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『STUDIO ZOONは、ほかの編集部やWebtoonスタジオとどう違うのか』ZOON作家さんに聞いてみた!

クエリエイターの採用を進めるべく開始したコンテンツスタジオ「STUDIO ZOON」のスペース第4回を配信いたしました!
今回のテーマは『編集長ラジオ〜ZOON作家さんの声編〜』。
第2編集部の編集長を務める村松と、第1編集部の編集長を務める鍛治の2名が、事前アンケートでいただいた作家さんからのコメントにお応えしています。さらに、前回のスペースで寄せられた質問にも回答しました。第4回では作家さんからの声を通し、両者の作品づくりへの想いが語られています。

\スペースはこちらからいつでもご視聴いただけます/

\第1~3回の配信の内容はこちらにまとまっています/
第1回:https://note.com/studiozoon/n/n6913ec34b8ca
第2回:https://note.com/studiozoon/n/nca38225763a4
第3回:https://note.com/studiozoon/n/n048b2775f489


1 作品をつくる責任の重さは作家も編集者も一緒

村松 みなさん、こんばんは。STUDIO ZOON 第2編集部 編集長の村松充裕です。本日は、STUDIO ZOONスペース第4回目です。このスペースは、三者三様のバックボーンを持つ我々編集長同士の対談をはじめ、そのほかのメンバーやゲストをお招きしながら、STUDIO ZOONの紹介や採用などを中心に、そのときどきのテーマを設けてお話しする場となっています。今回は、村松と鍛治でお送りしますので、よろしくお願いします。

鍛治 第1編集部 編集長の鍛治健人です。よろしくお願いします。

村松 第4回は『STUDIO ZOONは、ほかの編集部やWebtoonスタジオとどう違うのか』についてお話しします。このテーマで、いまSTUDIO ZOONで一緒にお仕事をしている作家のみなさんに事前アンケートをとらせていただいたのですが、そのなかからいくつかのコメントを紹介させてもらいつつ、アレコレとお話しできたらと思います。では早速、1つ目のコメントを紹介します。

「作家が大事にしたい軸を元に、どうすればより面白くなるかを一緒に考えてくれるところ。これまで売れるためや仕事を得るために、作家性よりは編集者の意向を聞くという仕事の仕方をしていたのですが、ZOONさんでのお仕事はもはや妥協を許されない空気感があるので、非常にやりがいがあると思ってます。」

鍛治 うれしいですね。僕らもそういうつもりでやっているし、そういうふうにできたらいいなと思っているので、素直にうれしい。

村松 1つ目からいきなりこの話を取り上げるのは、濃いなと思っているのですが(笑)。売れるために編集者の意向を聞くような仕事のやり方に「うむ、なるほど」と感じる部分があります。僕が在籍していたモーニング編集部でいえば、『モーニング』で売れるためにどういう作品を描けばいいのかは、媒体ごとの読者層や、その媒体だからこそ得意な作品づくりなど、読者や媒体を意識するのは当然あるとは思うんですけど。

電子系の場合だと読者がより見えやすくなるから、「このターゲットに向けて描いてください」「このターゲットが好きなのはこれです」といった、顧客ありきの販売戦略が強くなりすぎることが多くなっちゃう。Webtoonでもそういう部分があって、作家さんが売れるために仕事をするのであれば「ランキングの上位に入っている作品と似た作品をつくればいい」「ランキングに入らないジャンルの作品はつくらないでほしい」と、編集者がはっきりと提案するのは当然あり得る。でも僕らSTUDIO ZOONとしては、もちろん市場を見ることも大切にしているのですが、それだけでは今いる読者が喜んで終わりになってしまうから、広がらないんです。

ホームランを狙うためにはどうしても作家さんを軸に作品づくりを考えないといけない。だから、作家さんファーストで仕事を進められるように気をつけています。鍛治さんは、作家さんを軸にした仕事のやり方についてどうお考えですか?

