フルマラソンの準備としての長時間走(長距離走)とウエイトトレーニング

フルマラソンシーズンが概ね終結する春先になると、来シーズンのフルマラソン挑戦に向けて市民ランナーからアドバイスを求められることが多くなりますが、自身の経験を踏まえたアドバイスとして長時間走(基本的には3時間走)をお勧めするようにしています。

フルマラソンの準備として3時間走をお勧めしている理由の背景に確固たる科学的根拠はないのですが、自身の経験として3時間走に取り組み始めてからサブスリーを達成することが出来ましたし、フルマラソンに関連する先行研究を踏まえて考察すると、3時間走の効果や意義なるものがあるのではないかと考えておりますので、今回はフルマラソンの準備としての長時間走の意義等について考察してみたいと思います。

●フルマラソン競技中の身体の状態

フルマラソン競技は42.195kmを如何に速く走るかを競う競技であり、トップランナーにおいては2時間程度、市民ランナーレベルでは4時間~5時間(場合によっては5時間以上)程度、身体を動かし続けなければならない過酷な競技であるといえます。

実際に、マラソンレース中の心拍数は最高心拍数の80-90 % にも達することが報告されており(Billat VLら,2012)、走動作によって繰り返される接地において伸張-短縮サイクルの連続よって筋損傷が生じることが報告されている(Sanchez LDら,2006)ことから考えても、フルマラソン競技が過酷であることに疑いの余地はないといえるでしょう。

特に、市民ランナーにおいてはレース中の平均ランニングスピードはそれ程、高いレベルではなくレース中の心拍数もそれ程、高いレベルに達することがないと推察されることから呼吸循環器系にかかる負担よりも、繰り返される接地に伴い生じる筋損傷の方が大きな身体的負担になっているのではないかと考えられます。

●マラソンレースで生じる筋損傷と長時間走トレーニング

先行研究によれば筋損傷とは筋線維および結合組織の形態学的変化および炎症反応である(Sanchez LDら,2006)と捉えることができますが、筋損傷がランニングエコノミーを低下させること(Braun WA, Dutto DJ,2003)、最高走速度を低下させること(Chrismas BCら,2017)が報告されており、フルマラソンレースで生じる筋損傷はレース後半におけるランニングスピードの低下や筋や関節組織の痛みを引き起こす可能性があると考えられます。

そして、市民ランナーの多くが経験するといっても過言ではないレース後半の下半身のトラブル(脚が痛い、等)の原因は、この筋損傷が関係していると考えられ、この筋損傷を如何に少なくするかがフルマラソン挑戦に向けての重要な鍵になるのではないかと考えています。

先行研究によれば、フルマラソン経験が豊かなランナーにおいてはフルマラソンレース後の筋損傷が少ないことが報告されており(Karstoft Kら,2013)、また、「繰り返し効果」と呼ばれる筋損傷の抑制効果があることがしられ、事前に同様の運動をすることによって筋損傷が抑制されることが報告されている(McHugh MPら,1999)ことから、フルマラソンレース前に長時間走を実施することによってフルマラソンレースによって生じる筋損傷を軽減できるのではないかと考えられます。

自身の経験ではありますが、実際に長時間走を重ねるにつれ、また、レース経験が増えるにつれてフルマラソンレース中およびレース後に感じる筋のダメージが軽減されたと実感しており、長時間走によって筋損傷抑制効果が得られたのではないかと推測しています。

これらを踏まえてフルマラソンの準備として3時間走をお勧めしている訳ですが、長時間走として3時間という運動時間を設定している明確な理由はありません。場合によっては2時間走でも90分走でも良いのかもしれませんし、また、ランニングスピードの操作をすることによって更に効率的な準備ができる可能性もある訳ですが、自身の実感としては2時間を超える辺りから身体状態の明らかな違い、特に、筋のダメージ具合に大きな違いを感じたことから、また、レースシミュレーションという意味合いも含め3時間という時間設定に至りました。

従って、長時間走として3時間という時間設定に明確な根拠はないともいえるので、市民ランナーにアドバイスする際には、3時間を目安に60分走から段階的に走時間を漸増させ身体状態に大きな変化が実感できる走時間を設定してもらうようにしています。

参考:フルマラソンの準備として60分走を勧める理由はこちら

●フルマラソンレースで生じる筋損傷を抑制するための更なる工夫として

フルマラソンの準備として長時間走をお勧めする理由は上述した通りですが、長時間走は時間効率を考えると非効率であるともいえますし、また、身体に大きな負担をかけることになるといえるので更に効率的な工夫が必要であることも否めません。

先行研究によって、ダウンヒルランニングやウエイトトレーニングによって生じる筋損傷がランニングエコノミーが低下することが明らかにされている(Chen TCら,2007/Burt Dら,2013)ことから考えれば、フルマラソンレースで生じる筋損傷を抑制することを目的とした場合、このような手段を選択することで更に効率的な準備ができるといえるかもしれません。

特に長時間走とウエイトトレーニングの併用は非常に効率的な手段になるのではないかと考えています。

ウエイトトレーニングによって下半身の筋力を向上させておくことは最大化運動時の余力を生み出すことになり、フルマラソンレース中に繰り返される接地によって生じる筋損傷を抑制できることが期待できると共に、フルマラソンの準備として長時間走を実施する際の身体の負担を軽減できることも期待できるといえます。

参考:筋力が向上すると最大化運動時に余力が生まれる

以上を踏まえ、来シーズンのフルマラソン挑戦に向けての準備として長時間走とウエイトトレーニングに取り組んでみては如何でしょうか!?

参考:フルマラソン挑戦とウエイトトレーニングの関係

参考文献:

(1)Billat VL, Petot H, Landrain M, Meilland R, Koralsztein JP, Mille-Hamard L. Cardiac output and performance during a marathon race in middle-aged recreational runners. ScientificWorldJournal 2012: 810859, 2012.
(2)Sanchez LD, Corwell B, Berkoff D. Medical problems of marathon runners. Am J Emerg Med 24 : 608-615,2006.
(3)Braun WA, Dutto DJ. The effects of a single bout of downhill running and ensuing delayed onset of muscle soreness on running economy performed 48 h later. Eur J Appl Physiol 90 : 29-34, 2003.
(4)Chrismas BC, Taylor L, Siegler JC, Midgley AW. A reduction in maximal incremental exercise test duration 48 h post downhill run is associated with muscle damage derived exercise induced pain. Front Physiol 8: 135, 2017.
(5)Karstoft K, Solomon TP, Laye MJ, Pedersen BK. Daily marathon running for a week—the biochemical and body compotional effects of participation. J Strength Cond Res 27 : 2927-2933, 2013
(6)McHugh MP. Connolly DA, Eston RG, Gleim GW. Exercise-induced muscle damage and potential mechanisms for the repeated bout effect. Sports Med 27 : 157-170, 1999.
(7)Chen TC, Chen HL, Wu CJ, Lin MR, Chen CH, Wang LI, Wang SY, Tu JH. Changes in running economy following a repeated bout of downhill running. J Exerc Sci Fit 5 : 109-117, 2007.
(8)Burt D, Lamb K, Nicholas C, Twist C. Effects of repeated bouts of squatting exercise on sub-maximal endurance running performance. Eur J Appl Physiol 113: 285-293, 2013.

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野口克彦

マラソン/トライアスロン

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