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たつ吉くんの紅葉狩り

 電車に揺られ、僕らがたどり着いたのは一面に広がる紅葉の景色でした。
小さな彼は、僕の手の上に乗り、まじまじと紅葉を眺めます。

「去年は奥多摩まで行ったもんね!懐かしいね!」

 そう、彼の紅葉狩りは龍生2回目。
あの時とはまた違う風景にうっとりしています。
真っ赤になった紅葉が沢山視界に広がり、まだ明るい時間なのに、夕焼けのように視界を埋めていきます。

 手のひらの上でたつ吉くんは「お団子があればいいのになぁ」とぼやきました。
どうやら花より団子、紅葉よりお団子の様子。
僕はくすりと笑いながら、「後でお団子屋さんに行こうか」と彼を肩の上に乗せました。
 
「みたらし団子がね、いいんだよ!あまじょっぱくて美味しいんだよ!」

はいはい、わかったよ、と返しながら、目的地のお団子屋さんに向かい始めます。
 
 真っ赤な紅葉がはらりと一枚落ちてきました。
人には小さくても彼らには大きな一枚。たつ吉くんはそれを取るために飛び立ち、上手にキャッチして肩に戻ってきます。

「見て、綺麗だねぇ」

 顔に近づけてキラキラした目で紅葉を眺めます。そんなたつ吉くんが可愛くて、つい頭を撫でてしまうのです。

「なぁに?」
「何でもないよ」

 何でも無い日の、なんてことない日常のひととき。
それをこっそり噛み締めて、僕とたつ吉はお団子屋さんに向かうのでした。

 たつ吉くんがみたらし団子以外のお団子に目移りしてしまうのはまた別のお話。

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