鍛治 作家としても活動している僕からみても、「編集者のために作品をつくる」というのは違う気がします。でも、編集者が面白いと思わないと、自分の作品が世に出されないのは事実。僕が作品をつくるときは、僕と並走してくれる編集者が「何を好きなのか」「どういうときに面白いと感じるのか」「どういうときに共感できないのか」を重視しています。編集者も一人の人間なので、好みがある。だからこそ「まずこの人に面白いと思ってもらおう」「この人が面白いと思ったものを目標にしよう」といった、ある程度の明確な指標の一つにできるんです。

あと、誤解を招かないようにしたいのですが、STUDIO ZOONは作家さんが描きたいものだったらなんでも許されるところじゃない。いまのWebtoonの市場で読まれているものを追うことも大事ですし、作品がつくられる過程にも編集者や着彩師がいることを忘れてはいけないと思うんです。たくさんのスタッフが作品を押し上げようとがんばっていくなかで、作家だけがやりたいことを詰め込むと、周りがついていけなくなって作品を好きになれなくなる。周りで支えているスタッフのみんなと作品をつくっていることを意識するのは大事

僕たち編集者は、「作家が好きなものを好きなように描く」というよりは、「誰に向けて描いて、どのような見え方をしているのか」を考えながら作家さんと向き合っているつもりです。その点は、ニュアンスの問題もありますが、STUDIO ZOONは作家さんが好きなものを好き勝手描いていいところ、という認識は違うかなと。このテーマ1つでスペースを配信できるのではないか、というくらい深い話ですよね。

村松 いまのお話を聞いて、「熱意のドミノ倒し」の話が思い浮かびました。作家としてまず担当編集者を熱く感動させられたら、「こんなすごい作品があるんです」と作品が次々と紹介されていって、販売部、宣伝部、編集長の3枚のドミノが倒れる。その結果、販売部の人が作品をすごいと熱心に紹介すれば、書店員さんにもその熱意が届く、というように ”熱意” がドミノ倒しされていくんですよね。3枚のドミノの奥にはもっとたくさんの人がいて、倒されるドミノがどんどん増えていく。でも、まずは作家さんの目の前の編集者のドミノを倒さないと熱意が広がっていきません。目の前の1つのドミノが倒れたとき、その先で100万のドミノが倒れる可能性もあるわけで。

でも、例えば「不倫ものを描けば10万部は売れます、そういうマーケットデータがあります」と編集者が口では言ってるけど、当の編集者自身が「不倫ものが好き!」と思ってなさそう、というのは気持ち悪いですよね。のっぺらぼうと一緒に顔の見えない10万人に向けて作らなきゃいけない、みたいな。逆に目の前の編集者が「不倫ものがすごく好き!」と言っていたら、作家側が「この人を喜ばせたい。よし、描こう。どんなの描いたら喜ぶかな。この人が喜ぶ作品だったら売れるんじゃないか」と思えたら、仕事として楽しいし、「編集者の意向を聞いている」という感覚にならないんじゃないかな、と思うんです。

鍛治 わかります。最近、すごくタイムリーな出来事があって。ちょうど着彩工程に入っている作品があるんですけど、着彩を担当している子と、僕の下で作家担当になっている編集者が、着彩の工程が終わって「すごくいい色が入りました」と見せに来てくれたんです。でも、それを見ても僕はピンとこなくて。「めっちゃいい!」とはならなかったんですよ。さらに言えば、色を入れる前の線画のほうがよかったと思った。ところが、二人は「すごくいい」と言うし、なんだったら「作家さんの希望通りの色を入れられました」と誇らしげだったんです。

STUDIO ZOONの場合は完全分業制ではないぶん、着彩師と作家で「その作品に合う色はなんだろう」と模索しながらつくっていて、着彩に関するやりとりや工程はちゃんと踏んだあとでした。でも、どこかで「作家の作品だから、作家がやりたいことをやる。作家がこの色がいいというものが正しい」という雰囲気ができてしまった。僕は、この雰囲気が危ういと思ったんですよ。

