
在り続けるのだね

最悪の先の最悪があることの方が
最悪でないなんてことがあるのかい

こんなことばかり書いて
もう横になる時間だよ

ふとんの店
くるまれて寝たら気持ちがよいだろう
くるんでくれないのは
最悪ではないから?
最悪であるから?
寝床にいるから?

最悪の先の最悪が
宙ぶらりんになっているよ

ただ虚無に浮かぶだけ

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