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『All That We Have Now』/ Fear, and Loathing in Las Veags 10周年に寄せて【クロスレビュー】

2012年8月8日 
Fear,and Loathing in Las Vegas 3作目のスタジオアルバム『All That We Have Now』がリリース。

 

・『鳴動』| by酩酊

Fear,and Loathing in Las Vegas(以下Falilv)と出会ったのは中学2年生の秋。思えばあの出会いが今の好みを形成していることに気づく。そんな自分のルーツでもあるFalilvの2枚目のアルバム「All That We Have Now」の印象を強く残している曲について振り返ってみようと思う。

邂逅は「Just Awake」だった。視界が拡がる感覚がしたのを覚えている。自分の一生にはない色で作られた音楽だった。
「呼び覚まされた初期衝動。」爆音の鼓動が鳴り響き、それは2022の今なお鳴り止むことなない。誕生した自分、言葉は知らず声を上げ、泣きじゃくりながら表現したような歓喜、存在証明を放つ、正しく目覚めの瞬間。


「Screem Hard as You Can」感傷、しがらみ、フラストレーションを大きな肯定で昇華させる提示であった。”Clouds that have blocked the light will vanish away and sun light will shine”印象的なメロディーの目まぐるしい展開は力強くまばゆい極彩を持って鼓舞する。解放感、道は開けた。


軌跡、それが「Lei-Line」である。
専らレイラインとは”古代の遺跡には直線的に並ぶよう建造されたものがあるという仮説で、その遺跡群が描く直線をさす。レイラインが提唱されているケースには古代イギリスの巨石遺跡群などがある(Wikipedia参照)”とあるように、誕生のJust Awakeとは対を成し、現在地点を起点とし過去を指す曲になっている。「今亡き」跡を経て歩くこの道の先を指す。アルバムの構成をメタ的に読み解くと「All that We Have Now」とは、初めから終わりを紡ぐものになっているのではないか、1つの道を表現していたんだと思う。

Falilvが実世界にはない道を教えてくれた。今までの自分の知ってる音楽じゃない。と同時に邂逅を果たした自分に優越感が生まれた。そんなおこがましさすら認めてくれる鮮烈さがFalilvにあった。
好きにさせておいて、「昔の方が良かった」と言わせるものは音楽含めずとも溢れているこの頃に、それでも「こういうのが好きなんだろ?」とまだまだ魅せてくれる。

あの頃邂逅を経て産まれた「初期衝動」は今なお、鳴り止むことはない。



・『-』| by キド/strawberrytalt

9年前の夏ベガスを知った。その時には今作は世に解き放たれていた訳だ。
Fear from the Hate,Three Down Kings,ARTEMAと、ピコリーモ系のバンドの台頭著しい時代であったと思う。間違いなく新時代であったし、ジャンルのクロスオーバーも盛んな時期であった。
その中でも一際傾倒したベガス。2013年 高校からの帰路、電車の中で見たMashu(Ba)の脱退の知らせ。2018年のリーダー的存在であったSxun(Gt)の脱退、そしてKei(Ba)の死。メンバーは変われど長い間ベガスはベガスであり続けた。

そのポピュラリティに懐柔され丸裸にされ、破壊的なスクリームと楽器隊に打ちのめされる。ベガスの音楽性はキャッチーで美しいメロディーラインとエクストリームミュージックに端を発するアプローチ、その両翼を持つ。

これはいわゆるポップス全体に言えることだが、聴き心地の良いキャッチーなメロディは無慈悲に心の奥に届き、問答無用で揺さぶる。情緒もくそもなく浸食を始める、些か暴力的な側面も持つ。
つまり一見相反するかのような上記2つの音楽性は、''暴力的''という面で非常に相性がいい。その両方が一堂に押し寄せる。まるで天の高さと地の深さ、その両方が一面に見えるような、そんな景色を持つ音楽なのだ。
何も考えずに頭を振ることもできれば、細部に寄るとその美しさに気づく。
それをまとめあげ、実現するベガスの実力。テクニカルを感じさせないほどのテクニカル。技術は磨かれると透明になるを体現している。一言で表すとするならば、非常に秩序的な混沌だ。

そして彼らはその音楽性の細部に如実なように、几帳面な一面を持っている。フルアルバムの曲数を必ず11曲でパッケージしていたり、作中に度々登場するinterludeの効用。曲単体でもアルバム一枚を通して聴くことも想定した作品作り。荒々しさと美しさを横断する彼らの音楽性は細部にこそ宿る。

いつ聴いても鮮やかさは薄れず初期衝動は繰り返す 10年経っても燦然と輝く作品だ。

頭を使って分析するより先に身体が動く、ベガスの曲は何より聴いてて楽しいのが凄い。

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