村松 うんうん。

鍛治 僕はその作家さんと付き合いも長くて、作家さん自身もめちゃくちゃ好きだし、その作品もすごく面白いんですよ。でも、作品づくりでさまざまな人間が関わっていくなかで、作家を満足させるためにものづくりをするのはニュアンスがちょっと違う。作品って、つくったとしても全部が大成功するとは限らないわけじゃないですか。この作品が売れなくて、ぜんぜん人気が出なかったときのことを考えると、もしかしたら、この着彩師と編集者は作家のせいにするかもしれないんですよね。だって、作家が「これがいい」って言ったんだもん。

村松 わかるなー、それ!

鍛治 「それは違うだろ!」って思うんです。作家を支える人には「自分たちも作品づくりにかかわっているから、自分の作品でもあるぞ」と言ってほしいし、作家に対しても「俺らにも責任を持たせてくれ。作品をつくる責任を一緒に背負わせてくれ」と伝えたい。思うような結果が出なかったとき、作家のせいにはしたくないので。そこはこれからも大事にしたいですね。でも、この着彩の件をきっかけにSTUDIO ZOONとしていい経験ができたなと思っています。

村松 また一段、経験値が上がっていますもんね。鍛治さんのお話を聞いて「なるほど」と思った点があって。さっき「編集者の意向を聞く仕事のやり方が嫌だった」という話がありましたが、この編集者の意向を聞いた作品が仮に失敗したら、編集者のせいになるってことですよね。

鍛治 そうなんです。

村松 同じように、僕らが作家の意向だけを聞いて自分の意向を示さないと、失敗は作家のせいになっちゃう。これは両方とも不健全。作家さんと編集者のどちらかが自分の顔を見せないまま仕事をしてしまうと、責任を放棄することに繋がってしまう。お互いに顔を見せたとき、はじめて両方に責任が生じる。その状態であれば、作品がうまくいかなかったとしても「お互いに良いと思うものはやった。次いこ、次」と前を向きやすくなりますよね。

鍛治 面白いと思える作品をつくっても、大ヒットにならないことが多い。大ヒットにならなくても「もう一回、一緒に仕事しましょうよ」って言いたいですね。

2 高い報酬や印税率にしているワケ

鍛治 それでは、2つ目のコメントを紹介します。

「作家に対しての報酬・印税率が高い。編集者さん含めSNSでの発信しているので内情がわかりやすく、参加しやすい。」

村松 褒めてもらえるようなコメントを、僕らが選んでいるみたいですね(笑)。

鍛治 本当に(笑)。

村松 でも、これは事実。すごく高いというよりは、出版社と仕事をするのと同レベル以上にはしてある。報酬については応募フォームにすべて記載しているので細かいことは省きますが、Webtoonのなかでも高いほうですし、出版社と一緒に仕事をしている作家さんにも気兼ねなく声をかけられるような原稿料になっています。ロイヤリティに関しては、どのプラットフォームでも15%が戻ってくるというのも、電子系のなかでは高めだと思います。なぜ高めの数字に設定しているのかというと、出版社で横のマンガを描いている作家さんにも、Webtoonでの作品づくりに気軽に参加してもらえるようにしたいからです。

※作家さんの応募フォームはこちら

鍛治 この点は、村松さんが編集長になってから一番最初のほうに言っていたことですよね。

村松 編集長に就任してから一週間目くらいで決めましたね。

鍛治 ここも、まあ、いろいろありましたね。どこかの機会で話したいですけど(笑)。

村松 (笑)。いろいろありましたが、いまの体制をスムーズにつくれたのは、この会社のすごいところだなと思いました。僕がSTUDIO ZOONに来る前に想定していた契約と、いまの契約はだいぶ違うんです。その違いを通すには、ほかの企業だと役員会を何度も開いたり、いくつかの部署に根回ししたりしなきゃいけない。でも、この会社ではたった一人か二人に話をしただけで変えられたので、それはすごくよかったです。

