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クリスマスじゃないのに 花の名は。Vol.6

早春、うつむき加減に咲く地味な(※少し昔の話)花があります。クリスマスをとうに過ぎ、バレンタインでまた世が浮かれる頃から、バラに似つかない(※これも少し昔の話)その花が咲きます。その花をなぜか、クリスマスローズと人は呼ぶのです。しかしそれは日本人だけらしいです。

ある年の3月、家族で訪ねた大型園芸店にクリスマスローズ売場がありました。息子(当時小学校高学年)の一言。「今はクリスマスじゃないのに、なんで、クリスマスローズなの?」。当然の疑問です。不思議なんことに慣れてしまうと、気にならなくなります。

この花のグループはキンポウゲ科ヘレボルス属。そのなかで一番早く咲くニゲル種はクリスマス頃から(気候により年明けになることも)、野において開花します。冬枯れに大ぶりの白い花は目立ちます。バラに似ているかどうかではなく、その場における主役になる花の意味でローズの存在感です。欧米ではこのヘレボルス ニゲルだけをクリスマスローズと呼ぶそうです。

他のオリエンタリス種などいくつかの原種とそれらの交配種は、開花時期の違いからレンテンローズと称されています。ところがレンテンと言われてもいつのことやら? 日本ではほとんど通じません。

そこでいつしか日本人だけヘレボルス属を一纏めに全部クリスマスローズ呼ぶことになりました。専門家や愛好家の一部にはこれを嫌い学名のヘレボルスを使う向きもあります。あるいはハルザキクリスマスローズを和名にしようとして、実際にいくつかの図鑑にそう書かれています。

春に咲くクリスマスのバラって・・・。ただのバラと違うんかい! ツノゼミというマイナーな昆虫のグループに、ツノナシツノゼミって矛盾した種類がいることを知り、大ウケしたことを思い出しました。セミじゃないんかい!

国際的あるいは科学的に「正しい名前」を標準和名として定着させようという関係者の努力は、中途半端に霧散している感があります。

うつむき加減に咲く地味な、バラには似つかない花だったこの仲間は、20世紀の終わりくらいから飛躍的に品種改良が進みました。現在では、横向きないし上向きに咲く、明るくくすみがない派手めの色、八重になり全体として丸みを帯びた、バラと見まがうような品種も身近になりました。

日本では1990年代からずっと人気が続いていて、毎年各地で展示会、即売会が盛大に開かれます。2024年時点でも、その名称はことごとく「クリスマスローズ展」「クリスマスローズ展示即売会」等々。「ヘレボルス展」は寡聞にして存じませぬ。数年に1冊ペースで出版されるヘレボルス本(園芸書)のタイトルにしても、すべてクリスマスローズ。

ということで、この国ではこの先も永久に、「春に咲くのになんでクリスマスローズ? バラの仲間なの?」「 それはね、」っていう会話が続くのです。会話のきっかけがあることは、悪いことではないのかも。

クリスマスローズ ニゲル

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