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武田俊インタビュー「憧れと没入のあいだで
」前編

あの人に聞いてみたい、「書く」ことの話。
今回は、インディペンデントエディターとして、媒体にとらわれない活躍を続ける武田俊さんにお話を伺いました。
※この記事は、2017年12月12日にstoneのWebサイトで公開されたものです。内容・プロフィールは取材当時のものです。

Photographs by Riko Okaniwa
Text by Rui Maruyama

武田俊
1986年、名古屋市生まれ。大学在学中に、編集者・ライターとして活動を始める。2011年、代表としてメディアプロダクション・KAI-YOU,LLC.を設立。「KAI-YOU.net」の立ち上げ・運営を手がける。2014年シティカルチャーガイド『TOmagazine』のweb版となる「TOweb」を立ち上げる。現在ライフスタイルメディア「ROOMIE」と、Instagram Storiesメディア「lute」の編集長を兼任中。右投右打。
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他者のテキストに刺激を受ける

今は複数のデジタルメディアで編集長をしていて、自分の原稿を書く時間はめっきり減ってしまいました。オフィスにいると常に誰かと話すことになるから、執筆は決まって真夜中の自宅です。重い腰を上げるコツは、書こうとしているフォーマットに近い他人のテキストを読むこと。エッセイの依頼ならエッセイ、書評原稿なら書評を読むという感じです。とくに昭和を生きた文豪たちのものは、奮い立たされます。仕事柄、膨大な情報に触れている分、情報ではなく「作品」も主体的にインプットしています。そうしないと、自分自身がつらくなっちゃうので。

 僕は、物欲が本くらいしかないんです。といっても、初版本や古典籍をあつめるタイプの蒐集家ではぜんぜんないんですけど。ほしい本であれば、古本で多少値が張っても買ってしまいます。うちはお小遣いにシビアな家庭だったんですが、かわりに本だけは欲しいものを与えられて。子どもの頃からひたすら本屋に通っていました。今も昔も変わらない習慣です。

 電子書籍と紙の本は、明確に使い分けていますね。主に、ビジネス書、新書、話題書などの、「作品」というより「情報」として認識している本はすべてKindleです。あとは巻数の多い漫画かな。最近は、50巻くらい出ている、みなもと太郎さんの『風雲児たち』をKindleで読んでいます。幕末を描くために関ヶ原の時代からはじめるっていう壮大な話で、すごくおもしろいですよ。

インスピレーションは、本の背表紙から

 紙で買うのは、家の本棚に“背表紙として必要な本”。僕はけっこう視覚でとらえるタイプの脳みそで、企画やアイデアを考えるときに、背表紙の配列や組み合わせからヒントを得ることが多いんです。そこで、木工職人の友人に特注して「常に背表紙が見える本棚」をつくってもらいました。階段状に本を配置することで、2段置きにしても奥の方の背がある程度は見える設計です。これを3台つくって、壁一面を本棚にしています。

 そういう意味では、ジュンク堂みたいな、文脈棚ではない大型書店を目的なく歩くことも僕にとっては超重要です。各フロアを順番にまわって背表紙を眺めながら「うちの本棚に必要だ!」と感じた本を、棚から1cmだけ引き出すんです。それからまた、店内を回遊する。2周目に自分が引いた本をチェックして、3周目に必要なものだけをごそっとレジへ。もちろん、買わない本はそっと戻します(笑)。「ここのゾーン、自分の棚にはないぞ」と思うと足したくなる。本を買うというより、書店の棚を自分のストレージに移動させてるような感覚なんです。

書いた文章に、誰かが反応するということ

 昨年『GATEWAY 2016 01』に寄稿したテキストは、発行人兼アートディレクターの米山菜津子さんが、僕のあるツイート ※ に反応して連絡をくれたのがきっかけでした。知り合いの編集者を通じて「このツイートを見て雑誌をつくろうと思いました。創刊号の最後に引用してもいいですか?」と伝えてくれたんです。ちょうどKAI-YOUを辞めたばかりのやや不安定な時期で、SNSなどに文章を書き飛ばしていたときでした。米山さんは素晴らしいデザイナーですが、当時は面識もなく、お仕事でご一緒する気配もまだなかった。そういうまったく違うクラスタの方が、自分の書いた文章にビビッドに反応してくれたのが印象的で「あ、書けばいいんだ」と自然に思えたんです。その後、2号目が出るときにあらためて依頼をしてくれて「歌の在りかは消せはしない」という原稿を書きました。感情がぶっ壊れそうになりながら書いた、2016年に発表した中でもとても大切なテキストです。

 今ではSNSにあまり個人的な感情を書かなくなりましたが、その分、外に向けた日記やコラムは続けていきたいなって思っています。とくにコラムは書いていると調子がいいんです。自分の感情の揺れ方や、それに対する他人の反応を確認できて。文章を記述して他者に見せることの原始的な機能ですが、すごく重要なことだとあらためて感じています。

※「なんだかすべて忘れてしまうから、どうかどうか覚えていたい。スーパーの菓子売り場で見つけたなつかしさとか、人の家のコーヒーの味、ずっと片方だけない好きなくつ下。日常は些末なことの集積でできているからかわいくて、そのログをすべてとっておけたらいいのに。君の誕生日を覚えられない。」@stakeda 2014.11.19

後編はこちら


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