鍛治 そもそも、僕らのスタジオ自体が生まれたての状態だし、Webtoon業界そのものも未熟な部分がある。転んでから気づくことがたくさんありますけど、それでも立ち上がって前進するスピードが早い

村松 早いですよね。そのスピード感は本当にすばらしいと思います。ということで、次のコメントを読み上げます。

「担当さんが丁寧に相談にのってくださるので、書き進めるのに迷いがなくありがたいです。良いものを作るためには手間も時間も惜しまないという雰囲気があるので、細かい部分も相談しやすいです。」

本当にありがとうございます。ただ、一方では「ちょっと時間をかけすぎじゃない?もっとサクサクやってええんやで」という意見もいただいています。STUDIO ZOONが準備中の段階だから丁寧にできている部分があると思うし、これが週刊ペースになれば、編集のリソースがもう少し必要。だからこそ、編集者の採用を進めているので、僕らのスペースを聴いて下さった方からのご連絡が増えるといいなと思います。

3 Webtoonだからこそできるジャンルを開拓したい!

村松 次のコメントを紹介します。

「ミリ単位で調整や提案を入れてくれる」

鍛治 そうですね。変な話、当たり前っちゃ、当たり前なんですよね。当然、その作品が面白いと思っているからつくっているので。「こうやったら、もっとよくなるんじゃないか」「もっと面白くなるんじゃないか」「もっと伝わりやすくなるんじゃないか」という点は、僕らに限らず編集者みんながめちゃくちゃ考えるようにしています。ミリ単位の調整や提案というか、思ったことを話している感じですね。

村松 あと、Webtoonだからミリ単位になっちゃう部分はあるなと思っていて。横読みのマンガだと、ネームの調整をするときは「このページのコマを前のページに送って、この1コマを削りましょう」と、割とパズルゲームのようにできる。でも、縦読みのWebtoonで調整する場合は「間がほしいな」「余白を1cmあけて、吹き出しの位置はもう少し下で」という、ある種の細かさが出るんですよね。

鍛治 たしかに。よく考えると、横読みのマンガの場合、セリフの位置を細かく指摘することはあまりないですよね。

村松 そうですよね。でも、新人作家さんの場合、ページマンガだとしても最初は吹き出しの位置や置き方があまりよくないケースもある。そういうときは、コマ割りの入れ方を何ページか細かめに伝えて「こんな感じで全体を気をつけてください」ということを、何回か繰り返すうちにスムーズにできるようになってくるんです。そのうえで「連載ネームを細かく直していきましょうか」とステップを踏めるので、ある程度ベースが整えられてからスタートできる。だからそこまで細かくならないんですよね。
それでは、次のコメントを紹介します。

「作家が書きたいものを尊重してくれる所が嬉しい」

さっき、STUDIO ZOONが作家さんの描きたいものを必ず描ける場所ではない、という話をしましたね。

鍛治 とはいえ、ジャンルでいえば、面白いと思ったら基本的になんでも採用します。「このジャンルにしてください」と作家さんに強く言うことはありません。

村松 そうですね。さっきも言った通り、現状のWebtoonはウケているジャンルが狭いところがあるじゃないですか。僕らも作家さんに「この人気ジャンルをやりませんか?」と提案することはありますが、基本的にはそのジャンルをやりたいと言ってくれる作家さんと仕事をしています。やりたくない人に、ジャンルを強制することはないですね。あと、できれば新しいジャンルに挑戦して最初の果実をとりたい気持ちはあります。

鍛治 めちゃくちゃわかる!

