「鉛直スティフネス」という視点から長距離走競技選手がウエイトトレーニングに取り組むべき理由を考える。

従来、長距離走競技は何より如何に多くのエネルギーを産み出せるか、が重要であると考えられていたことから最大酸素摂取量の高さが重視され、長距離走競技パフォーマンスを向上させるために最大酸素摂取量を高める(トレーニング)方法に関する研究が数多く行われてきました。

ところが、近年では長距離走競技パフォーマンスを向上させるために、如何に多くのエネルギーを産み出せるか、は勿論のこと、産み出したエネルギーを如何に走速度に換えられるか、その走速度を如何に維持するか、が重要であると考えられるようになり、いわゆるランニングエコノミーが重視され、ランニングエコノミーに関する研究やランニングエコノミーを改善する(トレーニング)方法に関する研究が目立つようになってきました。

最大酸素摂取量に関する研究や最大酸素摂取量を向上させるための方法に関する研究に比べ、ランニングエコノミーに関する研究やランニングエコノミーを改善するための方法に関する研究は十分であるとはいえませんが、最近では、ランニングエコノミーに関係する要素として下肢の伸張-短縮サイクル運動が重要であることが示唆され、長距離走競技パフォーマンスを向上させるために、下肢の伸張-短縮サイクル運動の遂行能力を高めるためのプライメトリックトレーニングウエイトトレーニングが重要であることが示唆されています。

●スプリング-マスモデルにおける「鉛直スティフネス」

ところで、McMahonとChengは身体質量を質点、下肢をバネと仮定したスプリング-マスモデルによって伸張-短縮サイクル運動のメカニズムを検討することを報告し(1)、このスプリング-マスモデルでは(脚の)接地時の地面反力を身体重心変位で除することによって表される「鉛直スティフネス」を下肢のバネ能力の評価に用いていますが、最近の幾つかの研究によって鉛直スティフネスが高い程、ランニングエコノミーに優れ、長距離走競技パフォーマンスが高いことが示唆されています。

これらのことから、ランニングエコノミーを改善し長距離走競技パフォーマンスを向上させるためには鉛直スティフネスを高めることが重要になるといえますが、鉛直スティフネスは地面反力を身体重心変位で除することによって表されることから、鉛直スティネスを高めるためには「地面反力を大きくする」「身体重心変位を少なくする」「その両方」という3つのアプローチが考えられます。

●鉛直スティフネスを高めるために。。。

鉛直スティフネスを高めるために、「地面反力を大きくする」「身体重心変位を少なくする」ということに関して、オリンピックリフティングを含むウエイトトレーニングが大きく貢献すると考えられますが、特に基本的なウエイトトレーニングは身体重心変位を少なくすることに大きく貢献することが推察されます。

すなわち、基本的なウエイトトレーニングによって下肢筋力を強化することで接地時に身体重心位置を(ある程度)維持出来る、すなわち、接地時の身体重心変位を少なくすることが出来るようになるといえる訳です。

更に、基本的なウエイトトレーニングによって十分な下肢筋力を獲得した上で、オリンピックリフティングエクササイズを実施することで地面反力を大きくすることが可能になると考えられます。

オリンピックリフティングエクササイズを実施する上で重要になるのは、大きな地面反力を産み出し、力積を増大させるために、十分な下肢のトリプルエクステンションを達成することであり、オリンピックリフティングエクササイズで十分な下肢のトリプルエクステンションを達成するために基本的なウエイトトレーニングによる下肢の筋力強化が不可欠になるといえます。

従って、基本的なウエイトトレーニングはオリンピックリフティングエクササイズで十分なトリプルエクステンションを達成させることを目掛けたものでなければならず、必然的にターゲットとなるべき筋群ならびに、そのフォームは明確なものになるといえるでしょう。

以上が、陸上長距離競技選手がオリンピックリフティングを含むウエイトトレーニングに取り組むべき理由であり、陸上長距離競技選手がウエイトトレーニングに取り組む上で重視すべきポイントになりますが、返す返すウエイトトレーニングならびにプライオメトリックトレーニングは、適切かつ優秀なS&Cコーチの下で実施することを心から願います。

●まとめ

・長距離走競技パフォーマンスを向上させるためには、如何に多くのエネルギーを産み出せるかを考えることは勿論、産み出したエネルギーを如何に効率良く走速度に変換させるかを考えることが重要。
・産み出したエネルギーを如何に効率良く走速度に変換させるか、を評価するための指標として「ランニングエコノミー」が用いられている。
・ランニングエコノミーに影響を及ぼす要因として下肢のバネ能力が注目され、そのバネ能力はスプリング-マスモデルにおける「鉛直スティフネス」で評価することが出来る。
・鉛直スティフネスが高い程、ランニングエコノミーに優れ、長距離走競技パフォーマンスが高いことが報告されている。
・鉛直スティフネスを高めるために、オリンピックリフティングを含むウエイトトレーニングならびにプライオメトリックトレーニングが不可欠。

参考文献:
(1)McMahon, T. A. and, Cheng. GC.:The mechanics of running:How does stiffness couple with speed. Journal of Biomechanics, 1990,2(31):65−78.


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野口克彦

マラソン/トライアスロン

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