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コラム「ノンネイティブの流儀」

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英語のネイティブを手本としつつも、ノンネイティブとしての身のこなしがあるのではないか。ネイティブやバイリンガルにかなわないまでも、日本語のネイティブとしてのアプローチがあってしか… もっと読む
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🍷【ノンネイティブの流儀11】【「処理水」は汚染されていないのか?】【言い換えのトリックに留意する】

2011年3月の東京電力福島第一原発事故を受け、現地の敷地内にたまり続ける放射性物質を含んだ水はいま、計画されている海への放出を前に「処理水」(treated water)と呼ぶのが、日本政府の立場です。英字版を含む日本メディアでも、それに沿った報道が一般的になっています。 私が新聞社の英字版にいたころは、何の疑問もなく「汚染水」(contaminated water) を使っていました。それがいつからか、そうしたネガティブな印象をそぎ落とした「処理水」を日本政府が使い始め

【ノンネイティブの流儀10】【接続詞 AS を「透明な接着剤」と捉える】【役割を決めつけないのが肝要】

【写真】ニューカレドニアにて(撮影・飯竹恒一) 生の英語ニュースを読み進めながら、接続詞 AS で戸惑うことはありませんか? AS で始まる節が「時」を表しているのか、「理由」なのか、はたまた「~につれて」や「比較」なのか。決め手がないまま立ち往生した末、釈然としないまま読み進めた経験はないでしょうか?  その悩みに対する私のアドバイスはシンプルです。「接続詞 AS の役割を、無理に決めつけない方が良い」というものです。 悩ましいのは、次のような例です。 For tw

📚【ノンネイティブの流儀9】【あえて「組み立て」で書き切るということ】

【写真】東京・神田駿河台のニコライ堂(撮影・飯竹恒一) 英文ライティングのあるべき形をめぐる議論でよく耳にするのが、「短文を重ねる」という立場です。関係代名詞などを駆使して複雑な文構造にするのを嫌うもので、確かに一理あると思います。 同じ議論は日本語でもあって、駆け出し記者のころ、無理に長い一文で書いていたのを、デスクが手際よく分割して仕立てていったのを、よく覚えています。 では、いま私がどう考えているかというと、少なくとも英文ライティングに関しては、やや立場が違います

【ノンネイティブの流儀8】【文法と現実のはざまで】

【写真】スペイン・マラガにて(撮影・飯竹恒一) 文法は外国語のノンネイティブにとって頼りがいのある基礎資料です。しかし、文法からはずれた現実に遭遇した時は、かえって戸惑いの原因となります。最近出会った次の英文もその一例です。  In 1941, all of Europe was either occupied, neutral or allied with Nazi Germany. 歴史を振り返れば、文意は明快です。「1941年、欧州全土はナチス・ドイツに占領された

【ノンネイティブの流儀7】【『愛は勝つ』に学ぶ『強い動詞』のパワー】

【写真】東京・お台場の自由の女神像(撮影・飯竹恒一) 「愛は勝つ」。往年のヒット曲のタイトルであるこのフレーズは、シンガーソングライターのKANさんの独特の歌声とメロディーも相まって、いまでも耳にすると一気にその世界に引き込まれます。 KAN 愛は勝つ - YouTube ある時、この場合の「勝つ」を英語で何というのだろうと考えたことがありました。直訳なら win でしょうが、芸がないと感じていた矢先、次の一文に出会いました。 "Truth will prevail.

【ノンネイティブの流儀6】【悩ましくも愉快な英訳プロセス:原文との距離感】

【写真】ブドウ収穫。フランス・ブルゴーニュ地⽅にて(撮影・飯竹恒一) 「丁寧に仕込む」。こんな一節が、かつて取り組んだ日英の翻訳案件にありました。アルコール飲料のPR用で、日本酒の杜氏が手で蒸米の感触を確かめながら、汗水たらす様子が目に浮かびました。記者時代、取材先で何度か見た光景です。 そこで、英訳の参考にしようと、世界各地のアルコールメーカーの英語サイトを片っ端からチェックし、次の表現を見つけました。 ... we brew our beer… with care,

【ノンネイティブの流儀5】【戸惑いのAPPARENT】【断定避けるニュース用語】

【写真】東京・JR渋谷駅前にて(撮影・飯竹恒一) かつて古巣の新聞社で英字版のセクションに異動になってからまもなくの頃。英文記事を仕立てるネイティブのコピーエディターに原稿を出すと、しばしば副詞の apparently が書き加えられていることに気づきました。例えば、こんなくだりです。 The prime minister apparently thought he would have the backing of the United States. 首相が米国の支

【ノンネイティブの流儀4】【英国政治に見る「男と女の微妙な関係」】

【写真】東京・JR四ツ谷駅前にて(撮影・飯竹恒一) なにも男女の機微をここで語ろうというのではありません。それはそれで悩ましい永遠のテーマですが、ここでの問題は英語。代名詞の性別です。 少し前になりますが、次のような英文ニュースの一節を目にしました。 Any resignation leaves open the question of who would succeed her and what direction they would take the fractu

【ノンネイティブの流儀3】【分詞表現へのいざない】

【写真】パリのメトロ「エドガーキネ駅」にて(撮影・飯竹恒一) 英検1級を取得して、TOEICも900点を超えたというレベルの上級学習者の方々でも、意外に苦慮しているのが「分詞表現」です。コロナ禍前にリアルなスクールで教えていた時代からこのことを痛感し、授業では意識して取り上げています。 「形容詞と動詞の両方の役割を果たす」というのが文法書でいう「分詞」の形容詞的用法の説明で、現在分詞と過去分詞があります。いわゆる分詞構文も含め、色々なパターンとそのバリエーションがあります

🌍【ノンネイティブの流儀2】【リアルな授業、一級建築士・深田さんプロデュースのアフリカ漂う空間で】

【写真】東京・目黒のトンカラスキームにて(撮影・飯竹恒一) 東京の目黒通りから少し入った庶民的な通り沿い。おしゃれなパン屋さん「ル・ビリーヌ」の隣に、一風変わった建物があります。コンパクトな住居のようで、特に通りに面した空間は何やら意味深です。事務所というにはカラフルで、どこかエスニック。実はここ、一級建築士の深田裕也さん(42)が自ら手がけたご自宅で、1階仕事場をさまざまなイベントができるオープンスペースとして位置づけているのです。 名づけて「トンカラスキーム」(Ton

【ノンネイティブの流儀1】

【写真】パリ・ダゲール通りにて(撮影・飯竹恒一) 英語のネイティブを手本としつつも、ノンネイティブとしての身のこなしがあるのではないか。ネイティブやバイリンガルにかなわないまでも、日本語のネイティブとしてのアプローチがあってしかるべきだ。かつて朝日新聞が紙媒体として発行していた英字版(旧朝日イブニングニュース)で日々、英文記事を書きながら、自分に言い聞かせていたことです。 ノンネイティブとして商品になる英文を書くことは、無謀なことだという絶望感が出発点です。日本語ではひと