村松 すでに拓けている畑にタネを蒔くのもいいのですが、「この畑を開拓したい」という気持ちがずっとあるんですよ。新しく開拓したうえで、実った果実を最初に食べたい。それを実現するために、ジャンルを拡張するような作品や、全く新しいジャンルの作品にも挑戦しています。

鍛治 どこかのタイミングで村松さんがおっしゃっていたんですけど。元々ウケているジャンルだけじゃなくて、ジャンルの幅を広げるような作品に挑戦する理由を「僕らじゃなくても、それは誰かが勝手につくってくれるから」と。本当にその通りだなって。「なんで僕らがWebtoonをやるんだっけ?」「なんでマンガ畑にいた僕らが、いまこれをやるんだっけ?」と立ち返ると、ジャンルを広げるのが面白いと思っているから。そこに尽きると思います。

4 “ライブラリ” の蓄積が、よりよい作品づくりにつながる

村松 では、最後のコメントを紹介します。

「漫画を作ろうとしている事」

このコメントは「“Webtoon” というよりは ”マンガ” をつくろうとしていること」って意味ですかね。そうすると「マンガ」と「Webtoon」の言葉の違いはなんだろうという疑問が生まれますね。

鍛治 Webtoonとマンガに共通しているのは、キャラクターの在り方かな。僕らにとって、マンガとWebtoonとで根本的に違うところはあまりないですよね。マンガもWebtoonも、読者に作品を読んでもらうためには「読みやすさ」「面白さ」を重視しなければなりませんが、その部分に一番大きく影響するのはキャラクターだと思います。「マンガはこうあるべきだ」「Webtoonはこうあるべきだ」と考えるよりは、「読者が誰を応援しながら読むのか」を意識するほうが大切。

村松 以前も少しお話ししましたけど、僕がWebtoonをやるために出版社から転職したときは、ネームのことしか考えてなかったんです。まだ作家さんと打ち合わせしてもいない段階で自分なりにWebtoonを研究した結果、「ネームはできるな」と思って。そして、実際に打ち合わせをやってみてもやっぱり「できる!」と確信したんです。Webtoonとマンガは、少し勝手が違うけど、それほど大きくは変わらない。変わっている度合いでいえば、サッカーとフットサルくらいの感覚かな。でも、着彩の工程に入った瞬間、「ドカーン!」と爆発したように確信が崩れ去りました(笑)。

鍛治 (笑)

村松 着彩の工程が、マンガとぜんぜん違うんです。僕一人だったら完全に詰んでいましたが、鍛治さんがいたからなんとか切り拓けました。

鍛治 お互いに支え合いながら進めていますよね。

村松 着彩に関しては、いくつかの作品づくりに携わってきたから、さすがに「この辺を気をつければいいんだな」というポイントはわかるようになるし、改善はできるようにてきた。でも、それは「悪いところをなくせる」ようになってるだけで「より良くする」がまだできていないんです。

鍛治 「着彩のポイントを全部わかっているのか?」と聞かれたら、僕も実はわかっていないのかもしれない。でも村松さんと比べれば、引き出しの数は違うと思う。自分の引き出しを駆使しながら「こういう見え方はどうですか?」というやりとりを、何度か繰り返して着彩を仕上げています。

村松 引き出しの数は、よりよい作品づくりに直結していると思います。自分がマンガの打ち合わせをするときに「しっくりきていない」「うまくいっていない」と思うケースって、自分のライブラリのなかにある一つの理想系や完成系と合っていないことが多いんです。

たとえば、一つの作品を見るとき「このキャラクターの関係性は、あのマンガ/映画の、あれとあれの関係性に似ているな」と自分のライブラリを掘り起こして、そこから得た「このネームへの物足りなさは、あのマンガ/映画の、あの描写がないからだ」という気づきが作家さんへの提案につながる。作品に似ている部分があればそれを引っ張ってきて、相似関係のなかで足りない部分や、はみ出している部分を発見して提案すれば、大体よくはなるんですよね。

この場合は、悪い部分がなくなっているんじゃなくて、作品の魅力がさらに引き上げられている。つまり、ライブラリがある時点で、よりよいイメージができているんです。着彩については、僕にはまだ十分なライブラリがないんですよね。だから、ある色を見たときに上位のイメージがなくて。さらに言えば「あのイメージにするためには、この部分がムダで、この部分はもっとあったほうがいい」というメソッドもない。僕は悪いところをなくすための提案しかできないけれど、作品の魅力を引き上げていくアートディレクターの方や鍛治さんを見ていると「すげぇな。みんながいてよかった…」と思うんです。

鍛治 そう言ってもらえるのは、すごくうれしい。作家さんからも「感動した」「すごくいい色を入れてもらった」と言ってもらえているから、よかったと思います。いま、STUDIO ZOONの着彩を担当しているスタッフは、みんなイラストレーター。しかも、個々それぞれのレベルがすごく高いから、それで食べていけるレベルなんです。ちゃんとイラストレーターとしての自分の個性をもっているから、最初はシンプルに「マンガ家の個性と、着彩のクリエイターの個性を両方ともぶつけたら、マジですごいのができそうじゃん」と思っていたんですけど、これがまたちょっと違った(笑)。

村松 (笑)

鍛治 個性と個性が混ざりすぎて、「線画のほうがよかった」と思うことがあって。そこに気づくまでは、さまざまな作家さんからたくさんの意見をいただいたので、すごく感謝しています。

村松 たくさんのご意見をいただいたおかげで、考え方や体制など、いろいろと磨かれましたよね。

鍛治 語弊があるかもしれませんが、いま思うと早い段階で大きな岩につまずけたのはすごくよかった。いろいろなところに迷惑をかけちゃったんですけど。

村松 手探り状態だった当時を思い返すと「こんな感じで大丈夫かな。問題はないと思うんだけど」と言って進めているその手つきが、まるで火薬工場で花火を使って遊んでいるようなものでした(笑)。あとから考えれば「ストップ、ストーップ!」って止めたくなりますね(笑)。

鍛治 冷や汗が出ますよね(笑)。いやー、ドキドキした。

5 編集者と作家は、“仲良し” とは言えない!?

村松 次は視聴者の方からのご質問にお答えしたいなと思います。前回のスペースを配信したあと、アンケートをとったのですが、聴いてくださった方の7割が作家さんだったそうです。特に、作家さんとの付き合い方について、たくさんの質問をいただいたので、いくつか紹介しながら一つひとつお答えしたいなと思います。まずはこちらの質問です。

「作家さんと仲良くなるきっかけや付き合い方などがあれば教えてください」

鍛治さんのお考えはいかがですか?僕の場合は、仲良くなるかどうかで言えば、仲良くはなっていない気がします

鍛治 (笑)

村松 お互いに「いいものをつくろうぜ」と、単純に仕事をがんばっているので、仲良しなのかと聞かれたら、ちょっとよくわからない。一緒にバスケやったり飲みに行くこともありますけど(笑)

鍛治 編集者によって作家さんとの向き合い方や付き合い方は違うし、信頼関係を築く方法も違うと思うのですが、僕の場合、作家<その人を知ることを大切にしています。僕は編集者としては1年生なので、どちらかというと作家の感覚が強いんですよね。編集者1年目としての僕が頼るべき指標には、「作品を知ること」というやり方を立てていて。作品のことを知るために、作家を知る。だから、その人のことを知るための話し方や打ち合わせの仕方は、心がけています。

村松 「知る」のと「仲良くなる」のは、またちょっと違いますよね。では、次。

「作家さんたちとお仕事をされる中で苦労されたお話などうかがいたいです」

先ほどお話した、着彩の工程で個性と個性がぶつかり合うのは、まさに苦労した話ですね。あとは、作家さんが「何を感じて、何を思っているのか」といった本音を引き出す苦労は多い気がします。全員がそうではないのですが、あとから「実は、あのときはこう思っていた」と言われることもあるので。

鍛治 そもそも、人と話している段階でラクではないですよね(笑)。僕はもとから人と話すことが好きですけど、普通に考えたら、作家それぞれをよく知るために交互に人と会って一日中話せば、そりゃあ疲れる。それぞれの作家さんに合わせた言葉のチョイスや話し方を一つとっても、その人によってニュアンスとか捉え方は全く違う。伝えたいことと、伝わることって違うじゃないですか。その点は当たり前の範囲として気を遣うぶん、終わったあとは「ふぅ〜〜」と一息つきたくなるくらいは疲れますよ。

村松 そうですよね。うちの編集部は、ずっと甘いもん食べてますからね。

鍛治 お菓子の山からパクパクって、カニみたいにずっと食べてますよね。食べるスピードもめっちゃ早い。

村松 (笑)

6 作品づくりで大切なのは、リスペクトし合うこと

村松 次の質問を読み上げます。

「話せる範囲で、わたしたちがハタと我に返ることのできるような失敗談を教えてください」

たくさんありますよね。鍛治さんはありますか?

鍛治 村松さんはもうご存知ですけど、STUDIO ZOONの責任者・冨塚のお話でもしましょうか。これを上回る、ある種の失敗はないと思う(笑)。

村松 作家さんと対するなかでは、最大の失敗かも(笑)。

鍛治 冨塚はずっとサイバーエージェントで働いてきたので、出版社の人間ではない。だから、作家と向き合って話すという機会がこれまで全くなかったんですよね。このような状況のなか、僕が作家とZoomで話しているときに、契約事項の確認で事業責任者である冨塚を紹介する機会があったんですが、まず見た目が180cm以上ある大男で、金髪。そんな男がむすっとした顔で、淡々と契約について読み上げていくんです(笑)。

村松 (笑)

鍛治 僕はすぐに「やばい」って思ったんですけど。ビジネスの話を淡々と聞かされている作家側からすると「これは一体なんの時間なんだ」と感じるんですよね。通常、出版社でいえば契約について伝えるポジションは編集長で、言い方がぜんぜん違うと思うんです。冨塚の場合は、ずっと「こういうことはやらないでほしい」「こういうところは我々が権利をもっているので」という言い回しで契約内容を伝えていて(笑)。その間、作家はずっと無言。終わったあとに、作家さんからすぐに「二度とあの人を俺の前に出さないで」と電話がかかってきました(笑)。村松さんには「やらかしました」という話をしましたが、あのときは一番冷や汗が止まらなかった(笑)。

村松 その話が出るたびに、僕は爆笑している(笑)。でもこれって、出版社のなかでもよくある話。出版社の編集部員は作家さんと接し慣れていますけど、接し慣れていない、例えばライツ部署の人とかが作家さんと直接会ったときに起こりうることなんです。ライツ部署の人からすると作家さんは仕事相手だから、「厳密に接しないといけない」という誠実さを発揮しているんですけど、編集者と作家さんの関係性って仕事相手というよりも仲間である感覚が強いんですよね。そこに突然 “契約説明金髪眼鏡モンスター” が出てくると……(笑)。

鍛治 (笑)

村松 編集者と作家が「一緒にがんばっていいものをつくろう!」と熱くなっているところに「契約での権利は……」とビジネスに徹した話だけをされると「なんなんだ、この人は」と思われてしまうのは十分にあり得る、という話でした。まあ、両方大事なんですけどね。では、次の質問を紹介します。

「お仕事をしていくうえで作家に求めること、トラブル、ぶつかる壁などの実体験を教えてください」

鍛治 作家に求めることで言うと、シンプルにお互いにリスペクトし合うことだと思う。結局は、編集者も作家も人間なので、考え方や価値観も、育ってきた経緯も、好みもぜんぜん違う。どちらかの意見が強くなりすぎてもダメだし、逆もそう。編集者と作家が一緒に仲間としてものづくりをするとなると、やっぱりお互いにリスペクトし合うのは大切。それがないと、一緒に作品をつくるのは、僕には難しい。

村松 僕が加えて言うのなら、率直さと礼儀ですかね。作品をよりよくするには、厳しいことも率直に言わなくちゃいけないじゃないですか。自分の意見を相手に伝えるときには、礼儀がないとお互いによくない。率直な意見をやりとりするために、お互いにリスペクトの気持ちをもったほうがいいですよね。では、次の質問に移ります。

「ジャンルや媒体、傾向に落とした具体的に求めるコンテンツの方向性があれば知りたいです」

そういえばこの間、会社の偉い人に「どうやったら先を読ませて、グイグイと課金してもらえるような作品をつくれるんですか?」と聞かれたんですよね。

僕は「読者と主人公のシンクロ率をめちゃくちゃ上げて、読者の気持ちと同化した主人公の運命が気になるようにする」と、すごく普通に答えたんですよね。読者が「登場しているキャラクターたちの運命が気になる」と思えば、まずそのキャラクターのことは好きになっている状態だし、「キャラクターの運命を見届けるまでは読むのをやめないぞ」とのめり込むことにつながる。これはどんなジャンルの作品でも、同じように言えるかなと思います。

鍛治 たしかにそうですよね。僕も、結局は「共感」だと思います。普段、作家さんとよく話すのは「何を共感させるのか」「いま、読者さんはどういうところを面白いと思ってくれているんだっけ?」と、シンクロ率を高める作業についてです。そこに尽きますよね。

7 チームで作品をつくることへの意識

村松 最後の質問です。

「STUDIO ZOONの編集者が、実際に見聞きした作家さんの声などはありますか?」

STUDIO ZOONの作家さんたちのなかには、もともとWebtoonを描いていた方もいるのですが、ほとんどがWebtoonを初めて描く方なんです。意外だったのは、着彩の工程で作家さんが「今までは一人で描いてきたけど、みんなとチームでつくっている感じが面白い」と言う方が多いこと。実際に着彩が上がってくると、僕らも感動するじゃないですか。もちろん、作家さんは人一倍の感動があるとは思うんですけど、「一緒にやることの面白さがある」というリアクションはあまり考えてなかったんです。

鍛治 今日はありがたいコメントばかりいただいていますが、僕も着彩の工程でハッとさせられたことがあって。マンガって、最近は特にデジタルで仕上げる作家さんが多い。着彩の工程がないので、作家以外がデジタルの生原稿を触ることってないじゃないですか。でも、Webtoonはフルカラーなので、当然その生原稿にカラーを加えるわけです。そこで、反省のポイントがあって。

村松 うんうん。

鍛治 作家さんが入れた線に加筆したり、少し加工したり、もしくはちょっとだけ弱めたり消したりしながら仕上げていくんですけど。この過程で一度、作家さんの地雷を踏んで激怒させてしまった。

Webtoonはフルカラーが当たり前。フルカラーにするには、当然ながら生原稿を触らなきゃいけないんですけど、そのあたりへの考えや配慮が抜けていたんです。上がってきた着彩を見た僕は自信をもって「いい色が入った。作家さんも喜んでくれる」と思いましたが、作家さんは「ここは手を加える前のほうが愛おしかったです」とおっしゃって。それ以来、作家さんの生原稿に手を加える点は、ちゃんと意識するようにしています。フルカラーである以上、生原稿に手を加えるのは避けられないし、作家さんとはその点を踏まえた付き合い方や、普段の会話を改めてしっかり意識しないといけないと思いました。最近の出来事としてハッとさせられましたし、耳に残っている言葉ですね。

村松 難しいですよね。まさに個性と個性のぶつかり合いだと思う。作品に対しての意図がそれぞれあるから、バッティングする部分が出てきちゃう。

鍛治 「腹を割って話せた」とポジティブに考えれば、この話は決して不健全でも、不健康でもないと思っていて。お互いに言いたいことを言えないのが、一番よくない。いい作品をつくるために、作家さんからもはっきり意見を言ってもらえれば真摯に受け止めて対話しますし、着彩では「こういう意図があってこういう形にした」と言えるように、みんなで日々心がけています。

村松 思ったことをそのまま言うのも、言われるのも、両方エネルギーがいること。率直であるのは、お互いに大変なことでもありますね。でも、その末にいい作品があるわけですから。

鍛治 そうですね。

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